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新型コロナウイルスに感染するとこうなる

  • 2020年2月21日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 中国で猛威を振るっている新型コロナウイルスについては、まだ知られていないことが多い。しかしひとつだけ確実なのは、このウイルスに感染すると、体中に異変が起きるということだ。

 SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)のように動物から人間へ感染した過去のコロナウイルスは、通常の風邪ウイルスとは違い、多くの臓器に広がって様々な症状を引き起こした。今回の新型ウイルスも例外ではない。

 わずか1カ月あまりで2000人以上の死者を出したのはそのせいだ。致死率はSARSの5分の1程度のようだが、死者数は既にSARSを上回っており、感染拡大のスピードも速い。世界保健機関(WHO)は、この新型コロナウイルスによる病気を「COVID-19」と名付けた。

 コロナウイルスに感染すると、体に何が起こるのだろうか。新しい型の遺伝子はSARSとよく似ているので、SARSの名を取ってSARS-CoV-2と名付けられた。新たな流行の初期の研究結果と、過去のSARSやMERSで学んだ知識を組み合わせることで、その答えが見えてきそうだ。

肺に始まり、肺に終わる

 COVID-19はインフルエンザと同じ呼吸器系疾患であり、肺に始まり、肺に終わるとも言える。

 通常、感染者が咳やくしゃみをして飛沫を飛ばすことによって感染は拡大する。具体的な症状もインフルエンザに似て、発熱と咳から始まり、やがて肺炎を発症し、さらに深刻な症状へと進行することがある。

 SARSの流行後、コロナウイルスによる肺炎は、一般に3つの段階を経て重症化するとWHOは発表した。ウイルスの複製、免疫の過剰反応、そして肺の崩壊だ。

 もちろん、すべての患者がこの3つの段階を経験するわけではない。SARS患者で呼吸器不全まで進んだ例は全体の25%だった。一方、COVID-19の初期データを見ると、約82%の感染者が軽症で済んでいるようだ。

 さらに掘り下げてみると、新型コロナウイルスは他の点でもSARSと似たパターンをたどっているようだと、病原性の高いコロナウイルスを研究する、米メリーランド大学医学部の准教授マシュー・B・フリーマン氏は話す。

次ページ:肺にハチの巣状の穴が開く

 新型コロナウイルスは人間に感染すると、急速に肺を侵そうとする。

 肺の空気の通り道である気管支の表面には、粘液を作る細胞と繊毛を持つ細胞がある。粘液は、肺を病原体から守りつつ、乾燥を防ぐ。繊毛は、花粉やウイルスなどのごみを取り込んだ粘液を押し出して、体外に排出する働きをもつ。

 フリーマン氏によると、SARSはこの繊毛のある細胞に感染して死滅させるのが得意だったという。死んだ繊毛は抜け落ちて、ごみや粘液と一緒に気管支に溜まる。同じことがCOVID-19でも起こっていると、フリーマン氏は考えている。これが第1段階だ。COVID-19に関する最初期の調査では、患者の多くが両方の肺で肺炎を起こしており、息切れなどの症状を訴えていた。

 そうなると、ウイルスの侵入を察知した体は、肺へ大量の免疫細胞を送り込み、損傷を取り除き、組織の修復に乗り出す。

 これが正常に機能していれば、炎症のプロセスは厳しく管理され、感染した範囲をとどめられる。ところが、まれに免疫系が暴走して、健康な組織も含め、あらゆるものを破壊してしまうことがある。第2段階だ。

 次の第3段階では、肺はさらに損傷し、呼吸器不全に陥る。また、死に至らないまでも、肺に後遺症が残ることもある。WHOによると、SARSの患者は肺にハチの巣状の穴が開いていたというが、新型コロナウイルスの感染者にも同様の病変が報告されている。過剰に反応した免疫系が組織を傷つけるせいで、こうした穴が開くようだ。

 ここまで来ると、人工呼吸器が必要になる。また、酸素を取り込む場所である肺胞と、その周りをめぐる血管の間の膜の透過性が高まって、胸水がにじみ出てたまり、血液に十分な酸素を送れなくなる。

