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北極は数十年で4℃上昇、温暖化は加速モードに

  • 2019年12月10日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 グリーンランド西部で26年にわたり、季節の推移を定点観測しているエリック・ポスト氏は、その間大きな変化を目撃した。当初は何百頭ものトナカイが丘を埋め尽くしていたのが、今では90頭ほどに減ってしまったのだ。

「来春になればまた増えるだろうと思いつつ年が過ぎていき、気がつけば、かつてのような大きな群れではなくなっているのです」と語るポスト氏は、生態学者として米カリフォルニア大学デービス校で気候変動を研究している。

 世界の気温が2℃上昇したとき、北極と南極はどうなっているのかを報告する新たな論文が、12月4日付けで学術誌「Science Advances」に発表された。それによると、すでに北極は温暖化した世界を先取りしており、近いうちに誰もがその影響を目にすることになるという。

「緩和措置を直ちにとらなければ、今後20〜40年で、北極が加速度的に温暖化する段階に入るでしょう」と論文の著者であるポスト氏は警告する。論文は、複数の国から幅広い分野の科学者が共著者に名を連ね、両極の温暖化が現在と未来に及ぼす影響を検証する内容だ。

温暖化を先取りする北極

 北極では、地球上のどこよりも速く温暖化が進んでいる。この10年だけで北極の気温は1℃上昇した。論文によると、温室効果ガスの排出がこのままのペースで続けば、北極地方の気温は今世紀半ばに年平均で4℃高くなる。特に秋は最も変化が大きく、気温は7℃上昇するという。同じ頃に地球全体の平均気温は2℃上昇するとみられているが、これは悲惨な影響が生じるかどうかのしきい値とされることが多い。

 すでに北極地方では、先例のない変化がいくつも起きている。陸と海での氷の大規模な減少や、永久凍土の融解、森林火災、季節外れの嵐、春の訪れの早まりなどだ。今年の夏の海氷面積は、人工衛星による観測が始まった1979年以降で2番目の小ささとなった。また、7月の暑さで、グリーンランドの氷床から数十億トンの氷が解けた。森林火災はアラスカからシベリアにかけて数百万ヘクタールを焼き尽くした。

「近年の北極地方の温暖化は、すでに広い範囲に明らかな影響を及ぼしていますが、さらに温暖化が加速した状況ではこんなものでは済まないのです」とポスト氏は言う。

 北極でも南極でも、数々の憂慮すべき変化が生じている。しかし、変化が格段に速いのは北極だ。近い将来、北極の温暖化の影響が高緯度地域にとどまらず、はるかに広い範囲で感じられるようになると論文は警告している。

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予想以上に速いペースで海氷が消えている

 科学者たちが特に心配しているのは、北極の海氷が失われることだ。夏の海氷は、過去40年にわたって10年ごとに10%を超えるペースで縮小している。温室効果ガスの排出ペースがこのまま続けば20〜25年以内に消滅すると予想されており、もっと早い時期を予想する研究者もいる。

 論文の共著者で、カナダ、マニトバ大学と米国立雪氷データセンターの極域リモートセンシングの専門家ジュリエンヌ・ストローブ氏は、北極の温暖化により、夏の海氷の縮小はしきい値を超えてしまった可能性があると考えている。

「人々が二酸化炭素の排出量を削減して温暖化に歯止めをかけようとしている中でこんなことを言うのは危険なのですが……夏の北極海から海氷がなくなるのは現実になりそうです」

 ストローブ氏による最近の研究では、北極海の海氷が、現行のほとんどの気候モデルが予測するより速く縮小していることが示唆されている。海氷の縮小は悪循環を引き起こす。つまり、光を反射しやすい海氷が解けると、海面が熱を吸収しやすくなり、海水温が上昇することでさらに多くの海氷が解けるのだ。

 北極海の海氷が解けると、北半球の中緯度地域に、干ばつ、洪水、熱波などの異常気象が増えるおそれがある。科学者の間でも議論があるが、いくつかの研究では、北極の温暖化によりジェット気流が弱まり、蛇行しやすくなることが示唆されている。そうなると、北極地方の冷たい空気が現在よりも南下し、暖かい空気が北に張り出すようになるという。

「北極の温暖化が加速すると、中緯度地域と高緯度地域の温度差が変化して、米国本土をはじめ北半球全体の天気に影響が及びます」と論文共著者である米ペンシルベニア州立大学の大気科学者マイケル・マン氏は説明する。

「中・高緯度地域の温度差はジェット気流を作り出しています。温度差が小さくなれば、ジェット気流は遅くなり、高気圧や低気圧が長期にわたって同じ場所にとどまるようになります」

