サイト内
ウェブ

米国立公園が20年にわたり謎の上下動、新たな仮説

  • 2020年3月26日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 米国イエローストーン国立公園は、地質学のワンダーランドだ。64万年前の超巨大噴火でできたカルデラを中心に広がる8991平方キロの公園は、そのあちこちで間欠泉が噴き出している。これらはすべて、地下に溜まっているマグマや高温の流体とかかわりがある。

 このカルデラの北西に位置する東京23区よりも広いエリアが20年以上にわたり、謎の上下動を繰り返している。この「呼吸」の原因について、新たな仮説が学術誌「Journal of Geophysical Research: Solid Earth」に発表された。

 謎の「呼吸」エリアは、500以上の熱水泉や間欠泉が存在する「ノリス・ガイザー・ベイスン」を中心とした一帯。不規則だが年間10センチメートル前後、地表が上下に動く。「非常に長い間、ノリス地域を中心に地形が変化してきたのでしょう」と、今回の共著者の一人、米地質調査所カスケード火山観測所のダニエル・ズリシン氏は語る。

 今回、研究者らは、数十年分の人工衛星データやGPSデータを用い、地中で起きていることをモデル化しようと試みた。そこからわかったのは、1990年代後半に大量のマグマがノリスの地下に進入したこと。溜まった大量のマグマから一部の流体が岩石の隙間を上昇、地中の圧力が高まり、地表面が上昇した。やがて流体が別の場所へ抜けてゆくと、地表は沈降する。マグマ由来の流体は現在、地下1500メートルほどの比較的地表に近い場所にあると見られる。

 誤解のないように言えば、今回の論文は、64万年前にイエローストーンのカルデラを形成したスーパーボルケーノ(超巨大火山)が再噴火すると言っているわけではない。

 この地域には、世界でもっとも高く噴き出す間欠泉「スチームボート・ガイザー」があり、2018年3月以来、記録的なペースで噴出を続けている。今回の研究成果はその原因を説明できる可能性がある。また、ノリスの地下で起きている変動によって、水蒸気爆発が起きる可能性がわずかに高まっていることも考えられるという。

 研究者たちの一致した意見は、大量のマグマが貫入し、その際に漏れ出した流体が原因となって地表の上昇や下降が起きている可能性が高いということだ。

「ノリス・ガイザー・ベイスンがどれほど変化している場所なのか、私たちはようやくそれを理解し始めたところです」と、今回の研究に関わっていない米地質調査所イエローストーン火山観測所のマイケル・ポーランド氏は語る。

次ページ:頻繁に噴き出す間欠泉、激しくなる上下動

頻繁に噴き出す間欠泉、激しくなる上下動

 ノリス・ガイザー・ベイスンは、イエローストーン最古の間欠泉地帯だ。11万5000年前に熱水作用によってできた地形であることがわかっている。地下約300メートルには、237℃を記録する場所もある。

 ノリス・ガイザー・ベイスンの地質活動を象徴するのが、スチームボート・ガイザーだ。水蒸気や熱水を高さ120メートルまで噴き上げるこの間欠泉は、かつては噴き出す頻度が低く、その間隔も4日から50年までとさまざまだった。しかし、2018年3月以降、週に一度のペースで噴き出し続けている。2018年には年間32回という新記録が生まれたが、その記録は早くも翌年に塗り替えられ、48回となっている。

「おかしくなってしまったのかと思うくらいです」と、地熱学に詳しい英グラスゴー大学のヘレン・ロビンソン氏はと話す。氏は今回の論文に関わっていない。

 世間の注目を集めているのは気まぐれな間欠泉が活発になったことだが、科学者たちはこの一帯の上下動が激しくなったことの方に注目している。直径30キロメートルほどのこの一帯は、1996年から2004年にかけて約12センチメートル上昇したが、2005年から2013年にかけては7センチメートル沈降した。

 2013年後半から2014年初頭にかけて、年間15センチメートルのペースで急速に隆起。イエローストーン国立公園で観測された中で最大のペースだ。2014年3月にマグニチュード4.9の地震が起きると隆起は突然止まったようで、その後はゆっくりと下降と上昇を繰り返すようになった。現在は、2000年に比べれば13センチメートルほど高い位置にある。

地中で何が起きているのか?

