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ティラノサウルス類の新種発見、その名も「死神」

  • 2020年2月20日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 カナダ、カルガリー大学でティラノサウルス類を調査していたジャレド・ボリス氏は、ロイヤル・ティレル古生物学博物館で不思議な化石と出合った。それから2年におよぶ入念な調査の結果、この化石はティラノサウルス類の新種であることが判明、1月23日付けの学術誌「Cretaceous Research」に発表された。

 カナダでティラノサウルス類の新種が見つかるのは、ほぼ半世紀ぶり。体長約8メートルのこの恐竜は、ギリシャ神話の死神タナトスにちなみ、タナトテリステス・デグロートルム(Thanatotheristes degrootorum)と名付けられた。

 タナトテリステスが生きていたのは約7950万年前ごろで、ティラノサウルス類が生態系の頂点へと歩みだした時代と考えられる。出土した頭骨の一部(上顎骨と下顎骨、歯、頬骨の一部)からは、Tレックスを含むティラノサウルス類がどのようにして最上位捕食者という地位に至ったのか、その初期段階の歴史がひもとける。

「この種固有の特徴を見分けようと、とにかく細かいところまで注意しました。新種を命名する機会をいただけるというのは、やりがいがあります」と、論文を執筆したボリス氏は語る。

 ティラノサウルスの仲間が初めて出現したのは、1億6500万年前ごろのことだ。しかし当時は支配的な恐竜ではなかった。体高1.5メートルほどとかなり小さなものもおり、バスほどの大きさのアロサウルスや大きな爪をもつメガロサウルスといった大きな肉食恐竜の影でひっそりと狩りをしていた。

 8000万年前ごろになると、そういった肉食恐竜が衰退し、ティラノサウルス類が食物連鎖の頂点に立って大型化するチャンスが訪れる。そうして絶滅する直前の6600万年前には、有名なTレックスは体長12メートル、体重9トンを超えるまでになっていた。だが、論文によると、タナトテリステスはTレックスほど巨大ではなかったようだ。そのことからも、この時期に食物連鎖の頂点に君臨した恐竜の多様性がうかがえる。

 今回の研究に関わっていない英エジンバラ大学の古生物学者スティーブ・ブルサット氏は、電子メールにこう書いている。「ティラノサウルス類には、ダイナミックな進化の歴史があったと考えられます。すべてがTレックスのように巨大なスーパー捕食者だったわけではなく、たくさんの小さなグループに分かれており、異なる身体的特徴をもってそれぞれの場所を支配していたのです」

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なぜ新種と確認できたのか

 化石からティラノサウルス類を分類するのはたやすいことではない。当時の植物食恐竜は、仲間や敵、繁殖相手の候補などを見分けやすいよう、大きなえり飾りやとさかなどをもつように進化していた。だが、ティラノサウルスにはそのように際立った特徴はない。

「核心に迫るには、分類学的に細かな観察が必要です」と、今回の研究に関わっていない米チャールストン大学の古生物学者スコット・パーソンズ氏は言う。

 今回のタナトテリステスの化石は、カナダ、アルバータ州南部のボウ川のほとりを家族で歩いていたジョン・デ・フロート氏とサンドラ・デ・フロート氏によって発見された。2010年のことだ。二人はロイヤル・ティレル博物館に連絡し、そこから派遣された古生物学者が化石を収集して詳しい調査を行った。

「古生物学者でなくても、古生物学に貢献できることを証明したのです。とても貴重です」と語るボリス氏は、デ・フロート氏にちなみ、今回名付けたの恐竜の種小名をデグロートルムとしている。

 ボリス氏らがこの恐竜に着目したのは、化石がクリーニングされ、目録に記載され、保管されてから10年近くたったときだ。彼らは、化石の顎骨の特徴的な隆起に注目した。頬骨の断面が楕円形になっている点も、ほかのティラノサウルス類とは異なっていた。

 そうした違いを除けば、タナトテリステスは他のティラノサウルスとよく似ている。ティラノサウルス類の化石には、鼻先に傷が付いていることが多い。これはかつて他の恐竜やティラノサウルス同士で争ったしるしだ。タナトテリステスも例外ではなく、上顎の右部分に10センチメートルほどの白っぽい傷跡が残っていた。「つまり、スカーフェイス(傷がある顔)なんですよ」とパーソンズ氏は言う。

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北米のティラノサウルス類に二つのグループ

 今回の化石からわかるのが北米のティラノサウルスの多様さだ。その多くは、現在の北米大陸の西側、北極海とメキシコ湾をつなぐ地域に生息していた。

 タナトテリステスは、これまで研究対象にはなってこなかった岩石層から出土した。7950万年前のこの化石は、初期のティラノサウルス類がどのようにして巨大恐竜に進化したのかを探る手がかりとなる。論文の共著者であり、ボリス氏の指導教官である古生物学者ダーラ・ゼレニツキー氏は、「いまわかっている限りでは、北米北部で最古のティラノサウルス類の化石です」と話す。

 タナトテリステスが発見されたことで、米国とカナダの西部に生息していたティラノサウルス類には2つの系統があるらしいことがわかった。すなわち、北には鼻が長めのグループが、南にはブルドックのように鼻が平たいグループがいたと考えられている。この2つのグループは、獲物や環境の違いを反映しているのかもしれない。

 謎を解明するには、まだまだ多くのことを学ぶ必要がある。タナトテリステスの場合、2018年にアルバータ州の別の場所から小さな顎骨の破片が見つかったことを除けば、ボウ川でしか化石が見つかっていない。デ・フロート一家がタナトテリステスを見つけた場所の再調査も行われたが、別の骨は見つからなかった。残された骨があったとしても、最近の洪水によって流されてしまった可能性もある。

 ボリス氏が調査し続ければ、ほかにも標本が見つかるかもしれない。タナトテリステスの骨を探すため、アルバータ州南部の別の場所で同様の岩石層を調査する計画もある。ボリス氏は何としてももう一度、死神に会いたいと願っている。

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