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空気清浄を期待して観葉植物を買ってはいけない

  • 2019年11月19日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 私たちの目を楽しませてくれる観葉植物。だが、部屋の空気をきれいにする効果はほとんどないという。「そんな事実は知りたくなかった」と思うかもしれないが、これが科学者の出した答えだ。

 インターネットを検索すると、そんなはずはないと思うだろう。インテリアに関するウェブサイトでは、空気中の危険な化学物質を除去するという植物が数多く紹介されているし、オンラインストアでも、空気をきれいにするとうたう植物が売られている。

「多くのインターネット記事や健康関連のブログで、植物が室内空気質(建物内などの空気中のガス成分量)の状態を改善する特効薬として薦められています。そこで、この問題について、より深く調べることにしました」と話すのは、米ドレクセル大学の環境エンジニアで、室内空気質の専門家でもあるマイケル・ワリング氏だ。

 その成果は、11月6日付けで学術誌「Journal of Exposure Science and Environmental Epidemiology」に掲載された。ワリング氏は共著者とともに、過去10年に発表された12件の科学研究を検討。対象の植物は計196種類に上った。

1989年のNASAの実験

 こうした過去の研究のうち、室内に置く小さな鉢植えの植物がさまざまな有害物質を除去できると結論を出したものは、いずれも実験室内で行われていた。ワリング氏によると、小さな容器に植物を置き、有害な気体である揮発性有機化合物(VOC)にさらすのが典型的な実験方法だという。

 それぞれの実験は、密度や除去時間の点で幅があった。ある実験は、一般的な室内用のツタを、VOCの一つでシックハウス症候群の原因でもあるホルムアルデヒドにさらしたところ、わずか24時間で3分の2が除去されるという結果を出していた。

 しかし、こうした研究には問題があるとワリング氏は言う。それは、実験で気体を密に入れた空間と、普通の家庭やオフィスの環境とでは違いが大きいことだ。

 空気清浄効果をうたう植物を販売するブログや業者の多くがその根拠として挙げるのが、1989年のNASAの研究だ。幅、奥行、高さが60センチ余りの空間をさまざまな気体で満たし、小さなファンで循環させ、その中に植物を置くというものだった。狭い気密容器内で植物がVOCを低減できることを示したこの30年前の研究により、消費者の植物への期待が大きくなりすぎたのではないかと、専門家は話している。

「実験データに欠陥があるとは言っていません」とワリング氏。ただ、これは実験室での結果にすぎないということだ。

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空気の質を変えるのに必要な植物の数は

 もっと一般的な住宅環境で植物がどう作用するか測定しようと、ワリング氏はそれぞれの実験について、クリーンエア供給率(CADR)を計算した。CADRは米国などで使われる指標で、一定時間に空気清浄機が室内にきれいな空気を供給する量を測定する。

 CADRを使い、ワリング氏らは各研究の結果を標準化した。これにより、機械式空気清浄機を使う、窓を開けるなど、すでに効果がわかっている方法と比較し、植物が室内の空気をきれいにできた度合いを判断することができた。

「植物は確かにVOCを減らします。ですが、その速度はかなり遅く、建物内ですでに利用されている換気システムと肩を並べられるほどではありません」とワリング氏は言う。

 空気の質を左右するほどVOCを減らすには、約30センチ四方につき10本ほどの植物が必要になる。これは約45平方メートルの部屋なら5000本に相当し、森そのものという状態だ。

 厳密に言えば、植物は空気中の毒素をわずかに取り除いている。だが、「空気清浄機や換気と同じくらいの効果を得るのに必要な植物は、非現実的な量」だというのがワリング氏の見解だ。

 今日、NASAは国際宇宙ステーションで植物を育てている。目的は新鮮な食料を得ることと、「雰囲気をよくする」ことだ。植物の健康効果として、人の精神状態を改善できる点に着目している。

汚染のそもそもの原因

「働く人はみな、風通しが悪く不快な会議室で時間を過ごしてきました」と話すのは、米ハーバード大学教授のジョー・アレン氏だ。建築設計が人の健康に与える影響を研究している。「そんな空間にいるとどうなるでしょうか。誰もが気が散り、時計に目をやってしまいます。ドアが開くと、文字通り生き返ったようになるのが感じられ、眠気は去り、目が開き、さっきよりも元気が出てくるのです」

 アレン氏は自身の研究を、「常識を定量化すること」と表現する。他よりいくらか居心地がいい部屋があるという、直感的な理解を測定するということだ。

 室内の空気汚染の発生源はたくさんあるとアレン氏は言う。料理で粒子状物質が出ることがあるし、化学洗浄剤や、カーペットや家具の合成塗料からVOCが発生する可能性もある。

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「多くの場合、あなたの健康を左右するのは、かかりつけの医師よりも建物の管理者です。換気や建築材料などの多くの要因を、その人たちが管理しているからです」とアレン氏。

 室内の空気汚染を改善する最も効果的で明快な方法は、発生源をなくすことだと、専門家たちは話す。ワリング氏は、きれいな空気にはにおいがないことを強調し、香り付きの消臭剤を噴霧するのは、有害物質を取り除くというより、香水を部屋にまくのに近いという。

遺伝子操作で効果の高い植物を

 米ワシントン大学の環境エンジニア、スチュアート・ストランド氏は、空気中のVOCをもっと減らそうと実験を重ねている。使うのは、遺伝子組み換え植物だ。

 ストランド氏らの研究チームは昨年、哺乳類の肝臓から見つかったタンパク質を使い、遺伝子操作したポトスによる研究結果を発表した。これは、私たちの体がアルコールを分解するために作り出すのと同じタンパク質だ。同氏のチームは2年を費やし、ウサギ由来のタンパク質を植物に組み込むことができた。実験では、遺伝子組み換え植物は、通常のポトスよりも多くのクロロホルムとベンゼンを、空気中から除去した。

 実際に空気をきれいにするには、大量の植物を1つにまとめる必要があるとストランド氏は話す。VOCを吹き飛ばすためのファンも必要だという。

「さらに2、3の遺伝子を植物に入れられると思います」とストランド氏。「私たちが取り組んでいるのは、ホルムアルデヒドを減らす第2世代のGMO(遺伝子組み換え作物)です」

 しかし米ポートランド州立大学の教授で、建物が屋内の空気の質にどう影響するかを研究しているエリオット・ゴール氏は、遺伝子組み換えがなされてもなお、植物が空気の質をはっきり改善できるということに懐疑的だ。

「科学的には素晴らしい業績だと思います」と同氏は言うものの、実験室の環境以外で、植物が効果を上げるということには今も賛成していない。

 米国の情報通信社ブルームバーグが引用したレポートによると、米国では過去3年の植物の売り上げが17億ドル(約1850億円)を超え、特に18〜34歳が多く購入している。植物による心理的効果は、ストレスの緩和など数多くあるが、ゴール氏、ストランド氏、アレン氏、ワリング氏らはみな、空気をきれいにする道具として観葉植物を買うべきではないと注意をうながす。

「たとえば低所得世帯が空気の悪さを心配し、可能な選択肢を検討して、『400ドルの空気清浄機を買うか、30ドルの植物を買いに行くかだな』などと検討する姿は見たくありません」とゴール氏。「その植物は、空気をきれいにはしてくれません。そんな作用はないのです」

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