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七面鳥が米国北東部で爆発的に増加、なぜ?

  • 2019年12月3日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 米ニューハンプシャー州では、シチメンチョウ(七面鳥)の姿はおなじみのものだ。彼らが道路脇を闊歩し裏庭を通り抜ける光景は、州のそこかしこで見られる。

 テッド・ウォルスキー氏は誰よりもそのことをよく知っている。なぜなら、彼が仕掛けたことだからだ。

 1975年、ニューハンプシャー州漁業狩猟局の生物学者だったウォルスキー氏は、州西部の町ウォルポールで、トラックの荷台から25羽のシチメンチョウを放した。森林破壊と行き過ぎた狩猟によって、南北戦争以前という昔にニューイングランド地方、すなわち米国北東部で姿を消したシチメンチョウを再導入する試みだった。

「もともと、数千羽の域を超えるとは思ってもみませんでした」と、40年余り経った今も同じ職についているウォルスキー氏は振り返る。ニューハンプシャー州のシチメンチョウの数は当初の予想をはるかに超えて爆発的に増え、数千羽どころか4万羽程度となっている。この数は再導入以来最も多く、また州が対応できる上限だろうと考えられている。周辺の州や米国内の他の地域でも同様の事態だ。メイン州では6万羽、バーモント州では4万5000羽、マサチューセッツ州では2万5000羽。アラスカ州を除く米国全域で、毎年600万羽が繁殖している。

 いったいなぜ、シチメンチョウは米国で史上最も成功した野生動物再導入の1例となったのか? 考えられる理由は、彼らが驚くほど、そして予想外に人間の近くで暮らすことに長けていたからだ。

 シチメンチョウは市街地の郊外に暮らし、そうした境界ならではの恩恵を受けている。森林も開けた土地もあるうえ、人間が提供する無限の食物(特に鳥用の粒餌)にありつけるのだ。シチメンチョウの生息地のほとんどから、オオカミやピューマなどの捕食動物がいなくなってしまっていることも有利に働いている。

「40年前に、郊外や都市部がシチメンチョウだらけになるなんて予想した人はいなかったはずです」と話すのは、マサチューセッツ州漁業野生生物課の野生生物学者、デビッド・スカーピッティ氏だ。「けれど、彼らが一時的な存在でないことは明らかです」

次ページ:シチメンチョウ問題

シチメンチョウはどのようにして戻ったのか

 1634年、ウィリアム・ウッドは著書『ニューイングランドの展望』でシチメンチョウの多さについて述べた。「ときに40羽、60羽、100羽と群れている。それより少ないときも、多いときもある」。ウッドによれば、猟に規制のなかった17世紀当時のハンターたちは、1日に10羽から18羽殺すこともあったという。そのせいで、ニューイングランド地方からはシチメンチョウがほぼいなくなった。

 1960年代から1970年代にかけて、多くの州が元の生息地にシチメンチョウを再導入し始めた。シチメンチョウのような雑食動物は、植物や昆虫等の個体数のバランスを保ってくれるのだ。ウォルスキー氏が最初の25羽を捕獲したのは、ニューヨーク州とペンシルベニア州の境にあるアレゲニー山脈だった。その後、バーモント州との境である肥沃なコネチカット川流域に放鳥した。

 シチメンチョウは木の実を主食としているが、冬の間はトウモロコシを食べているとの証拠があったため、ウォルスキー氏は当初、農場の近くに鳥を放していた。

 しかし、シチメンチョウは考えられていたよりもずっとタフだった。ニューハンプシャー州の農場が1975年の600戸以上から現在の100戸ほどまで激減したにもかかわらず、彼らは繁栄し続けている。

 ウォルスキー氏が言うには、彼らは主に裏庭などに設置された鳥用の餌場のおかげで生き延びている。「真冬に雪が1メートルも積もったようなときには、それが救いになるわけです」

シチメンチョウ問題

 シチメンチョウが目立って増加した地域の一つに、マサチューセッツ州ボストン市郊外のブルックラインがある。

「私は1990年代にブルックラインで育ちましたが、一度もシチメンチョウを見た記憶はありません」と、ブルックライン警察で動物管理を担うデイビッド・チェン氏は話す。「今は、高校の周りをうろついていたりするんです。シチメンチョウにまつわる通報も確実に増え続けています」

