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世界で巨木が死んでいる、115年間で原生林の3分の1超が消失

  • 2020年6月4日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 米国カリフォルニア州に自生するジャイアントセコイアの木は3000年以上も生きることがある。幹の直径は自動車2台分に及び、天に向かって100メートルほども伸びる。しかし数年前、記録的な干ばつの中で、科学者たちは奇妙なことに気づいた。セコイア国立公園とキングス・キャニオン国立公園の巨木のうち数本が、上から下に向かって枯れていたのだ。

 キクイムシの仲間の仕業だった。

 キクイムシは北米全域で数百万本のマツを枯らしてきたが、幹や樹皮に虫除け効果のあるタンニンが含まれるセコイアの巨木は影響を受けないと考えられていた。ところが、2019年までに少なくとも38本のセコイアが、キクイムシに食い荒らされて枯れてしまった。この本数自体は多くはないものの、専門家は、気候変動による干ばつと山火事の増加が重なったことで、堂々たるセコイアの巨木でさえ衰弱し、キクイムシの侵入を受けやすくなっているのではないかと心配している。

 実は今、世界の森の木々が枯死するペースは年々速くなっており、特に大きい木、古い木ほどその傾向が著しい。5月29日付けで科学誌「サイエンス」に発表された論文によれば、そのせいで森林がより若くなり、生物多様性が損なわれ、重要な植物や動物の生息地が失われ、化石燃料の消費によって発生する過剰な二酸化炭素を貯蔵する能力も低下しているという。

「ほとんどの森がこのような状況です」と、論文の筆頭著者である米国エネルギー省パシフィックノースウェスト国立研究所の地球科学者ネイト・マクダウェル氏は話す。

適応できないほどの変化

 世界の樹木がどのぐらい失われたかを詳しく調べるため、世界各地の20人ほどの科学者が160編以上の過去の論文を検証し、その結果を衛星画像と照らし合わせた。分析の結果、1900年から2015年までの間に世界の原生林の3分の1以上が失われたことが明らかになった。

 詳細な歴史的データが残っているカナダ、米国西部、ヨーロッパなどでは、樹木の枯死率は過去40年で2倍に跳ね上がっていて、古木が死ぬ割合が高かった。

 直接的な原因は1つではない。数十年にわたる伐採や開拓は原因の1つだ。だが、樹木が枯死するそのほかの原因を、気温の上昇と化石燃料の燃焼による二酸化炭素濃度の増加が大きく後押ししている。イスラエルのユーカリやイトスギのプランテーションからモンゴルのシラカバやカラマツの林まで、世界中の森林が、長期間の過酷な干ばつ、深刻な病虫害、壊滅的な規模の山火事に見舞われている。ある研究者は、「森林はますます減って、今の森が適応できず、すっかり様変わりするところもあるでしょう」と言う。

次ページ:「非常に恐ろしい予想です」

 例えば米国のイエローストーン国立公園では、1万年もの間、100年から300年ごとに大規模な火災が発生している。1988年には約5000平方キロメートルが全焼して世界の注目を集めた。米ウィスコンシン大学の森林生態学者であるモニカ・ターナー氏は、この火災後の森林の回復過程を調べているが、その様子は予想とは大きく違っていた。

 通常、森林火災はコントルタマツの球果の樹脂を熱で溶かし、中の種子を放出させるという側面がある。しかし2016年は、1988年と同じ場所で再び火災が起きてしまった。30年前に比べて気温が高く、乾燥が強くなっているため、火の勢いは激しかった。

「後日現場に行ってみると、小さな木が1本も残っていない場所があって驚きました」とターナー氏は言う。これまでは新しい森を育んできた森林火災が、森の成長を阻害するようになってしまったのだ。

 イスラエルでも、高温と山火事により広大な面積の森林が消失していることがわかった。石と砂に覆われた国では、森林は非常に重要な意味を持つ。樹木はワシの巣の支えとなり、オオカミやジャッカルの生息地になる。樹木の根は土を保持する。大きな木がなくなると、それまで木陰に隠れていた植物が、突然、高温や強い光にさらされることになる。

「木というのは、ほかのすべての植物や動物のために生態系を設計するような存在なのです」と、イスラエルのワイツマン科学研究所のタミール・クライン氏は言う。

 5月初め、クライン氏はイスラエルの林業局の局長と会い、今世紀中に消滅するおそれのある南部の森林について議論してきた。「砂漠を北上させないためにはどうすればいいか話し合いました。状況は非常に厳しく、わからないことだらけです」

温暖化と森林の未来

 マクダウェル氏らは、樹木が失われることで森林の二酸化炭素隔離能力がどのように変化するのか、そして、将来の荒れ具合を正確に予測するにはどうすればよいかを考えてきた。

 あるとき、共同研究者の1人が、樹木の年輪と過去の気温の変動を調べたところ、高温と樹木の枯死の間に関係があることを発見した。そこでマクダウェル氏は、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の気温予測に基づいて、森林がどのように変化するかをシミュレーションしてみた。

 その結果、2050年の米国南西部の気温は、深刻な干ばつを引き起こした過去の熱波の年と同程度になる可能性があることがわかった。「非常に恐ろしい予想です」と彼は話す。

 多くの人は、二酸化炭素の濃度が高くなると樹木はよく成長すると考えている。しかし、地球が温暖化すると、大気は植物や動物から水分を吸い上げようとする。これに対して、樹木は葉を落としたり気孔を閉じたりして水分を保とうとするが、これらの反応はどちらも二酸化炭素の吸収を抑えることになる。つまり樹木にとって、二酸化炭素濃度の上昇は「口に粘着テープを貼って食べ放題のビュッフェに行くようなものなのです」とマクダウェル氏は言う。

次ページ:世界の森林に起きる大きな変化

 熱帯雨林の樹木の質量の大部分は、上位1パーセントの大きさの巨木によるものだと言われている。論文の共著者である米国地質調査所の森林生態学者クレイグ・D・アレン氏は、「地上の炭素の多くは古い巨木が蓄えています」と言う。「1本の巨木が枯れると、多くの小さな木が生えますが、こうした木が蓄える炭素量の合計は、はるかに少なくなってしまうのです」

 これは重要な点だ。なぜなら、IPCCが用いるほとんどの炭素モデルでは、森林がずっと多くの化石燃料の使用分を相殺すると仮定しているからだ。現実はそれほど単純ではないのかもしれない。

「老木が枯死すると、大気中の二酸化炭素を吸収するどころか、腐敗して多くの二酸化炭素を放出します」とマクダウェル氏は言う。「温暖化により樹木が失われ、樹木が失われることにより、さらなる温暖化が起きるのです」

 今後、世界の森林に大きな変化が起きることは避けられないが、ターナー氏は、化石燃料の排出量を削減することで状況は大きく変わる可能性があると言う。彼女の予測では、今後数十年で二酸化炭素の排出を抑制できれば、米国ワイオミング州のグランド・ティトン国立公園における将来の森林の損失を半減させられるとしている。

 あるいは、もっと大胆な解決策が必要になるかもしれない。

 クライン氏はイスラエルの林業局の高官に、マツやイトスギの代わりにアカシアを植えることを検討するよう促した。アカシアはサハラ砂漠で見られる木で、1年の中で最も暑い時期にも成長を続けることができる。

「残念ながら、以前と同じ森にはなりません」とクライン氏は言う。「けれども不毛の地にしてしまうよりは、別の森にした方がいいと思います」

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