 ノリス・ガイザー・ベイスンの地形の変化は、人工衛星からのレーダー観測やGPSデータを使って追跡された。地質学者らの意見によれば、地面の隆起のきっかけになったのは、1996年から2001年にかけて地下1万4000メートルほどの場所までマグマが上昇したことだ。ノリス・ガイザー・ベイスンは、超巨大火山の噴火でできたカルデラを北西に外れたあたりにあり、「ノリス・マンモス回廊」と呼ばれる断層と噴気孔の並ぶ一帯と重なっている。

 前出のズリシン氏は、「つまり、2つの弱い部分が交差しているのです。マグマが入り込みやすい場所ということになります」と言う。

次ページ:水蒸気爆発の可能性も

 1996年から2004年にかけての隆起は、マグマが入り込んだことが原因だったものと見られる。マグマが冷えると、中に含まれる流体が放出される。その過程でマグマ内部の圧力が下がり、風船がしぼむように地表も沈下する。2005年から2013年にかけての沈下は、このように説明できそうだ。

 解放された流体は、岩石の層の下に溜まっていく。これにより、地表面が断続的に上昇したことが考えられる。このような火成活動と熱水活動のサイクルは、特定したり記録したりすることが困難だ。ポーランド氏は今回の新しいモデルについて、「妥当な仮説ですが、決して確かなものではありません」と言う。ロビンソン氏は、最近の大規模な降雪などでマグマ以外の流体が地中に集まり、地面の上昇や下降に合わせて散発的に流出した可能性もあると述べている。

水蒸気爆発の可能性も

 研究チームは、マグマから放出された流体がノリス・ガイザー・ベイスンの地表近くに溜まっていると考えている。この一帯には、数千年前の水蒸気爆発でできた噴気孔がいたるところに残されている。水蒸気爆発とは、圧力鍋のようになった地中に閉じこめられていた熱水が、岩石に亀裂が入ることにより一気に解放されて気化するというほとんど予測不可能な現象だ。

 ノリス・ガイザー・ベイスンでは、この水蒸気爆発がいつ起きても不思議ではない。ただし、大規模な爆発はめったに起こるものではないという。流体が地表近くに溜まっている場合、爆発の可能性はわずかに高くなる。しかし、ズリシン氏によれば、検知できない小さな変化が常に起こっているため、爆発の可能性は絶えず上下している。爆発の可能性が増しているとは断言できず、したがって一帯を封鎖すべきだともしていない。

 研究チームは、マグマ性の流体が蓄積されていることとスチームボート・ガイザーの記録的な噴出ペースとの関連性についても検討している。スチームボートでは、1960年代と1980年代初めにも今回と同じような活発な活動が見られた。それも、この一帯の呼吸サイクルと連動している可能性がある。

 ただし、もしそれが真実なら、スチームボートだけが活発になり、他の間欠泉は静かなままなのはなぜだろう。ポーランド氏もその点に触れており、「スチームボートのすぐ隣にあるエキヌスが活発化しないのはなぜでしょう」と問いかけている。

 ズリシン氏は、スチームボートが活発になったこととマグマの貫入との関係はせいぜい偶発的なものだろうと考えているが、「たしかに、タイミングは一致しています」とも述べる。今後、ズリシン氏のグループは、地表にあふれ出した流体を調査してマグマ性を示す化学的証拠をつかみたいと考えている。

 それでも、地表のダイナミックな変化を説明できる仮説を生み出すことができたのは、数十年間にわたって蓄積したデータと最新の科学技術の成果だ。ズリシン氏は、「20年前にはほぼ不可能でした」と話している。

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
(C) 2020 日経ナショナル ジオグラフィック社