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新型コロナ患者の「奇妙な症状」、各専門医が解説

  • 2020年5月26日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 感染症はあの手この手で体に深刻なダメージを与えるが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、そのほとんどを引き起こしているかのようだ。このウイルス(SARS-CoV-2)はまず肺を攻撃して肺炎や呼吸不全を引き起こし、その約5人に1人が多臓器不全に陥る。

 新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)が続く中、多数の微小血栓や、若者の脳卒中、さらには、「コロナのつま先」と呼ばれる謎の炎症反応や子どもの全身の発疹など、新型コロナウイルスに感染した人の珍しい症状が報告されるようになっている。

 これらの症状は奇妙で恐ろしいかもしれない。だが、ウイルス医学の世界では以前から知られていたもので、ある程度は予想されていた。体は一人一人違うので、ウイルスに感染する人が何百万人もいれば、奇妙な症状が出てくるのは不思議ではない。では、患者の体では何が起こっているのだろうか? それはどのくらいの頻度で起こるのだろうか?

 これらの珍しい症状について現時点でわかっていることと、治療に向けて解明しなければならないことをまとめる。

基本は呼吸器疾患だが

 新型コロナウイルス感染症は、まず呼吸器疾患の症状を呈する。ウイルスは鼻、のど、肺の細胞に侵入して複製を開始し、インフルエンザのような症状を引き起こす。肺炎に進行したり、最悪の場合、肺に穴をあけることもある。

 しかし、一部の患者では免疫系が異常をきたし、大量のサイトカインが放出される。サイトカインとは、免疫細胞を感染した現場に駆けつけさせる、防犯アラームの役割をするタンパク質だ。ところが、あまりにも多くのサイトカインが放出されると、免疫細胞は出会ったものを軒並み殺しはじめる。「サイトカインストーム」と呼ばれるこの反応は、大規模な炎症を引き起こして血管を傷つけ、肺胞に体液が浸み込んで呼吸不全を引き起こす。サイトカインストームが肝臓や腎臓を損傷すれば、多臓器不全が起こる。

次ページ:心臓に直接感染する可能性も

心臓に感染する可能性も

 中国での最近の研究によると、入院した患者の約5人に1人の心臓に、何らかの損傷が生じていたことが明らかになった。

 心臓は血液を全身に送り出し、肺からの酸素を臓器に供給している。コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどの呼吸器系ウイルスが肺を攻撃すると、肺が血流に酸素を供給する効率が悪くなる。また、感染によって動脈が炎症を起こして狭くなり、心臓などの臓器に供給される血液の量が減ることもある。心臓はその分を補うために懸命に働き、心血管系に過大な負担がかかるおそれがある。

 珍しい症状の1つが心筋炎だ。炎症により心筋の機能が損なわれる比較的まれな疾患だが、新型コロナウイルス感染症の患者では、若者や基礎疾患のない人でも見られる。

 最近の報告では、新型コロナウイルスが心臓の細胞に直接侵入する可能性が指摘されている。各種のウイルスは、「受容体」と呼ばれる入り口から細胞内に侵入する。新型コロナウイルスのACE-2受容体は、心臓にも存在する。

「心筋細胞中にウイルス粒子があることを実際に証明した人はまだいません」と、米ノースウエスタン大学ファインバーグ医学大学院の心臓病学教授で、米国心臓協会の元会長であるロバート・ボナウ氏は言う。氏は、心筋炎の兆候は、体のほかの部位に炎症を起こすサイトカインストームによって引き起こされる可能性もあると指摘する。しかし、水痘帯状疱疹ウイルスやエイズウイルスは心筋に直接感染することが知られており、また、新型コロナウイルスが血管内膜に侵入する可能性があることが研究により示されている。

 新型コロナウイルス感染症において、心臓が重要な役割を果たしていることを示唆する証拠が増えていることから、この感染症は呼吸器疾患であるだけでなく、心血管疾患でもあるのだろうかという疑問が生じている。「最近、患者の治療法について疑問をもつことが増えました」とボナウ氏は言う。「75歳の男性が胸の痛みを訴えて来院した場合、心臓発作なのでしょうか。それとも新型コロナウイルス感染症なのでしょうか?」

