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バッタ大量発生、数千万人に食料危機の恐れ、東アフリカ

  • 2020年2月25日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 今、東アフリカでバッタの大量発生による被害「蝗害(こうがい)」が広がり、数千万人の食料供給が脅かされている。ひとつの都市を覆い尽くすほどに広がったバッタの群れが作物や牧草地に襲いかかり、ものの数時間ですべてを食い尽くしている。バッタの大量発生は、東アフリカでこれまでに7カ国に拡大した。近年にない規模だ。

 このバッタはサバクトビバッタという。アフリカと中東の乾燥した地域に生息していて、大雨が降って植物が繁茂すると大発生する。東アフリカとアラビア半島では、過去2年間でサイクロンに複数回見舞われるなど、異常に雨の多い天気が続いた。専門家は、この天気が蝗害の主な原因とみる。

 このところ嵐が増えているのは、近年顕著になってきた「インド洋ダイポールモード現象(IOD)」と関連しているという。これはインド洋の東部と西部で海水温の差が生じる現象で、オーストラリア東部に大きな被害をもたらした森林火災とも関連する。

 一部の専門家は、今回の蝗害はこれから起こる大きな変化の前触れかもしれないと指摘する。海面温度の上昇は嵐のエネルギーを高め、気候変動は今回の蝗害を引き起こしたような海洋循環パターンを定着させるからだ。

「サイクロンの多い年が続けば、『アフリカの角』と呼ばれる北東部での蝗害の発生数も増加するでしょう」と言うのは、国連食糧農業機関(FAO)の上級蝗害予報官であるキース・クレスマン氏だ。

バッタはどのように増えるのか

 クレスマン氏によると、サバクトビバッタの大量発生のきっかけは2018年5月のサイクロン「メクヌ」だった。このサイクロンはアラビア半島南部の広大なルブアルハリ砂漠に雨を降らせ、砂丘の間に多くの一時的な湖を出現させた。こうした場所でサバクトビバッタがさかんに繁殖して最初の大発生が起きたと見られる。同年10月にはアラビア海中部でサイクロン「ルバン」が発生して西に進み、同じ地域のイエメンとオマーンの国境付近に雨を降らせた。

次ページ:動画で見るサバクトビバッタの群れ

 サバクトビバッタの寿命は約3カ月で、その間に繁殖する。繁殖の条件がよければ、次の世代のバッタは20倍にも増える。つまり、サバクトビバッタは短期間のうちに急激に増加するのだ。2018年の2つのサイクロンによって、わずか9カ月の間に大発生が3度起こり、アラビア半島に生息するバッタはざっと8000倍に増えた。

 増えすぎたバッタの群れは移動を始めた。2019年の夏までに、それは紅海とアデン湾を飛び越えてエチオピアとソマリアに渡り、その後、もう一度繁殖したとクレスマン氏は言う。

 不運はこれで終わらなかった。2019年10月に東アフリカの広い範囲で激しい雨が降り、さらに12月には季節外れのサイクロンがソマリアに上陸したのだ。おかげでバッタはさらに繁殖した。

 バッタの群れは繁殖を続けながら新たな土地に襲いかかっていった。12月末には最初の群れがケニアに到達。猛スピードで北部から中央部へと移動していった。2020年の1月にはケニアで過去70年で最悪の規模の蝗害が発生した。ジブチとエリトリアでも蝗害が始まり、2月9日にはウガンダ北東部とタンザニア北部にバッタが到達しはじめた。

迫りくる「壊滅的な打撃」

 最悪の大量発生はこれから起こるのかもしれない。秋に雨が降ったことで少なくとも2つの世代のバッタが大発生できるようになり、「当然のことながら非常に危険な状況を引き起こす」からだとクレスマン氏は言う。

 氏は、今年6月にはサバクトビバッタの個体数が現在の400倍に増え、もともと飢饉に脅かされているこの地域の作物や牧草地に壊滅的な打撃をもたらすおそれがあると危惧する。FAOによると、現在、ジブチ、エリトリア、エチオピア、ケニア、ソマリアの1300万人が「きわめて深刻な食料不足」に陥っていて、さらに2000万人がその一歩手前の状況にあるという。

