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謎の断層を発見、既存の海底ケーブルを流用で

  • 2019年12月3日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 米カリフォルニア州モントレー湾の青く輝く海の底に、未知の断層群があることが明らかになった。

 学術誌『サイエンス』に11月29日付けで発表された論文によると、この断層の正体は謎だらけ。断層の大きさも、形も、どのくらい活動的なのかもわからない。はっきりしているのは、地震についてよく調べられている地域でさえ、海底の断層地図は穴だらけということだ。これはたいへんな問題である。海底断層の位置がわからなければ、沿岸に住む人々は、自分がさらされている脅威がわからないからだ。

 新たな研究は、この「穴」を埋めてくれる可能性がある。私たちが日々メールやツイートや動画を送るのに使っている光ファイバーケーブルを利用すればいいのだ。今や、光ファイバーケーブルは地球をぐるぐる巻きにしている。科学者たちは今回、モントレー湾の海底に敷設された庭用ホースほどの太さの光ファイバーケーブルを借り、一時的な地震観測網とすることで、カリフォルニア沖の未知の断層を発見した。

 世界には、通信用の光ファイバーケーブルは敷設されているものの、数千個の地震計を設置するための予算やスペースはないという大都市がたくさんある。今回の手法を応用すれば、そうした都市の地震データを集められるのではないかと、研究者らは考えている。人口密集地のすぐ沖にあるケーブルに少し手を加えて、新しい早期警戒システムの土台にできるかもしれない。

「非常に大きな可能性があります」と、論文共著者であるモントレー湾水族館研究所のクレイグ・ドー氏は言う。「世界には無数の光ファイバーケーブルが張り巡らされていますから」

海底ケーブルで断層発見

 米国西部には地震観測網が張り巡らされ、地殻の運動に関する情報をコンスタントに提供しているため、地質学者たちは主要な活断層帯をモニターし、新たな揺れが発生すれば直後にとらえることができる。しかし、太平洋に出た途端、地震計の数は激減する。断層地図はまだらになり、私たちは海底の地震に気づかないだけでなく、どこを探せばよいかもわからずにいる。

「陸上では、私たちは地殻についてすべてを理解していると思い込んでいます。けれども海に出ると、私たちの知識は街灯が並んだ道のようなものであることに気づきます。街灯はまばらにしか設置されておらず、私たちはそこでしかものを見ることができないのです」と、論文の筆頭著者であるカリフォルニア大学バークレー校の博士論文提出資格者ネイト・リンジー氏は説明する。

 リンジー氏らが今回用いた手法は「分散型音響センシング」と呼ばれるもの。光ファイバーケーブルにレーザーパルスを連続的に発信することで、ケーブルのそばで起きた振動を検知、地震が発生した場所を特定したり、新しい断層構造を発見したりできる手法だ。

「この手法では、2m間隔で地震計を設置したのと同じ情報を得ることができます。空間分解能は現在の100倍以上になるでしょう」と、ドイツ地球科学研究センター(GFZ)の地質物理学者フィリップ・ジュセ氏は説明する。同氏はこの研究には参加していない。

 実験に先立ち、リンジー氏らは約8カ月間、米国エネルギー省が管理するサクラメント近郊の陸上ケーブルを使って測定を行い、この手法の検証を行った。実際に沖合で試す機会が訪れたのは2018年3月のことだった。海底の科学探査に用いる観測網「Monterey Accelerated Research System(MARS)」が定期保守点検に入り、海底ケーブルに「空き」ができたのだ。

次ページ:見えなかった断層群が浮かび上がる

 長さ52kmのこの光ファイバーケーブルは、通常は海底に電力を供給したりデータ送信に用いている。リンジー氏らは、MARSがケーブルを使用しない4日間を利用してこれにレーザー光を送り込み、地震データを収集した。レーザー光は約20kmの距離まで到達、1万個の地震計を海底に設置したのに相当する観測を行うことができた。

 実験中、カリフォルニア州ギルロイ付近でマグニチュード3.4の地震が発生した。この地震による地震波は海底を伝わり、断層帯を通過する際にエネルギーの一部を散逸させ、それまで見えなかった沖合の断層群の姿を浮かび上がらせた。

海底の地震観測を一変させるか

 分散型音響センシングの手法が沖合でもうまくいくことを確認できた研究チームは、ほかの海洋環境でも試したいと考えている。特に注目しているのは、地震の脅威に直面している沿岸地域だ。

 現在、海底の地震観測は限られた範囲でしか行われていない。しかし今回の手法を用いれば、これまでほとんど調べられていない沖合の環境についても、詳細な地震観測が可能になる。

 太平洋岸北西部地震ネットワーク(Pacific Northwest Seismic Network)のネットワーク・マネジャーであるポール・ボディン氏は、オレゴン州とワシントン州の沖合の海底にある光ファイバーケーブルは、「津波や地震の観測データや早期警戒情報、まだ調査が行われていない領域の基礎科学研究データの提供に役立つ可能性があります」と言う。さらに今回の研究は、「将来的に常時行えるようになるであろう観測を、4日間のぞき見ることができた」点でも画期的だと評価する。

 カリフォルニアの大陸棚沿いは地震活動が非常に活発であるため、この地域で新たな断層が見つかるのは特に意外ではないが、さらなる研究が進めば、この断層の構造を評価したり、危険性を見きわめたりもできるだろう。

 リンジー氏のチームは、MARSのケーブルをあと1年ほど利用して、地震環境に関するデータを追加で収集したいと考えている。今回の実験で調査できたのはMARSのケーブルが通っている範囲のうち一部の海底だけだが、さらなる技術改良により全長分の海底を調べられるようになるかもしれず、そうなればもっと意外な発見もあるはずだとドー氏は期待する。

「全長分の海底が監視できれば、全域の断層地図を描くことができます。そうなれば地震観測は大きく進化するでしょう」

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