「特に深刻な場合、肺は水でいっぱいになって息ができなくなります。そして、亡くなってしまうのです」と、フリーマン氏は説明する。

次ページ:全身に行きわたる「免疫の暴走」

胃腸:SARS、MERSより下痢は少ない

 SARSとMERSが流行したときには、4分の1近くの患者に下痢の症状が見られた。だが、COVID-19では下痢や腹痛はあまり報告されていない。そのため、下痢などの胃腸症状が今回の感染拡大にどれほど関係しているのかはわからないと、フリーマン氏は言う。

 では、呼吸器系のウイルスは、胃腸にどんな悪さをするのだろうか。

 どんなウイルスでも、人の体内に入り込むと、まず自分に合う細胞の受容体を探し、そこから侵入を試みる。

 ウイルスによっては受容体を選り好みするものもあるが、中には何にでも取りつく見境のないウイルスもいる。「そのようなウイルスは、あらゆる種類の細胞に簡単に侵入できてしまいます」と話すのは、米ミシガン大学医学部の臨床研究副学部長で、米国肝臓学会議の議長を務めたことのあるアンナ・スク・フォン・ロク氏だ。

 SARSウイルスもMERSウイルスも、大腸や小腸の細胞に侵入して腸内で感染を広げ、下痢を引き起こしていた。

 フリーマン氏は、新型コロナウイルスが同じ動きを見せるかどうかはわからないとしている。しかし、研究者たちは、COVID-19のウイルスも、SARSと同じ受容体を利用しているとみる。しかもその受容体は、肺と小腸の両方に存在している。

 1月31日付の医学誌「New England Journal of Medicine」に掲載された論文と、1099人の患者の症例を調査した論文投稿サイト「medRxiv」の論文で、ウイルスが便のサンプルから見つかったと報告された。2つの論文は、便を介して感染が拡大することを示唆しているが、まだ結論にいたるにはほど遠い。

全身に行きわたる「サイトカインストーム」

 コロナウイルスへの過剰な免疫反応は、体の他の器官にも影響を及ぼす。

 2014年の研究では、MERS患者の92%に、肺以外の場所でコロナウイルスの症状が認められた。実際、SARS、MERS、COVID-19のいずれにおいても、肝酵素値の上昇、白血球や血小板数の減少、血圧の低下など、全身的な症状が見られた患者がいた。少数だが、急性腎障害や心不全を起こした例もあった。

 しかし、これは必ずしもウイルス自体が全身に広がったという意味ではない。米コロンビア大学メイルマン公衆衛生学部のウイルス学者であるアンジェラ・ラスムセン氏は、「サイトカインストーム(免疫の暴走)」が起こった可能性を指摘する。

次ページ:巻き添えを食う肝臓

 サイトカインとは、免疫系が警告を出すために産生する物質で、免疫細胞を召集して感染箇所を攻撃するよう働きかける。指示を受けた免疫細胞は、体の他の部分を救うために感染した組織を死滅させる。

 人の体を外敵から守っている免疫系だが、体内で暴れ始めたコロナウイルスのせいで、大量のサイトカインを肺へやみくもに送り込んでしまい、大混乱を引き起こす。「銃でターゲットを撃つのではなく、ミサイルを撃ち込むようなものです」と、ラスムセン氏は説明する。すると、感染した細胞だけでなく、健康な組織までも破壊してしまう。

 こうした大混乱は、肺にとどまらない。サイトカインは血液によって全身に運ばれ、複数の臓器で問題を引き起こす。それがサイトカインストームだ。

 すると、事態は急変する。最も深刻なケースでは、サイトカインストームに加えて全身に酸素を送る機能が低下し、多臓器不全に陥る場合がある。なぜ一部の患者だけが、肺の外でも合併症を引き起こすのか正確にはわかっていないが、心臓病や糖尿病といった基礎疾患と関係しているのかもしれない。

肝臓:巻き添えの被害者

 コロナウイルスが呼吸器系の外へ広がると、肝臓が被害を受けることが多い。

「ウイルスは、いったん血液に入ると体のどこへでも泳いでいけます」と、ロク氏は言う。「肝臓は血管がたくさんある臓器ですから、ウイルスは簡単に入り込んでしまうでしょう」

 肝臓の主な仕事は、胃から送られた血液を処理して有毒なものを取り除き、体に必要な栄養を作り出すこと。また、胆汁を作って小腸での脂肪の分解を助ける。肝臓に含まれる酵素は、体の化学反応を速める働きをする。