「タイミングが問題なのです」とクレスマン氏は言う。東アフリカでは、ほとんどの作物は最初の雨期である3月か4月に植えつけられる。「雨期が始まり、農夫が作物を植えようとする時期が、新しい世代のバッタが発生する時期と一致してしまうのです」

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 アラビア半島でのバッタの繁殖を促した2018年の2つのサイクロンは、どちらも異例のものだった。NASAが説明しているように、アラビア海では数年にわたりサイクロンが1つも発生しないことも珍しくない。

 2018年が嵐の多い年だったとすると、2019年は、北インド洋にサイクロンが存在していた日数や、サイクロンの「熱帯低気圧積算エネルギー(ACE:台風の活動度の指標)」が過去最大を記録するなど、多くの新記録が出た極端な年だった。めったにない12月の嵐は、そうした極端な兆候の1つにすぎない。

 近年の(特に2019年の)嵐と関連が深い出来事が、インド洋ダイポールモード現象だ。これには、インド洋の東と西のどちら側の海水温が高くなるかで、負と正の現象がある。負のダイポールモード現象では、偏西風が暖かい海水をオーストラリア付近まで押しやり、インド洋の東側であるオーストラリア南部の雨量を増やす。対して、正のダイポールモード現象では偏西風が弱まるため、東アフリカ付近の海水温が高くなり、降水量が増える。

 オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の気候科学者ウェンジュ・カイ氏によると、2018年の秋には正のインド洋ダイポールモード現象が発生していたという。その後、数カ月にわたりやや負になっていたが、それから急激に正になり、2019年の秋には1870年以来2番目の強さになった。最近の東アフリカとオーストラリアの状況は、それから予想されるとおりのものだった。

「アラビア半島に大雨をもたらした異常に活発なサイクロン・シーズンは、強い正のインド洋ダイポールモード現象によって誘発されました。オーストラリアで記録的な干ばつになった原因も同じです」と、商用気象サービス「ウェザー・アンダーグラウンド」の気象学者ボブ・ヘンソン氏は説明する。

「もっと早くから行動するべきでした」

 最近の研究は、地球が温暖化すると、このパターンが一般化してくると指摘している。カイ氏の研究チームによる2014年の論文は、炭素排出量が最悪のシナリオをたどった場合、今世紀末には極端に強い正のインド洋ダイポールモード現象の頻度が3倍近くまで増加すると予想している。これに続く2018年の論文では、地球温暖化を1.5℃以内にとどめられたとしても(世界はこの目標値を10年以内に超えてしまうおそれがある)、その頻度は2倍に増えるとしている。カイ氏によると、インド洋ダイポールモード現象が全体としてすでに正の方に向かっている証拠があるという。

 そのせいで蝗害が増えるかどうかはまだわからないが、可能性はある。ダイポールモード現象のような海洋循環パターンを考えなくても、気候変動により各地の海水温は上昇しており、豪雨の頻度が増えると予想される。最近の研究から、地球温暖化によりアラビア海の秋のサイクロンの威力がすでに増していることが指摘されている。同時に、気候変動を東アフリカ全域の干ばつや少雨と結びつけ、より不確かな将来像を描き出し、今よりも危険になることはほぼ確実だとする研究もある。

 東アフリカの気候がどの方向に進むかはまだわからないが、蝗害を食い止めるために支援機関は緊急支援を行っている。この1月にはFAOが国際社会に対し、蝗害に苦しむ5カ国のバッタの駆除と農民・牧畜民の援助のために7600万ドル(約85億円)の緊急支援を呼びかけた。クレスマン氏は、資金は集まるだろうと見ているが、行動のタイミングを心配している。バッタは繁殖を続けていて、ただちにもっと積極的な駆除を行わないと、必要な支援は格段に大きくなるおそれがある。

「基本的に、もっと早くから行動するべきでした」とクレスマン氏は言う。

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