大量の血栓、透析装置も詰まらせる

 多くの患者に多数の血栓が見られる。血栓のでき方も1つではないようだ。

 今から160年以上前、ドイツのルドルフ・ウィルヒョウという医師が、異常な血栓ができる要因を3つ挙げた。1つめは血管の損傷だ。感染症などで血管の内膜が傷つくと、凝固を促すタンパク質がそこから放出される。2つめは血流の停滞。病院などのベッドに長く横たわっていても、血栓ができることがある。3つめは固まりやすくなった血液だ。遺伝性疾患や全身の炎症のせいで、血小板や傷を修復するその他のタンパク質が増えれば、血は固まりやすくなる。

「新型コロナウイルス感染症では、この3つの要因すべてが関与していると考えられます」と、米ペンシルべニア大学病院の血液凝固障害の専門家アダム・キューカー准教授は言う。

次ページ:珍しい若者の脳卒中も

 新型コロナウイルス感染症によるサイトカインストームが、血管の壁にコレステロールなどの脂肪がたまる「アテローム(沈着物)性動脈硬化」などの炎症性疾患を悪化させることがある。おそらく、心血管疾患を基礎疾患にもつ人が重症化しやすいことと関係があるのだろう。

 医師たちは新型コロナウイルス感染症による血液凝固に当惑している。4月下旬のワシントン・ポスト紙によると、血流中で微小血栓が大量に形成され、腎障害の治療に使用される透析装置を詰まらせるなど、きわめて異常な凝固が見られた。

 キューカー氏によると、ペンシルべニア大学病院の集中治療室(ICU)の新型コロナウイルス感染症の患者は、他の病気でICUに運ばれた患者に比べて、血栓が3倍もできやすかったという。現時点では、患者に投与する血液希釈剤の量を増やしてこの問題に対処しようとしているが、本当にこの方法で血栓のリスクを下げることができるのか、臨床試験が行われているところだ。

 キューカー氏は、新型コロナウイルス感染症による血栓がなぜこんなに小さく、臓器にたくさん詰まるのかは不明だが、「補体」と呼ばれる免疫系の一部に原因があるのかもしれない、と話す。補体は通常、活性のない状態で血液中を循環している。それが不適切に活性化され、微小な血栓を作る疾患があることがわかっている。

珍しい若者の脳卒中も

 血栓の増加は、基礎疾患のない若い患者でも脳卒中が起きる理由かもしれない。脳卒中は高齢者に多く、若者では珍しいが、近縁のコロナウイルスによるSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した2002〜2003年にも若者の脳卒中が発生したことを考えると、これは意外ではない。

 新型コロナウイルス感染症の患者で報告された脳卒中のほとんどは、脳に血液を供給する血管の1つに血栓が詰まる「虚血性」だ。これはもともと多い疾患で、米国では年間69万例が報告されており、動脈硬化などの心血管疾患とも密接な関りがある。

 虚血性脳卒中により、酸素を含む血液の供給が長時間にわたり遮断されると、下流のさまざまな脳領域に障害が起こるおそれがある。新型コロナウイルス感染症に伴う脳卒中の症状に、言語障害、視覚障害、歩行障害などのばらつきがあるのはそのためだ。この他、新型コロナウイルス感染症では、弱った血管が破裂して脳内に出血し、周囲の脳組織を圧迫する「出血性」脳卒中も報告されている。

 キューカー氏によると、新型コロナウイルス感染症の患者で、脳卒中や血液凝固がどのくらいの頻度で生じるかはわからないと言う。報告されているほとんどの症例はICUでのものだが、退院後に血栓ができた人や、新型コロナウイルスの症状は軽症や無症状だが血栓ができた人もいるからだ。

 キューカー氏はこう問いかける。「少数の症例が過剰に注目されているのでしょうか? それとも新型コロナウイルス感染症では一般的な症状なのでしょうか?」

次ページ:脳炎などの神経疾患、発疹などの皮膚疾患との関連は?

脳炎やギラン・バレー症候群など神経疾患との関連は?

 新型コロナウイルス感染症と、脳炎やギラン・バレー症候群などの神経症状との関連も報告されている。軽度の脳炎はインフルエンザのような症状を引き起こすが、重症になると、発作、麻痺、錯乱が起こることがある。 

 新型コロナウイルス以外にも、ヘルペスウイルス、ダニ媒介性ウイルス、狂犬病ウイルス、SARSウイルスなど、脳炎を引き起こすウイルスは多い。これらのウイルスが神経系に侵入すると、細胞を直接殺したり、免疫系に働きかけて細胞を殺させたりして、脳を傷つけたり炎症を引き起こしたりする。新型コロナウイルス感染症の場合、原因は不明だと、コロラド大学医学大学院の神経内科部長であり、米国神経学会のフェローでもあるケネス・タイラー氏は言う。