 マン氏によると、この現象は、今年の夏にヨーロッパを襲った猛暑や、近年、米国東部から中西部までを凍りつかせている北極からの強力な寒波と関連があるという。

永久凍土が解けて森林火災が激しくなる

 海面上昇も心配されている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が9月に発表した報告書によると、北極圏の陸氷、特にグリーンランドを覆う広大な氷床は、現在の気候モデルの予想より速く解けていて、海面上昇は今世紀末に約1mという現行の予測をかなり上回る可能性があるという。

 北極圏の永久凍土の融解も進んでおり、強力な温室効果ガスであるメタンを放出して大気中のメタン濃度を急上昇させ、温暖化に深刻な影響を与えている。

 最近発表された別の研究では、永久凍土が融解した土壌が乾燥することで、北極地方の森林火災の激しさが年々増していくと予測されている。

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 北極ではすでに季節が狂いつつある。春の訪れがどんどん早くなり、植物がどんどん成長するため、ツンドラの動物たちが繁殖地にやって来る頃には、彼らが食べる植物の栄養分はピークを過ぎてしまっている。花は、花粉を運ぶ昆虫たちがやって来る前に咲いてしまい、渡り鳥は、植物の新芽が出る時期に間に合わない。今回の論文によると、季節の変化は加速していて、将来的には生態系の適応力を超えるおそれがあるという。

 北極の温暖化はさらに、海の食物網を破壊し、ホッキョクグマやアザラシを死に至らせ、この地域の先住民の暮らしを脅かすおそれがある。明るい展望を1つ挙げれば、クジラは今のところ、海氷が減少したことで活動範囲が広がり、恩恵を受けているようだ。

南極は北極よりも温暖化が遅い

 北極の気温が急上昇しているのに対し(論文によると、今世紀末には季節によっては13℃も高くなる可能性がある)、南極の温暖化はこれまでのところ、一部地域を除いて世界平均と同程度だ。

 北極も南極も変わりつつあると、ペンシルベニア州立大学の雪氷学者で南極の専門家であるリチャード・アリー氏は言う。「ただし、そう単純な話ではなく、両極が同じように変わるわけではありません。北極と南極は別物だからです」

 南極大陸は広大な南極海に囲まれている。その南極海が、大気の余分な熱の多くを吸収しているのだ。「熱は海に吸収されるので、大気にとどまらないのです」とアリー氏は説明する。

 南極の氷も温暖化によって解け出しつつある。たとえば、日本の半分ほどの大きさがあるスウェイツ氷河は急速に後退している。また、氷河が海に押し出された棚氷は、上からも下からも薄くなっている。科学者たちはこうした傾向を心配している。

「気温や水温の上昇は棚氷を弱くし、ある限界を超えると棚氷は崩壊しやすくなります」とアリー氏は話す。

 西南極の棚氷が崩壊し、スウェイツ氷河などが融解すれば、海水面は2100年までにさらに30cm以上も上昇するおそれがある。そして、氷河の融解が臨界点を超えて不可逆的になってしまえば、22世紀には海水面が3m以上も上昇する可能性がある。

「西南極での比較的小さな展開の差が、海水面の上昇では非常に大きな差につながるおそれがあります」とアリー氏は言う。

 南極の海氷は拡大と縮小を繰り返している。しかし、過去2年間の秋の海氷は記録的に少なかった。さらに、南極海の温暖化により、これまで隔離されていた南極大陸に、外来種や病気の侵入ルートができてしまうおそれも出てきた。すでに南極のペンギンの一部は生息域を変えざるをえなくなっているが、将来的にはさまざまな種が移動を強いられるかもしれない。最近発表された別の論文では、コウテイペンギンが今世紀末にはほとんど見られなくなる可能性もあるとしている。

北極の声に耳を傾けよ

 今回の論文は「現在起きている変化と温室効果ガスの排出シナリオとの関係をしっかり評価できています」と米アラスカ大学フェアバンクス校の大気科学者ジョン・ウォルシュ氏は認める。なお氏は今回の論文には関わっていない。「2℃の温暖化は排出量を極力少なくできた場合のシナリオですが、この論文は、その場合ですら北極がこれまでとは違った場所になってしまうことを指摘しています」

 化石燃料の使用による排出量を減らすことで、北極の温度上昇の幅を小さくしたり、数十年遅らせたりすることができるかもしれないと著者らは主張する。

「ある意味、北極は私たちに語りかけているのです」とポスト氏は言う。「あとは、私たちがその声に耳を傾けるかどうかです」

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