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希少なシマウマをリスク覚悟の「禁じ手」で保護、なぜ?

  • 2020年1月25日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 グレビーシマウマ(Equus grevyi)は、とても大きい。野生のウマでは最大の種で、体重は約450キロにもなる。突き出した耳は遠くから見ても丸く、縞模様は普通のサバンナシマウマより細かい。「本当に美しい動物です」とケニアの首都ナイロビを拠点に活動するグレビーシマウマの保護団体「グレビーズ・ゼブラ・トラスト(Grevy’s Zebra Trust)」の共同設立者ベリンダ・ロウ・マッキー氏は話す。

 しかし、グレビーシマウマには絶滅の危機が迫っている。野生のおとなはわずかに約2000頭が生き残っているのみだ。国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、絶滅危惧種に指定されている。かつては「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ東部一帯に生息していたが、現在では、ケニア北部からエチオピアとの国境を少し越えたあたりまでの一部の地域に縮小してしまった。

 20世紀、彼らは狩猟により数を減らされ、さらには、乾燥した生息地に放牧される家畜との、乏しい食物をめぐる競争が今も続いている。2009年以降、この地域は定期的に干ばつに見舞われてきた。

 干ばつが起きると、シマウマが食べる牧草が枯れてしまう。2019年10月、写真家のヒース・ホールデン氏は、グレビーズ・ゼブラ・トラストのレンジャーに同行し、ケニアのサンブル郡を訪れた。土地は「信じられないほど乾いていました」と同氏は話す。「川もすべて干上がっていたのです」

 家畜の過放牧にこうした干ばつが重なると、グレビーシマウマが大量死する恐れがある。そこで、グレビーズ・ゼブラ・トラストは、餌を与えることを決断した。2011年、2014年、2017年の干ばつ時、そして2019年の後半にも、干し草の束を水飲み場への通り道沿いに置いた。干し草は、比較的雨の多い近隣の州からトラックやバイクで買ってきたものだ。少なくとも過去10年で最悪の干ばつが起きた2017年には、3500束を超える干し草を置いた。

人間への依存は動物を不自由に

 だが、野生動物に餌を与えるのは、正しいことなのだろうか? 多くの場合、答えはノーだ。米テキサスA&M大学で人と動物の関係の倫理を研究する哲学者クレア・パーマー氏は、理論的には、餌を与えると食物を人間に依存するようになり、野性を損なうと主張できると言う。そして、人に依存するようになれば、間違いなく動物の自由は減る。

「この意味で、動物の自由を減らすのは一種の傲慢です。世界で起きることすべてをコントロールしようとする人間の思い上がりと見なせます」と同氏は話す。

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 慎重な計画なしに野生動物に餌を与えると、人に慣れすぎて行動が変わってしまう危険性がある。渡りや回遊を行う動物が季節ごとの移動をやめることもあれば、人に慣れた動物が人間に近づきすぎて、人を怖がらせたり畑や家を荒らしたりして、その報いに駆除されることもある。

 今回の場合、グレビーシマウマが干し草を食べるのは人がいなくなった夜だ。そのため、彼らは人に慣れるどころか、餌を運んできた車の運転手すら目にしない。

 また、餌をやらなければ、待っているのは飢え死にだ。したがって、ある種の野性が少しばかり失われたとしても、生き残るためには許容できる代償だと、ケニアの野生生物管理者は考えている。加えて、グレビーシマウマは、数千年にわたりほかの草食動物と共に暮らしてきたのに対し、わずか数十年で気候変動への適応を迫られているとパーマー氏は述べる。「人間の影響を受けずに生きる選択肢があるとは思えません」

「共有地の悲劇」を避けた実例

 いずれにしても、これがゴールではないとマッキー氏は言う。目標は、人間、家畜、グレビーシマウマの共存だ。土地を回復させて、野生動物も家畜も含め、すべての草食動物を支えられるようになり、餌やりが「短期的な介入」で済むよう同氏は願っている。

 回復の取り組みには、動物が食べられないアカシアの木を切り倒し、その枝を利用して雨水が流れる溝を埋めることや、牧草の種を植えることなどが挙げられる。さらに、土地を所有するコミュニティーと協力し、もはや遊牧を行わなくなった生活様式に合うよう放牧の慣習を調整することも含まれる。「構想を描く取り組みが始まりました」とマッキー氏は話す。「これが、彼らにインスピレーションを与えました。自分たちの将来に本当に前向きになれることに気がついたのです」

 グレビーシマウマを取り巻く現状は、いくつかの点で、生態学者ギャレット・ハーディン氏が提起した有名な思考実験の現実版だと言える。放牧地などの共有資源の乱用は避けられないという「共有地の悲劇」だ。他者が放牧する動物をどんどん増やしている場合、共有資源が枯渇しかけていても各個人が放牧を自重するメリットがないのだ。

 しかし、土地を所有し牧畜を行う者たちが、ウシはもちろんグレビーシマウマにも牧草を確保できるようにする土地管理の方法についてもし合意できれば、ハーディン氏の悲観的な予測が間違っていることを証明する新たな一例になる。

 2009年のノーベル経済学賞を受賞したエリノア・オストロム氏は、このような成功例の研究を行った。つまり、共有資源を公正かつ良識的に自主管理するコミュニティの実例だ。たとえば、高山の草原を共有するスイスの放牧農家では、冬に餌を賄える数のウシだけを、夏に共有の牧草地に放牧してもよいと合意したところがある。日本の伝統的な森林管理方法も、成功例のひとつに挙げられている。

 突き詰めていくと、グレビーシマウマの物語は、種の保全というものをはっきりと示している。短期的には、資金や政治的配慮、あるいは干し草など、資源を直接投入すれば種を救える。だが長期的には、人間と他の種が共存共栄できるよう地域全体を管理することが、地球の生命の多様性を保全する最善の策だろう。

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