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太陽の極域を撮影する初の探査機、宇宙へ旅立つ

  • 2020年2月13日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 米東部標準時2月9日夜、初の試みを行う太陽探査機を載せたロケットが、フロリダ州のケープカナベラル空軍基地から打ち上げられた。

 太陽は毎日空で輝いているものの、これまで人間はその姿を横から(地球側から)しかとらえることができなかった。しかし、それがもうじき変わろうとしている。欧州宇宙機関(ESA)の太陽探査機、ソーラー・オービター(SolO)が、これまで見られなかった太陽の極域の詳細な観測を行うことになっているからだ。

 SolOは10種の観測機器を使って、太陽から放出されるエネルギー粒子の流れ、いわゆる太陽風がどのように起こるのかを、文字通り新たな視座から明らかにしようとしている。また、太陽活動において磁場の強さが11年周期で変化したり、予期しない変動が起こったりする仕組みについても探る予定だ。

「これらについては、まだまったくわかっていません」と、ESAのSolOプロジェクト担当科学者、ダニエル・ミュラー氏は話す。「SolOによって、解明が進むと期待しています」

 太陽活動の研究は、学問的関心だけでなく、地球の安全という点からも求められている。太陽の磁気活動の変化で起こる強力な大爆発は、送電網を停止させ、人工衛星を故障させ、宇宙に滞在する人間に致命的な危害を及ぼす可能性がある。現在のところ、このような爆発がいつ起こり、地球にどれほどの影響を与えるのかは予測ができない。

「太陽大気の内側で起こっている根本的、物理的過程が理解できれば、大きな助けになります」と、NASAのSolOプロジェクト担当次長、ホリー・ギルバート氏は言う。

 太陽観測は今、大いに盛り上がりを見せている。ほかにも複数の太陽研究プロジェクトが進められており、かつてなく強固な研究基盤が構築されつつある。

「太陽系物理学者にとっては本当にいい時代です。複数プロジェクトが協調することで、科学に大きな変化がもたらされるでしょう」と、NASAの太陽系物理学部門ディレクター、ニコラ・フォックス氏は語る。

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太陽研究の黄金時代

 米ハワイ州の地上望遠鏡、ダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡(DKIST)は、2020年1月末、目を見張るような太陽面のクローズアップ写真を発表した。動画はゆっくりと泡立つ太陽の表面を鮮やかに映し出している。パッチワークのように見えるプラズマの「細胞」は、ひとつひとつがテキサス州(およそ70万平方キロ、日本の約1.8倍)ほどの大きさだ。

 2019年12月には、NASAの太陽探査機パーカー・ソーラー・プローブが、太陽に接近して収集した最初の観測結果を報告した。学術誌「The Astrophysical Journal」の2020年2月の特集号では、このミッションに関する約50もの新たな論文が発表されている。

 その中には、初めて観測された「はぐれ」磁気波、星間物質の塵が太陽に近づいてガス化している「ダストフリー・ゾーン(塵の穴)」についての最初のヒント、初めて観測された初期の粒子放出といった報告が含まれている。また、太陽風は予想されていたよりはるかに速く横向きに流れており、それが恒星の進化に劇的な影響を与えている可能性があるという驚くべき発見も発表された。

 パーカー・ソーラー・プローブは、太陽を覆う数百万度という超高温のガス層であるコロナに飛び込まんばかりに近づいて観測している。7年かけて徐々に軌道を小さくしていき、最終的には燃える太陽の表面から600万キロメートルまで近づく予定である。

 新探査機SolOはそこまで太陽に接近しないが、パーカーと組んで活動することができるだろう。

 SolOは打ち上げ後、地球と金星の重力を利用して減速する「スイングバイ」によって太陽に近づき、今後5年間で金星の重力を使って太陽の両極が見える傾斜軌道に入る。最初に両極が見られるのは2025年の見込みだ。

「探査機が一周するごとに太陽を見る角度が高くなっていくので、極域について少しずつ謎が解けていくことになるでしょう」とギルバート氏は期待する。

 2つの探査機による高解像度の観測結果を合わせることで、太陽系で最もダイナミックな環境が明らかになるだろう。同じ時期に太陽の周りを回る2機は、太陽風がどのように太陽系惑星間空間に流れていくのかを観測する。SolOに搭載されたカメラで、パーカー・ソーラー・プローブが飛行する様子を撮影することもできる。「大きなシナジーがあるでしょう」とギルバート氏。

次ページ:パズルのピースは見つかるか

 2つの探査機が太陽の周りを飛び回っている間、ハワイのマウイ島ハレアカラ山の山頂ではDKISTが、さらに詳細な太陽表面の観測を行う。ハッブル宇宙望遠鏡よりもはるかに大きい、約4メートルもある主鏡のなせる技だ。

「宇宙探査機でもDKISTの代わりは務まりません」とミュラー氏は説明する。「可視光の領域で、DKISTは前例のない解像度を持っているのです」

 太陽研究が黄金期を迎えているのは偶然ではないと、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの太陽物理学者ケリー・コレック氏は語る。これら地上の望遠鏡や宇宙探査機は、いずれも数十年にわたる計画と技術開発が頂点に達した結果だ。

「科学技術が追いついたのです」とコレック氏。「今だからこそ、これらの素晴らしいミッションを遂行することができるのです」

パズルのピースは見つかるか

 SolOの太陽観測によって、太陽の磁場サイクルについて、パズルの重要なピースが見つかる可能性もある。太陽の活動が11年周期で活発と不活発を繰り返していることは以前から知られていた。しかし、その仕組みを説明しようとする理論が、物理的観測とどうしても一致しなかった。ミュラー氏によれば、これは、太陽の極域に関する詳細なデータが得られなかったためだ。1990年代中盤から2000年代初期に、ESAとNASAの共同探査機ユリシーズが太陽の極域を垣間見ることに成功したが、非常に遠くからであり、カメラも搭載していなかった。

「太陽の極域がどのように見えるのかはまったくわかっておらず、磁場サイクルの謎を解くにはそのデータがどうしても必要だと考えています」とミュラー氏は語る。「これまでずっとそれが死角になっていました」

 より包括的な研究によって、磁場サイクルや、エネルギーの太陽面への現れ方についても掘り下げられるだろう。新たに見つかった「はぐれ磁気波」から、太陽の表面よりコロナの温度が高い謎が解明されるかもしれない。

 加えて、太陽がどのように活動しているかより深く知ることができれば、惑星における生命の存在についてヒントが得られる可能性がある。

「なんといっても素晴らしいのは、シンプルに、それが恒星だということです」と言うフォックス氏。「私たちは恒星の仕組みを知ろうとしているのです。その知識は、ほかの恒星にも応用できるでしょう」

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