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西南極、脆弱で知られる氷河から巨大氷山が分離

  • 2020年2月15日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 西南極に、湾へと突き出している氷河――パインアイランド氷河とその隣のスウェイツ氷河がある。パインアイランド氷河は、南極で一番早く消滅する危険があるとされる。氷河は、膨大な量の水を氷として保持している。南極の氷河がすべて海に流出すれば、地球の海面が1.2メートルも上昇すると言われている。今も進む氷河の崩壊が続けば、世界の海岸線が書き換わる可能性すらあるのだ。

 2020年2月初旬、パインアイランド氷河の棚氷(たなごおり:陸の氷床とつながったまま洋上にある部分)が分裂し、氷山が誕生する様子を、欧州宇宙機関(ESA)のセンチネル衛星がとらえた。ESAは、2019年初頭からパインアイランド氷河の亀裂を衛星で監視してきた。棚氷に走る亀裂は週末に急激に拡大し、2月9日までに310平方キロ(米国サンフランシスコの3倍近くの面積)に及ぶ棚氷が氷河から分離した。海へと向かった棚氷はすぐに崩壊し、氷山へと変わった。その最大の氷山は「B-49」と命名された。

 パインアイランド氷河では、このところ氷山の分離が相次いでいる。気候変動で解けゆく南極大陸で、今後大規模な崩壊が起こる前兆ではないかと危惧する研究者も多い。実際、2月上旬に、南極半島で18.3℃という過去最高の気温が記録されており、南極大陸における急激な変化は、無視できなくなりつつある。

「衛星から毎日送られてくるデータは、気候変動が劇的に南極の姿を変えつつあることを示しており、不安になる」とESAの上席研究員で雪氷圏スペシャリストでもあるマーク・ドリンクウォーター氏はプレスリリースの中で述べている。

 氷河は、陸地にある巨大な氷床が流れ出る氷の川のことだ。パインアイランド氷河からは、2012年以降、年間580億トンもの氷が流出しており、南極大陸で消滅するおそれが一番高いと考えられている。また同時に、海面上昇に与える影響が、一番大きいとされるのが、このパインアイランド氷河だ。

 EUの地球観測プログラム「コペルニクス」によれば、パインアイランド氷河からの氷山の分離は、2001年、07年、13年、15年、17年、18年に続き、今回が過去100年間で7度目になる。近年、この間隔が短くなってきており、氷河が不健全な状態にあることを示唆しているように見える。

次ページ:氷河の分離を宇宙からとらえた動画

「この5〜10年で起きた氷山の分離は、この地域の過去70年間の氷河の後退と比べると、異常事態だと考えられます」と、パインアイランド氷河の詳細なモニタリングを行ってきたオランダ、デルフト工科大学の衛星リモートセンシングの専門家バート・ボウタース氏は、メールでの取材に答えている。

「南極の棚氷からの氷山の『誕生』は、自然に発生する現象ですが、今回生まれた氷山は特に大きく、このような大きな氷山がパインアイランド氷河から生まれる頻度が高くなっているように思われます」と米コロラド大学ボルダー校環境科学共同研究所(CIRES)の雪氷学者アリソン・バンウェル氏は話す。

 確かに今回できた氷山は、2017年と2018年のものよりも大きい。だが、2000年代初頭のものに比べると小さい。同氏によると、19年の冬が暖かかったことが、氷山分離の一因になったのかもしれないという。

 氷河から棚氷が分離する主な原因は、パインアイランド氷河など西南極の氷河で起きた近年の崩壊と同様、アムンゼン海に暖かい海水が流れ込み、氷を海面下で解かしていることだ。これは風のパターンが変化したことで、暖かい深海の水が大陸棚に押し寄せるようになったことと関連していると考えられている。これも、気候変動の影響だと言える。

 今回のような棚氷からの氷山の分離は、海面上昇に直結するものではない。海上へと突き出した棚氷は、すでに海面を上昇させているからだ。しかし、大事なのは、パインアイランド氷河のように海に張り出した氷河は、陸上の氷の流出を防ぐブレーキとしても機能している点だ。そのブレーキが機能しなくなり、氷河が海に流れ込むようになれば、海面は確実に上昇する。つまり、パインアイランド氷河の棚氷の強度が弱まると、陸地からの氷の流出が加速するおそれがあるのだ。

 ドリンクウォーター氏によると、実際、パインアイランド氷河の氷が海に流出する速度は、1990年代に比べ速くなっており、現在は1日に10メートルを超える速度で動いているという。今回の氷山誕生にも前兆があった。少し前にパインアイランド氷河の移動速度が、通常よりさらに速くなっていたのだ。

 気がかりなのは、パインアイランド氷河と、その隣のスウェイツ氷河(同じくパインアイランド湾に注ぐ)は、地形の影響でそもそも不安定だと指摘する研究者の声だ。氷河が岩盤と接触する、いわゆる接地線が海面下にあるため、暖かい海水の影響を受けやすいのだ。接地線の氷が崩れれば、氷と岩の間に水が入り込む可能性がある。

次ページ:最悪のシナリオが現実になる日はいつ?

 この地域の岩盤は内陸に向かって低くなっており、棚氷もより厚く不安定になっている。そのため分離する氷山はますます大きくなり、最終的には一斉崩壊につながる可能性がある。この説は、海氷崖の不安定性という不吉な名で知られ、西南極全域の氷が急速に失われる引き金になるおそれがある。

 この雪氷学の悪夢のようなシナリオが起きる可能性がどの程度あるのかについては、まだわかっていない。その答えが得られることを期待して、最近、国際スウェイツ氷河の共同研究で、温水ドリルを用いて氷に深さ数百メートルの穴を開け、スウェイツ氷河の接地ゾーンを調査する試みが始まっている。

「アイスフィン」と呼ばれるチューブ状の小型ロボットなど、様々な機器を使い、この謎に包まれた領域のデータ収集や、史上初となる撮影を行ったのだ。こうしたデータが集まれば、接地ゾーンの融氷メカニズムに関して重要な知見が得られ、氷河の一斉崩壊の可能性や、将来の氷河の変化をより正確に予測できることが期待される。

 現在、南極のパインアイランド氷河は、落ち着きを取り戻したようだ。NASAの雪氷学者クリストファー・シューマン氏によると、NASAの地球観測衛星「テラ」に搭載された中分解能撮像分光放射計による最新の測定結果は、今回分離した氷の西側部分が、最大の氷山を含め、回転しながら急速にパインアイランド湾に流れ出たことを示していたという。より小さな氷の破片を多く含む東側の半分の氷山も、その後を追うように動いているという。

 今回、氷山がたくさんの小片に分裂したことは、「パインアイランド氷河の海へと張り出した部分が、いかに『弱く』なっているかを示唆しています」と同氏は話す。不安定に見える現在の状態を加味すれば、さらなる氷河の崩壊が起きてもおかしくないと考えられる。

「いずれにしても、パインアイランド氷河から、内陸の氷が海へと流出していることは、良い知らせではないのです」と同氏は語る。

 ドリンクウォーター氏も同意する。「氷河の流出は、間違いなく進むでしょう」

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