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竹のストロー、インドの山村に根差す持続可能性

  • 2020年1月27日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 インド、アッサム州バガディマ。ここは、インド北東部のジャングルに覆われた村だ。温厚な村長ロビン・ナイディング氏は、世界中でどのくらいの人がプラスチック製のストローを使っているかは知らない。だが、プラスチック製ストローを使うことについて、多くの人が良心の呵責(かしゃく)に苛まれていることを理解している。そして、彼は、この問題の解決に、自分たちが貢献できることを素直に喜んでいるのだ。

「昨年、コルカタからビジネスマンがやって来て、私たちに竹のストローをつくってほしいと言うのです」とナイディング氏は振り返る。「その人によると、ホテルの利用者にプラスチック製のストローは好まれず、そのオリジナルともいえる竹製のストローを使いたいそうなのです」。ナイディング氏はすこし間を置いてから「プラスチックは人々の健康を損なうともききました」と付け加えた。

 アッサム州は、バングラデシュ、ブータンと隣接するインドの緑豊かな辺境にある。ナイディング氏と家族は、そのアッサム州に、環境志向の新たな産業を根付かせようとしている。インドは使い捨てプラスチックを規制するという世界的な環境保護運動に加わり、プラスチックのストローを廃止するレストランも増えている。世界では、年間約800万トンのプラスチックごみが川や海に流されており、プラスチックストローは、この問題の象徴と考えられている。そのため、環境に優しい代替品が求められているのだ。

 確かに紙のストローも生分解可能だ。しかし、紙には木材が必要で、これではインドの森林資源が圧迫される。そこで、白羽の矢が立てられたのが野生の竹だ。竹はインドのほぼ全域に繁茂する万能な植物で、持続可能な有機素材だ。

 スタートアップ、バンブーゴの共同創業者ラビ・キラン氏は「竹のストローは、プラスチックや紙のストローの有望な代替品です。経済的、環境的、機能的、審美的にも優れています」と語る。バンブーゴはデリー、バンガロール、チェンナイなどの巨大都市にストローを供給するため、アッサム州の村人たちに竹の収穫と加工を依頼している。「お客さんからの評判も良いですよ」

 キラン氏によれば、使用後も殺菌し、乾燥した場所に保管すれば、竹製のストローでも100回は再利用できるという。万一、川に流れ出るようなことがあっても、分解されるため、クジラの腸を詰まらせることもない。中国、コスタリカ、南アフリカなどでは、すでに竹製のストローが大量に生産され、消費されている。キラン氏はインドでつくった竹のストローを欧米諸国に輸出したいと考えている。欧米諸国でも、使い捨てプラスチックの規制が始まっているからだ。

次ページ:竹のイス。食べられるスプーン動画も

 バガディマに話を戻そう。この村は47世帯から成る山村で、先住民であるディマサの人々が竹ストローづくりの先頭に立つ。ディマサの人たちは、はるか昔から生活の至るところに竹を活用してきた。

 村人たちは竹ひごを編み、頑丈な家具をつくり出す。バックパックの代わりに、竹のかごを背負う。まき釜のある台所には、竹のザルやおたまがぶら下がっている。竹ぶきの家も多い。真夏の晴れた日、家の中に立つと、壁の透かし模様から太陽の光が入り、星座のようにきらめく。

「結婚式では、今も竹のカップを使います」とナイディング氏は話す。ただ、竹をストローとして使う人は、これまでいなかった。

 ナイディング氏は10人ほどの親類、友人と近くの竹やぶに入り、ブッシュナイフで竹を収穫し、のこぎりで約18センチの長さに切り分ける。切った竹は、やすりをかけてからゆでられる。殺菌と色付けのため、酢やウコンも使われる。こうして完成したストローは箱詰めされ、悪路をトラックで3時間かけて最寄りの空港へと運ばれる。ナイディング氏によれば、切られた竹はさらに太く成長するという。

「最高の副業ですよ」。ふだんは米やジャックフルーツ、ライチを生産して生計を立てているナイディング氏は話す。

 ナイディング氏は1000〜1万単位でストローの注文を受ける。1個当たりのもうけは約1.5セントだ(ちなみに、食品飲料関係のウェブサイトでは、インドでつくられた竹製ストローが、この10倍以上の価格で販売されている)。現在でも、米国だけで年間5億個ものプラスチックストローが生産されている。これに比べれば、バガディマ村の竹製ストローの生産量は微々たるものだ。それでも、ナイディング氏は、竹のストローが世界中で人気になることを期待している。

 バガディマ村は急速に開拓され、森は農地に変わっている。ここバガディマもインド政府に追随し、使い捨てプラスチックの利用を規制している。だが、隔絶された奥地であっても、プラスチックの利用規制を実現するのが難しいのは同じだ。

 ナイディング氏の自宅では、プラスチックのイスは、竹製のイスに代わった。だが、インドの多くの村と同じように、バガディマ村の歩道には、ビスケットの包装やシャンプーの小袋、ビニール袋といった使い捨てられたプラスチックが散乱している。いずれも、1世代前には見られなかったものばかりだ。

「店の商品はすべて、プラスチックの容器に入っています。それらを使わないようにするのは難しいことです」とナイディング氏も認める。「きっとプラスチックストローも同じなのでしょう」

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