 狩猟者も捕食者もいなくなった今、「シチメンチョウの数をコントロールするものが何もない状態です」と同氏は言う。けがをしていた個体を含め、市は過去に何羽か安楽死させたことがあるが、これは公式な方針ではない。

 シチメンチョウとのトラブルの多くは、彼らが道を悠々と歩き、交通の妨げになることから生じている。「運転手はヘッドライトを浴びたシカのようになってしまうんです。何をしたらいいかわからず、ただ止まってしまう」とチェン氏は話す。これがまた、新たな問題に結びつくのだと言う。シチメンチョウはしばしば、車体に反射した自分の姿を攻撃し始めるのだ。「シチメンチョウが車をつつき始めるわけですが、そういうとき運転手はショックで、どうしたらいいかわからなくなってしまっています」

 シチメンチョウは昔から大胆だった。1784年、ニューイングランドの住人だったベンジャミン・フランクリンは、彼らの威勢の良さについて娘に宛てた手紙の中でこう書いている。「赤いコートをまとった英国の近衛兵が自分たちの縄張りたる農場を荒らしに来たなら、彼らは躊躇なく攻撃するだろう」

 しかし、当時と異なり、現在ではシチメンチョウが都市部での生活の仕方を学習している。

「人間に慣れれば慣れるほど、こうした生得的な(攻撃的)行動を取ることが増えます。元々、シチメンチョウが普段からやっているようなことです。人間を恐れなくなると、それを人間に対してもやるようになるのです」

次ページ:共存するには

共存するには

 もちろん、多くの人がシチメンチョウを目にすることを楽しんでもいる。たとえば、オスの立派な尾羽など、見応えがあるものだ。ニューハンプシャー州漁業狩猟局が最近行った調査によれば、シチメンチョウを「非常に嫌っている」と答えたのは492人中わずか1人だった。

「97%以上の人がシチメンチョウを好きまたはとても好きであるということは驚きです」とウォルスキー氏は話す。「嫌がっている人は、ほんの1%か2%にすぎないのです」

 多くの都市生活者たちもこれに同意しているようだ。「(ブルックラインの)住民の多くは、街にシチメンチョウの姿があるのは素敵だと思っていて、だから餌をやってしまうんです」とチェン氏は話す。

 しかし、シチメンチョウにとっても人間にとっても、餌はやらないほうがいい。野生生物管理の関係者たちによれば、鳥用の餌場も撤去した方がよいという。

 シチメンチョウと共存する方法には他に、ネットで植物を覆うなどして庭を保護すること、縄張り意識の強いシチメンチョウを挑発しかねない鏡状に反射する表面などをぼかすこと、接近しすぎるシチメンチョウを大きな音やホースの水などで撃退することなどがある。

減ってきた州も

 20世紀後半に似たような経緯でシチメンチョウが増えた米国南東部やニューヨーク州では、ここ数十年、個体数が減っている。

 これらの州よりも再導入が遅かったニューイングランド地方も、同じような道をたどる可能性がある。そう話すのは、シチメンチョウの狩猟と保全を掲げる非営利団体、国立野生七面鳥連盟の野生生物学者であるマット・ディボーナ氏だ。

「捕食者の増加、営巣成功率の低下、病気などの要因が、ニューイングランドのシチメンチョウにも当てはまる可能性があります」とディボーナ氏は言う。

 しかし、スカーピッティ氏は、ニューイングランド地方の郊外に暮らすシチメンチョウは強力なニッチを獲得しており、そうした変化にも厳しい冬にもびくともしないだろうと予測している。

「2014年から2015年にかけての冬は、シチメンチョウにとっては考えられる限り最も厳しいものでした。しかし、食物の補給があったために、私の計算によれば個体数にはほぼまったくと言っていいほど影響がなかったのです。あの年に減らなかったのであれば、今後も減るとは思えません」

 むしろシチメンチョウは、感謝祭のメニューで目にするのと同じくらい、米国中の家の裏庭で頻繁にその姿を見かけるものとなるかもしれない。

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