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失われたマメジカ、ほぼ30年ぶりに発見

  • 2019年11月14日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 ベトナム南部の低地で、絶滅が危ぶまれていたきわめて珍しい動物の生きている姿が撮影された。この動物はマメジカの一種、ベトナムマメジカ(学名:Tragulus versicolor)。11月11日付けの学術誌「Nature Ecology & Evolution」で報告された。

 ベトナムマメジカは、小さな牙を持つ小型のシカのような動物で、ここ30年近く記録がなかった。最後の記録は1990年、ある猟師が仕留め、標本として科学者に寄付したものだった。

「とてもすばらしい動物です。ずっと前から、このマメジカが生き延びている証拠を見つけたいと思っていました」と、今回の論文を執筆したドイツ、ライプニッツ野生動物研究所のアンドリュー・ティルカー氏は話す。同氏は、グローバル・ワイルドライフ・コンサベーションという環境保護団体でも活動している。

 ベトナムマメジカは大型のウサギほどの大きさで、背中が光沢のある銀色の毛で覆われているのが特徴だ。今回撮影された写真には、牙のような歯が写っているものもあった。角はなく、オスは牙が伸びることから、縄張りや繁殖相手をめぐって争う際にこれを使うと考えられている。

 論文に携わった研究者たちは、今回の発見がベトナムマメジカの保護につながることを期待している。このマメジカの主な脅威となっているのは、ワイヤーを用いたわなだ。また、今回マメジカを発見した手法は、他の「失われた種」を見つける際にも役立つ可能性がある。

銀色のマメジカを探して

 調査に当たり、ティルカー氏らが向かったのは、ニャチャンというベトナム南部のビーチリゾートに近い、乾燥した森林だった。1910年にもう一つのベトナムマメジカの標本が得られた場所だ。熱帯雨林におけるそれまでの調査ではまったく見つからなかったため、ベトナムマメジカは乾燥した低木林を好む可能性があると考えた。

「このような森は、ベトナムでよく見る森ではありませんが、私の出身地である米国のテキサス州に似ている低木林があります」とティルカー氏は話す。

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 1910年にベトナムマメジカが捕獲された正確な場所は記録されていない。そのため、この一帯にある町を訪れ、地元の猟師など森に詳しい人に、背中が銀色のマメジカを見たことはないかと聞くことから始めた(カンチルマメジカ(Tragulus kanchil)という別のマメジカもいる。こちらはよく目撃されるが、背中は銀色ではない)。

 ベトナムでは、ワイヤーわなを使った密猟が横行しているので、このような聞き取り調査は簡単ではない。今回の調査を率いたグローバル・ワイルドライフ・コンサベーションのアン・グエン氏は、時間をかけて地元の人々の信頼を得なければならなかったと言う。

「それでも、人々はこの5年から10年でどれほどの野生動物が失われたのか、非常に心配しています」とグエン氏は話す。「それが乱獲とわなのせいだとわかっているのです」

 やがて、地元の人々は、最近ベトナムマメジカらしい動物を見たという場所に案内してくれるようになった。2017年11月から2018年7月まで設置したカメラトラップ(自動撮影装置)には、ベトナムマメジカが280回映っていた。ただし、何度も映っている個体もいるため、このあたりに何匹が生息しているのかは判断できなかった。

「カメラトラップを確認し、銀色の毛をもつマメジカを見つけたときは大喜びしてしまいました」とグエン氏は言う。

 ワイヤーわなによって絶滅寸前になっているのは、ベトナムマメジカだけではない。ベトナム固有のシカに似た動物では、サオラ(学名:Pseudoryx nghetinhensis)やオオホエジカ(学名:Muntiacus vuquangensis)も同じ危険にさらされている。

 アジアの一部では野生動物の肉の需要があり、密猟が横行している。その結果、自然環境が残されていても、そこに生息する動物の数は減ってしまう「空白の森症候群」と呼ばれる現象が起きている。その元凶がワイヤーを使ったわなだ。このわなは、森を行き来するほぼすべての動物を見境なく殺してしまう。

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「失われた動物」をあきらめない

 ベトナムマメジカの生態はほぼ何もわかっていない。ただし今回撮影された写真や動画から、日中に果物や植物を求めて単独で行動するらしいことはわかった。

「細い足で、ひづめの先端を使って忍び足で慎重に歩くのです」とティルカー氏は話す。

 世界最小クラスの有蹄類であるマメジカの仲間は、南アジアから東南アジアにかけて9種、アフリカ中央部に1種が存在する。

 研究者たちの次の計画は、ベトナムにある別の乾燥した森にカメラトラップを仕掛けることだ。そしてやがては、初の包括的調査を行い、マメジカの生息数や分布域について評価したいと考えている。

 現時点でどれほど残されているか、厳密にどこに生息しているのかは、まだ明らかになっていない。調査が進んでいないため、絶滅危険度の評価も「データ不足」とされている。安定して生息する場所がいくつか見つかれば、地元の人々の啓発や密猟防止パトロールなどを含めた保護活動を行えるとティルカー氏は言う。

 ベトナムの研究機関「Southern Institute of Ecology」の動物部門を率いるホアン・ミン・ドク氏は、「マメジカを再確認できたことは、生物多様性の保全にとって大きな希望です。特にベトナムで危機に瀕している動物にとっては、大きな意味を持ちます」と述べる。他の希少種を探したり、ベトナムの生物多様性を保護するよう内外に協力を呼びかけるきっかけになるのだ。

 ベトナムマメジカは、グローバル・ワイルドライフ・コンサベーションが「失われた種の探索」と呼ぶプログラムで最初に再発見した哺乳類だ。これは、何年も何十年も科学的な記録がない1200種ほどの動植物を探し、保護しようとする試みだ。ティルカー氏は、その大半はおもしろくも特別でもない種だと言う。しかし、誰かがその種に気を配らなくてはならない。

 ティルカー氏は言う。「長い間目撃されていないからといって、あきらめるわけにはいかないのです」

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