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カエルを襲うツボカビ症、ヘビにも被害及んでいた

  • 2020年2月18日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 この半世紀ほどの間に、世界各地のカエルやサンショウウオが、致死的なカビ、カエルツボカビ(Batrachochytrium dendrobatidis)によって姿を消している。これまでに500種以上の両生類を激減または絶滅させており、生物多様性の喪失という点では最も危険な病原体である。

 当然、両生類を捕食する動物にも影響が及ぶはずだ。しかし、カエルツボカビ症が食物連鎖にもたらす影響については、これまでほとんどわかっていなかった。

 2月14日付けで学術誌「サイエンス」に発表された論文によると、両生類が減ったことで、カエルを捕食するヘビに大きな影響が出ているという。中米パナマのオマール・トリホス・エレーラ国立公園で、2004年にツボカビ症が広まりはじめて以降、ヘビの個体数、多様性、健康状態が大幅に低下したことが明らかになった。論文著者らは、両生類を捕食する他の動物も同じような状況にあるだろうと考えている。

 この地域から姿を消したヘビは、少なくとも12種に上る可能性が高く、あるいはもっと多いかもしれないと、論文の著者の一人である米ミシガン州立大学の生物学者エリーズ・ジプキン氏は話す。

 ヘビが減ったことでさらに別の生物にも影響が及ぶことから、ツボカビ症の影響は生態系の全体に広がっている可能性がある。「鳥類や哺乳類など、あらゆるものに広がるでしょう」と、論文の共著者である米ネバダ大学リノ校の非常勤教授ジュリー・レイ氏は言う。

13年分の調査で判明

 両生類が減少すれば捕食者に影響が及ぶのは、当たり前のように思われるかもしれない。だがそれを科学的に証明するには、一定の場所で長期間、継続してデータを取る必要がある。そうした調査は困難なので、めったに行われないと、米コーネル大学の生態学教授ケリー・ザムディオ氏は話す。氏は今回の研究には参加していない。

 今回の論文に利用された観察記録とデータは、13年以上にわたる綿密な現地調査で得られた。ツボカビ症がこの地域に広まったのは調査期間のちょうど中頃で、ツボカビ以前と以後を比較することができた。

 ツボカビ症がヘビにまで影響を及ぼしていることは、データだけで十分に示唆された。ツボカビ症が広まるまでは30種のヘビを記録していたが、感染拡大後は21種となり、記録される数も激減していた。5回以上目撃されていた種のうち半数以上は、その後の目撃回数が減少した。

次ページ:「多くの種が完全に失われたかもしれません」

 しかし、ここに生息するヘビの多くは希少な種だ。研究者が13年分の調査で目にした36種のヘビのうち、13種はたった1回しか目撃されておらず、数回しか見られなかった種も多い。これだけ目撃回数が少ないと、それぞれの種の個体数をどのように見積もればよいのかが問題になる。

 ジプキン氏は数学モデルを使い、ヘビの目撃例から個体数の動向を推定した。すると、希少な種のヘビの多くは局所的に絶滅していて、この地域では少なくとも12種が失われたことが示唆された。

 今回の論文は、「個体数の衝撃的な減少と、集団の均質化」が起きている可能性を示したとザムディオ氏は言う。「コミュニティーは永遠に変わってしまいました。多くの種が完全に失われたかもしれません」

「衝撃的な現実」

 パナマの同じ国立公園で8年にわたりデータを収集したレイ氏は、当初、カエルツボカビ症の影響を探るつもりではなかった。けれどもツボカビは、彼女が調査を始める2005年の直前にこの地域に到達していた。

 レイ氏は当時、博士号取得に向けた研究のために、ヘビの個体数と食性を調べようとしていた。研究対象は、主にカタツムリを食べると考えられていた2つの属のヘビで、アーガス・スネイル・サッカー(Sibon argus)という細身のヘビもその1つだった。

 調査の結果、このヘビは実際にはカタツムリではなく、カエルの卵を主食にしていることがわかった。論文共著者である米メリーランド大学のカレン・リップス氏らは、ツボカビ症が広がる以前に、このヘビを149回目撃していた。しかし、ツボカビ症が広まってからは、目撃回数は3分の1にまで減少し、レイ氏が見ることのできたヘビも、栄養不足でやせ衰えているものが多かったという。

 氏によると、このようなヘビは1年に1度しか餌を食べない場合もあるため、食べるものがなくなってから長い時間が経過しても、生きていられるという。

次ページ:積み重なるカエルの死骸

 レイ氏は、カエルが次々に死んでゆくのを目の当たりにした。ツボカビ症の流行が始まってからわずか半年で、ほとんどのカエルが死に、死骸が小川に積み重なっていた。

「ツボカビ症の流行前には、たくさんのカエルが見られたのです。今となっては信じられませんが」と彼女は言う。リップス氏らの以前の研究によると、ツボカビ症が原因で、この地域の両生類の個体数は75%減少し、少なくとも30種が絶滅したという。

 その後、レイ氏の研究対象であるヘビにも影響が及びはじめた。毎晩、ヘビを探しに出かけると、見つかる数は着々と減っていった。

「その瞬間はデータを集めることに一生懸命なんです」と彼女は言う。だがやがて「それらが動物の現状を示す本当の数字であるとわかります。衝撃的ですが、これが現実なのです」

影響は食物連鎖の全体に

 両生類の減少は、ヘビ以外の生態系にも影響を及ぼす。食物連鎖の下位のほうに目を向ければ、オタマジャクシがいなくなったことで小川の藻類が繁茂し、水中の酸素濃度が低下する。食物連鎖の上位のほうでは、ヘビがいなくなった反動が起きる。

「ヘビは環境の中で非常に重要な役割を果たしています。ヘビがいなくなったら、すべてが崩壊する可能性があります」とレイ氏は危惧する。

 幸いにも、かすかな希望はある。両生類の一部の種では、個体数が徐々に回復する兆しが見え始めているからだ。また、ヘビのなかには獲物をトカゲなどに切り替えることができたものがいる。さらに、もともと両生類を食べていなかったヘビの一部は、おそらく競合するヘビが減ったことで、個体数を増やしているようだ。

 とはいえ、ツボカビ症の影響はまだ解明され始めたばかりだ。しかもその影響は、間違いなく長期または果てしなく続くだろう。

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