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コヨーテの生息域が40%も拡大、南米大陸が目前に

  • 2019年12月6日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 コヨーテが勢力を拡大している。

 このイヌ科の動物は、かつて北米大陸の西側3分の2の地域だけに生息していたが、20世紀に入ってそのエリアを劇的に広げた。現在の生息域は1950年代と比べて40%も拡大しており、北はアラスカ州、南は中米パナマにまで達している。北米に生息する肉食動物で一番の勢いだ。

 ここまで増えた要因はいくつもある。オオカミが絶滅寸前まで減っていること、コヨーテの毛皮を販売できなくなったこと、エサが豊富な郊外の住宅地が増えたこと、そして、進化の中で獲得した天性の粘り強さもその一因だろう。

 米オハイオ州立大学とマックス・マグロウ野生生物基金に所属する研究者スタン・ゲールト氏は「獲物を狩る大胆さを持ちながら、用心深さとずる賢さを持ち合わせており、このバランスをうまく取ることのできる動物」と、コヨーテを評する。米国内で1年間に駆除されるコヨーテの数は40万匹以上。そのうち8万匹は連邦政府によって駆除されている。「米国で最も迫害されている動物」という見方もできるだけに、実際にコヨーテが個体数を増やしているという現実は驚くべきことだ。

 ゲールト氏は、2000年からシカゴのコヨーテを調査している。全米第3の大都市であるシカゴでも、2000年以前からコヨーテが目撃されるようになった。「私たちはコヨーテの環境適応能力を過小評価しがちです。でも、彼らは人間の目には無理と思うような場所へまで生息域を広げようとしています」

 研究を始めた頃、ゲールト氏はコヨーテの生息地が公園や緑の多い場所に限られると考えていた。しかし、それは間違いだと気づいた。「住宅地、都市の郊外、都市部など、コヨーテはあらゆる場所にすみついています。姿を見かけないのは空港くらいですが、それは見つかれば殺されてしまうからでしょう」

 ニューヨーク市からフロリダキーズ、ハリウッドにいたるまで、コヨーテが適応できない町や気候はないようだ。最近では中米のパナマにまで進出し、その先の南米大陸へも足を延ばそうとしている。

 コヨーテの拡大は、いつ止まるのだろうか。多くの都市生態学者たちが、その行く末に関心をもっている。

次ページ:コヨーテの拡大は止まるのか?

 環境適応力に優れるコヨーテは、一夫一婦制で、夫婦が一緒に子育てをし、縄張りをつくる。ゲールト氏は、この縄張りをもつ習性がコヨーテの拡大に歯止めをかけるかもしれないと考えている。

 通常、縄張りをつくる余地がなくなれば、それに合わせて個体数が減ると考えるだろう。しかし、シカゴのコヨーテは違っていた。交通量の多い街中の道路など、生息に向かない危険な場所にまで入り込んでいるのだ。子が自分の縄張りをもてないときは、親が自分の縄張りを分け与えることもある。

 この縄張り本能のために、個体数管理を目的とした殺処分が効果を上げないこともある。駆除しても、空いた縄張りにほかのコヨーテが入り込むからだ。さらに悪いことに、駆除率が上がると、子のコヨーテの成長も速くなり、メスは多産になることもわかってきた。

都市に適応するコヨーテ

 野生に暮らすコヨーテは、病気で個体数が自然に調整されることが多い。例えば、野生のコヨーテの間では犬ジステンパーが流行する。ところがシカゴのコヨーテは、疥癬(かいせん:動物の毛が抜け落ちる皮膚病)や自動車事故で命を落とす以外は奇妙なほど健康で、田舎のコヨーテよりも寿命が長いのだ。

 ノースカロライナ州自然科学博物館とノースカロライナ州立大学に所属する動物学者のローランド・ケイズ氏が米国東部のコヨーテ捕獲記録を分析したところ、コヨーテの個体群は米国東部で最初にすみ着いたメイン州とニューハンプシャー州で環境が支えられる個体数の限界に達した可能性がある。これは「環境収容力」と呼ばれる。ただし、ケイズ氏はまだ確実なことは言えないと慎重だ。

 米農務省の野生生物学研究員スチュアート・ブレック氏は、コロラド州デンバーでのコヨーテの集団は過去10年間安定しており、環境収容力に達したのではとみている。ただし「この先も地理的に生息域が広がれば、どこが限界となるかはわかりません」とブレック氏は話す。

 決まったものを食べる動物であれば、食料が手に入るかどうかで個体数に歯止めがかかり得る。ところがコヨーテは雑食性で、人間が食べる果物や野菜も口にする。米国の郊外なら、そのどちらも豊富だ。

 コヨーテは、野生と都市の境界が曖昧な地域に生息する。たとえば、ゲールト氏が調査していたシカゴのブッセ・ウッズ自然保護区は自然が多いように見えるが、年間少なくとも250万人が訪れる公園で、住宅地や交通量の多い道路にも囲まれている。

「自然の多い保護区でさえ、コヨーテは人間や犬が暮らしているすぐ近くで生まれ、成長しているのです」

 個体数は増加しても、今のところシカゴでは人間とコヨーテの接触による問題はそれほど増えてはいない。「都市にすむコヨーテが何世代も交代するうちに、人間を恐がらなくなってしまわないかを心配しています」と、ゲールト氏は言う。

南米への到達はあるのか?

 人間が地球環境に影響を及ぼすようになり、多くの生物が絶滅へと向かうことが懸念されている一方で、コヨーテはその個体数を増やし続けている。「実に興味深い進化の物語です。そんなことが、私たちの目の前で起こっているのです」と、ケイズ氏は言う。

 こうしている間にも、コヨーテは南へ向かって文字通り、その分布の境界を押し広げている。2013年、森林伐採によって土地が開けたパナマへコヨーテが初めて入り込んだ。そして今、南米へ到達しようとする彼らの前に立ちはだかるのが「ダリエン地峡」だ。ここを突破すれば、コロンビア、ベネズエラ、ブラジルの草原地帯や農業地帯へと広がり、「森林をのぞく南米大陸をすべて制覇してしまうでしょう」と、ケイズ氏は予測する。

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