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北極圏で前代未聞の38℃を記録、何を意味する?

  • 2020年6月25日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 6月20日、北極圏に位置するロシア、シベリアの町ベルホヤンスクで、気温が過去最高の38℃を記録した。これを単なる突発的な出来事ととらえてはいけない。科学者たちによれば、今回の記録は地球が急速に高温化していることの証しであり、北極圏は今後ますます加速的に暑くなることを示しているという。

「ずいぶん前から、熱波のような異常気象はより頻繁になるだろうと警告してきましたが、思ったよりも早くそれが起こっているようです」と、デンマーク気象研究所の気象科学者、ルース・モトラム氏は言う。

 1885年にベルホヤンスクで記録が開始されて以来、38℃を観測したのは今回が初めて。しかも、それは一時的な暑さではなかった。原因となった熱波は、少なくともあと1週間は続くだろうと予測されている。

北極圏の温暖化はどこよりも早く進む

 北極圏は過去に一度も高温を経験してこなかったわけではない。涼しい海沿いはともかく、内陸部では夏に気温が急上昇することがある。米国アラスカ州フォートユーコンでは、1915年に初めて37.7℃を記録した。ベルホヤンスクでも、1988年に37.3℃という日があった。

 米国立雪氷データセンターの気候科学者ウォルト・マイヤー氏は、「北極圏では、毎年夏至の前後になると一日中太陽がのぼったままになります。その分多くの太陽光が降り注ぐわけですから、かなり暑くなることがあるのです」と解説する。

 だがマイヤー氏は、気候変動が高温に拍車をかけていると言う。北極圏は、地球の他の地域と比べて2倍以上の速さで温暖化が進んでいる。気温は過去100年で2〜3℃上昇した。そのうち約0.75℃は、過去10年間での上昇だ。つまり、かつてより暖かくなっているところに熱波が発生すれば、暑さはその分余計に厳しくなるということだ。

 6月の猛暑は、複数の強力な要素が重なって発生した。まず、気候変動により気温の基準値が上昇していた。また、欧州連合の研究機関が運用している「コペルニクス気候変動サービス」によると、シベリア西部では今年、史上最も暖かい春を経験していた。12月からの平均気温は、1979〜2019年の平均気温よりも6℃近く高くなっていた。

 1880年まで遡っても、ここまで高い平均気温を記録した年はおそらくなかった。通常であれば5月の平均気温は1℃だが、今年はそれを10℃前後上回っていた。人的要因による気候変動の影響がなければ、10万年に1度しか起こるはずのない現象だ。

「本当に異様なことだと思って見守ってきました。シベリア全土でこれほど長いあいだ高い気温が続くなんて。1月が過ぎて2月に入り、3月、4月になってもまだ状況は変わりませんでした」と、スペインの研究機関「バルセロナ・スーパーコンピューティング・センター」の気候科学者イバナ・スヴィヤノビッチ氏は話す。

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 長期にわたる高温の結果、シベリアの大地を覆う雪が例年より1カ月も早く解け出した。真っ白な雪は太陽の熱を反射し、寒冷な気候を保つ役割を果たしているが、その雪が消えてしまえば、色の濃い土や植物が太陽の熱をすぐに吸収してしまう。

 これに気象条件が重なり、巨大な高気圧がシベリア西部の上空に張り出してそのまま動かなくなった。そのせいで雲のない空が広がり、太陽光は遮られることなくシベリアの大地に直接降り注いだ。

「まるで上空にオーブンが居座ったかのように、空気が閉じ込められてしまったんです。こうした空気が長く留まれば留まるほど、気温は上がります」と、メイヤー氏は説明する。

北極圏各地で見られる悪循環

 こうした高温現象による影響は、近年、北極圏各地で見られるようになっている。2012年、グリーンランドでは氷床の表面の97%が融解し、氷と水が入り混じった状態になった。2016年には、ノルウェーのスバールバル諸島で、冬の間に雪ではなく雨が降った。2019年夏には、グリーンランドの氷床の雪解け期間が例年より3カ月も長く続き、大量の融解水が海へ流れこんだ。

 果たしてこうした高温の長期化が気候変動によるものなのかどうかについては、激しい議論になっている。だが、この先も北極圏で異常気象が増えることは間違いないだろう。「パリ協定」では産業革命以降の気温上昇を2℃未満に抑えることを国際的な目標としているが、北極圏の冬の平均気温は既にこの基準を超えてしまっている。年間の平均気温も、あと数十年で基準を超えると予測される。

 最も極端なシナリオによれば、2100年までにはこうした異常気象が毎年のように起きるようになると、米国の研究機関「バークレー・アース」の気候科学者ロバート・ローズ氏は語る。

 同様の現象は、南極点でも起きている。南半球で夏に当たる1月に、南極半島のある観測所では18.3℃を観測した。

 北極で温暖化が早く進むのは、「極域増幅」と呼ばれる現象による。これまでは、北極海のほとんどを覆っていた海氷が、雪と同じように太陽光を反射し、熱を宇宙へ跳ね返していた。

 ところが、温暖化によって海氷が減り、色の濃い海水面が現れると、海に多くの熱が吸収されるようになる。海水温が上昇すれば、新しい海氷もできにくくなり、さらに太陽の熱を吸収するという悪循環に陥る。

解けだす永久凍土

 今年も、既に猛暑による被害が発生している。今年6月、シベリアで燃料タンクが破損し、付近の川に2万トンの燃料が流れ込むという事故が発生した。破損の原因は、永久凍土が融解し、地盤が不安定になったためとみられている。

 ロシアの北極圏の大部分は、永久凍土に覆われている。氷の層の下には、炭素を豊富に含んだ泥炭土がほぼ一年中凍ったまま眠っている。暑さのせいで永久凍土が解け出せば、修復不能な変化が起こるだろうことは想像に難くない。

 燃料タンクの事故は、決して1回限りで済む話ではない。2050年までに数千キロのパイプライン、道路、建物、燃料タンク、油田、空港、その他北極圏のあらゆるインフラが、永久凍土の融解によって危機にさらされると、専門家は警告している。

 森林火災も深刻化している。例年よりも暖かかった春のせいで、土や植物が乾燥し、燃えやすい状態になっているのだ。ロシア森林局によると、6月前半で既に火災は4万9000平方キロに燃え広がったという。

「シベリアの各地で、途方もない量の植物が燃えています。これほど長いあいだ暑さが続くと、すべてが乾燥して非常に燃えやすくなってしまうのです」と、マイヤー氏は懸念する。

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