 ギラン・バレー症候群は体の免疫系が神経を攻撃する、非常にまれな神経疾患だ。一般的には感染症にかかった数週間後に発症し、四肢に力が入りにくくなったり、しびれや痛みなどの症状が表れたりして、最終的に麻痺に至ることもある。新型コロナウイルス感染症では、ごく一部の症例報告でしか観察されていないが、ギラン・バレー症候群との結びつきは単なる偶然の一致ではないとタイラー氏は考えている。

皮膚の発疹と「コロナのつま先」

 最近になって発見された、新型コロナウイルス感染症の不可解な兆候として、皮膚の発疹や、「コロナのつま先」と呼ばれるしもやけのような病変、子どもに見られる川崎病のような症状がある。

 米カリフォルニア大学サンフランシスコ校皮膚科教授のカナデ・シンカイ氏は、「あらゆる症状が出るので、皮膚科の教科書を読んでいるようです」と言う。

 一般に、ウイルスは2つの方法で発疹を引き起こす。1つは、水痘帯状疱疹ウイルスのように全身に広がって、直接皮膚にたまる場合だ。もう1つ、ウイルスによって活性化された免疫系により、全身に発疹が生じることもある。これは感染に対する正常な反応でもありえるし、サイトカインストームに伴う過剰反応のこともある。シンカイ氏によると、一般的なウイルス感染症で発疹が生じる患者は全体の2%未満であるという。

 これに対して、新型コロナウイルス感染症に伴う発疹にはさまざまなパターンがあり、この感染症に特有のものかを判断するのは困難だ。現段階では謎だらけで、一部の専門家は、新型コロナウイルス感染症患者に発疹が見られるのは、単なる偶然の一致なのではないかと疑っているほどだ。

 同じことは「コロナのつま先」にも言える。皮膚科医は、足や手の指が赤や紫色になり痛みがあると訴える患者が増えていると言う。けれどもシンカイ氏によると、「コロナのつま先」はウイルス検査で陽性になった人だけでなく、ウイルス検査も抗体検査も陰性になった人にも見られるという。

 これらの皮膚症状をよりよく理解するためには、もっと包括的な研究が必要だ、とシンカイ氏は言う。イタリアのある研究では20%の患者に発疹が見られたが、中国・武漢で行われた別の研究では0.2%の患者にしか認められなかった。シンカイ氏は、この差が患者の違いを表しているのか、研究者の注意力の違いを示しているのかを知りたいと考えている。

次ページ:川崎病のような症状も

川崎病のような症状も

 科学者たちは新型コロナウイルスに感染した子どもの川崎病に似た症候群にも首を傾げている。川崎病は全身の血管に炎症を引き起こすまれな疾患で、日本人の子どもに多く見られる。原因は不明だが、全身の発疹、手足や首のリンパ節の腫れ、目の充血、腹痛、下痢などの症状が現れる。川崎病は通常、長期的な経過をたどることなく自然に治癒するが、心臓に重大な合併症が生じることがあるので注意が必要だ。

 最近、新型コロナウイルス感染症と診断された子どもに、川崎病の症状の一部またはすべての症状が見られたという報告が相次いでいる。ボストン小児病院の集中治療部長であるマイケル・アグス氏は、医師たちはこの関連に気づきはじめたばかりだと言う。

 治療にあたった医師たちは、これまでに2つのタイプの症状を発見している。1つはウイルス性敗血症で、感染症に対する激しい炎症反応により心機能が低下し、血圧が低下する。もう1つは新型コロナウイルスに感染してから数週間後に発症するもので、心臓の動脈の変形など、典型的な川崎病の症状が見られる。

 このような症状は恐ろしいが、アグス氏によれば非常にまれだ。この川崎病のような症状はヨーロッパと北米の子どもでしか観察されておらず、ウイルス検査の結果が陰性で、過去の感染を示唆する抗体もない患者もいることを考えると、すべての症例が新型コロナウイルス感染症と関連があると判断するのは難しい、とアグス氏は言う。答えを見つけるには、患者を総合的に調べるだけでなく、検査や臨床試験へのアクセスの改善も必要だと氏は指摘する。

 研究者たちは、答えが出るまでの間は、家の外でのマスクの着用、念入りな手洗い、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保など、新型コロナウイルス感染症から身を守るための現在の標準的な対策を続けることが大切だとしている。

「対策を続けていけば、これらが新型コロナウイルスによる症状なのか、それともそれぞれ異なる症候群なのか、答えが出ます」とアグス氏は言う。

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