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南極半島で未曽有の20℃超、ただし公式記録にならない可能性も

  • 2020年2月20日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 南米最南端のホーン岬から800キロあまり南下すると、細長い土地と小さな島々からなる南極半島に行き着く。南極大陸の最北に位置し、ペンギン繁殖地として知られているこの場所が、今、聞き慣れない理由で大きな話題になっている。20℃を超す高温だ。

 この熱波は今は回復しつつある。だが南極半島の北端近くと、その付近の島々の気象観測所では、18℃前後、さらには20℃を超える気温を記録。正式に認められれば、南極大陸で観測された気温の最高記録を更新することになる。

 異常な高温の背景には、さまざまな要因がからむ。だが、このおかしな天気は、長期的な傾向と一致している。通常、南極半島の夏の気温は0℃近くをうろつくか、2〜3℃上回るかといったところだが、この数十年で急激な温暖化が起こっており、記録破りの領域に踏み込もうとしている。そして、大気中の炭素濃度が上がり続けているため、新記録が出たとしても、またすぐに更新されるだろう。

「全く驚きではないと思います」と、米ワシントン大学の南極氷河学者、ピーター・ネフ氏は話す。「全体的なトレンドの1つなので、今後は寒い事象よりも高温の事象を多く目にすることになるでしょう」

弱まった偏西風とフェーン現象

 最近の南極の熱波は、元をたどると数百キロ北での現象に行き着く。

 2月初めごろ、高気圧の尾根が南米の南端を越えて南下し、一帯は暖かい天候に包まれた。ベルギー、リエージュ大学の極地気候学者、グザビエ・フェットウェイス氏によると、夏に何度か起こる現象だという。ただし通常は、南極半島までその影響は届かない。偏西風が暖かい空気を侵入させないからだ。

 しかしこの数カ月、南極振動と呼ばれる現象にともなって南極周辺で偏西風が弱まっている。これが一因となって「例外的に」暖かい空気が南に流れ出したとフェットウェイス氏は言う。

 その上、南極半島の北端を取り囲む海水温は、2月の初めにかけて、通常よりも1.5〜3℃近く高かった。春に上層大気が高温になった影響が残っていたためかもしれないと、オーストラリア気象局の科学研究員ハリー・ヘンドン氏は言う。

 海と大気の高温が合体し、記録破りの高温が実現する条件が整った。そして2月第1週の終わりに、南極半島の地形が最後の一押しになった。

次ページ:最後の一押しになったのは

 南極半島には山脈が背骨のように走り、かつて南米のアンデス山脈とつながっていたと考えられている。ここでフェーン現象が起きたというのだ。気流が山を越え、下降する際に温度が上がる現象だ。

「フェーン現象の前例がないわけではありませんが、大気や海の温度が高いときに起これば高温の新記録が出やすくなります」と、デンマーク気象研究所(DMI)の気候科学者ルース・モトラム氏は話す。

 それがまさに、今月初めに起こったのだろう。英国南極観測局のエラ・ギルバート氏が「とても極端」と形容するフェーン現象が、南極半島を覆った。周辺の研究施設で、それが数字となって現れた。2月6日、アルゼンチンのエスペランサ基地は18.3℃を観測。それまで、同基地では2015年3月の17.5℃が最高であり、南極大陸全体の観測史上最高記録でもあったが、それを塗り替える値が出た。

 さらに2月9日、近くのシーモア島にあるブラジルの観測所は、いっそう極端な温度を記録した。いくつかの報道によると、20.75℃だという。検証が済めば、南極大陸だけでなく、南緯60度より南の範囲で20℃を超えた初の記録になる。

「南極で20.75℃」は公式記録になるか

 ただし、これはまだあくまで仮の記録だ。世界気象機関(WMO)で、極端な気象や気候を追うランドル・サーベニー氏は今、委員会のメンバーと協力して今回の2つの高温測定値を精査し、WMOの公式記録とするための厳しい基準を満たすかどうかを判断するとしている。このハードルを越えるという保証はない。

「極端な記録を検証する場合、そのときのセンサー、地点、そして観測所についてのあらゆる情報を得る必要があります」とサーベニー氏は言う。「適切な高さだったか、較正されていたか、人が観測した場合、観測者は測定値を正しく読み取っていたか、地点は適切だったか。こうした点を全てチェックしなければなりません」

次ページ:17.9℃が17℃に訂正された例も

 南極のように極端な環境では、ちょっとしたことで測定値がぶれることがよくある。その1つが、意外にも氷だ。晴れた日には白い表面が光を反射して、センサーの温度上昇につながる。2015年、ジェームズ・ロス島で17.9℃が観測され、南極大陸で記録された気温の最高記録を破るかと思われた。しかし、WMOは太陽による加熱効果を考慮して、測定値を17℃に下げる判断をした。

 今回の記録は、WMOの検証をパスできるのだろうか。エスペランサ基地での2月6日の数字に関しては、サーベニー氏はほぼ間違いないとみている。観測所はWMOの公式観測網の1つであり、1950年代後半から観測を続けているため、その値は気象学者の間で高い信頼を得ている。「公式見解ではありませんが、私は新記録になると思います」とサーベニー氏。

 一方、その数日後にシーモア島で測定された高温に関しては、氏はずっと懐疑的だ。この記録はWMOの恒久的な基地ではなく、ブラジルの永久凍土観測プロジェクトの一環で取られた。WMOはこの測定値を精査することになる。

重要なのは長期のトレンド

 記録の更新は大きく報じられがちだが、南極を研究する科学者にとっては、長期的な傾向の方がはるかに大きな意味を持つ。南極半島の場合、全体的な方向は明らかだ。つまり、すべてが温暖化に向かっている。

 南極大陸全体は、20世紀半ばからわずかに暖かくなっただけだ。しかし、南極半島のエスペランサ基地のように長期的に観測を続けている研究施設では、気温は1950年代から2000年代初めにかけておよそ3℃という急上昇を見せ、世界全体の平均をはるかに上回るペースで温暖化が進んでいる。

 気温が20℃近い日々がこの半島で続いたら、どうなるのだろうか。正確には誰もわからないが、もはやけっして突飛な問いではない。

 モトラム氏は言う。「将来、極端な高温現象はもっと頻繁に起こると言って差し支えないでしょう」

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