 ロク氏によると、通常、肝臓の細胞は常にある程度壊れていて、そのせいで、ある種の酵素を一定量血液中に放出し続けている。だが、壊れた細胞は、すぐに新しい細胞にとってかわられる。この活発な再生プロセスのおかげで、肝臓は損傷を受けても立ち直りが早い。なお、血液中の肝酵素の量は、肝臓の健康度のバロメーターになるため、健康診断に使われている。

 したがって、SARSやMERS患者に見られたように、もし肝酵素の値が異常に高くなったら、警戒しなければならない。ただの軽い傷で肝臓が簡単に回復する場合もあるが、肝不全など深刻な症状を起こす恐れもある。

 ロク氏によると、呼吸器系に感染するウイルスが肝臓でどのように作用するのかはまだ明らかになっていない。ウイルスが肝臓に直接感染し、増殖して細胞を殺しているのか。または、ウイルスへの免疫反応が肝臓に激しい炎症反応を起こし、細胞が巻き添え被害を被っているのだろうか。

次ページ:妊婦への影響は?

腎臓:すべてはつながっている

 コロナウイルスにかかっては、腎臓も無事ではいられない。SARS患者の6%、MERS患者の4分の1が急性の腎障害を起こしており、研究によると、今回のウイルスも同様のダメージを与える可能性がある。症例は比較的少ないが、腎臓がやられると命に関わる。2005年の医学誌「Kidney International」によると、急性腎障害を起こしたSARS患者のうち、91.7%が最終的に死亡した。

 肝臓と同様に、腎臓も、血液をろ過する働きを持つ。それぞれの腎臓には、およそ100万個のネフロンと呼ばれる微小なろ過構造物がある。ネフロンは主に、血液をろ過してきれいにするフィルターと、必要なものを体へ戻し、いらないものを膀胱へ送って尿として排出する尿細管に分かれている。

 この尿細管がコロナウイルスに感染すると考えられる。SARSの流行後、尿細管でウイルスが見つかったとWHOは報告した。ウイルスに感染した尿細管は、炎症を起こすことがある。

 香港大学の名誉教授で香港サナトリウム病院腎臓科名誉顧問の黎嘉能(ライ・カノン)氏によると、ウイルスが血液に入り込めば、腎臓の尿細管で見つかるのは珍しいことではないという。腎臓は常に血液をろ過しているため、尿細管の細胞がウイルスをつかまえて、一時的または軽度の損傷を起こすことはありうる。

 もしウイルスが細胞に入り込んで増殖を始めたら、その損傷は死につながる恐れがある。しかし黎氏によれば、SARSウイルスが腎臓で増殖していたという証拠は見つかっていない。同氏は、SARSを最初に報告した研究グループの一員であり、「Kidney International」のその論文の著者にも名を連ねている。

 おそらく、SARSで急性腎障害を起こした患者には、低血圧や敗血症、薬物、代謝障害など様々な要因が絡んでいたのだろうと、黎氏は考えている。さらに深刻な急性腎不全まで至ったケースでは、サイトカインストームの徴候もみられた。

 急性腎不全は他にも、抗生物質や多臓器不全によって引き起こされたり、長時間にわたり人工呼吸器をつけていたことが原因の場合もある。すべてはつながっているのだ。

妊婦への影響は?

 2月に、中国、武漢の病院で2人の新生児に新型コロナウイルスの陽性反応が出たと発表された。そのうちひとりは、誕生してからわずか30時間しか経過していなかった。そこで、妊婦がコロナウイルスに感染すると、胎児も感染してしまうのかという疑問が当然出てくる。あるいは、出産中や授乳中に感染が起こるのだろうか。

 SARSやMERSでは多数の妊婦にも感染者が出たが、母親から子への感染は報告されていない。新生児への感染経路は母親以外にも考えられると、ラスムセン氏は言う。例えば、多数の感染者が救急病棟へ押し寄せている病院で出産した可能性もある。

 2月12日付の医学誌「The Lancet」に発表された論文では、母子感染の証拠はないという初期結果が報告されている。

 論文によると、武漢で新型肺炎にかかった9人の妊婦を観察したところ、一部の女性で妊娠合併症が見られたものの、全員が無事に出産し、ウイルスに感染した証拠も確認されなかった。とはいえ、妊娠中の感染の可能性がこの論文で完全に排除されたわけではなく、この病気には慎重に対応する必要があることを忘れてはならない。

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