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世界の漁業補助金の64%が「有害」、中国が最多

  • 2019年10月11日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 世界の水産資源が減りつつあるなか、世界貿易機関(WTO)は、漁業の乱獲を促すような「有害」補助金を禁止しようと協議を続けている。しかし、各国政府によるそうした補助金は増える傾向にある実態が明らかになった。

 カナダのブリティッシュコロンビア大学が152カ国の補助金について徹底的に調査し、2019年11月号の学術誌「Marine Policy」に論文を発表した。これによると、2018年に支給された「有害」補助金は220億ドル(約2兆3660億円)に上り、漁業補助金全体の63%を占めるという。この比率は、2009年の調査と比べて6ポイント増加していた。

 ここでいう有害な補助金とは、許容量を超えた過剰な漁獲を促すような補助金のこと。その補助金がなければ利益を生むことのできない漁業へ支給されたものなどを指す。例えば、燃料費を補助することによって、トロール船は地球の果てまで行って漁をすることが可能になる。この燃料費の補助だけでも、昨年は全漁業補助金のうち22%を占めていた。

 なかでも中国は、世界最大の補助金支給国で、2018年にはその額が全世界の補助金総額の21%を占める72億ドル(約7740億円)に上ったという。なかには有益で持続可能な事業への支援も含まれているが、過去10年間でそうした有益な補助金は73%減少し、燃料費や船舶の建造費など有害とされる補助金が2倍以上に増えた。

「今回の調査から何か明るいニュースを探そうと思っても難しいです。しかし、この結果を利用して、各国政府へプレッシャーをかけることはできるでしょう。WTOは有害な補助金を止めさせる立場にあり、海の環境に大きな影響を与えることが可能です」と話すのは、米国の非営利団体ピュー慈善信託の漁業補助金プログラム責任者であるイザベル・ジャレット氏だ。ピュー慈善信託は、今回の調査に資金を援助した。

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迫るタイムリミット

 WTO協議の期限は2019年末と定められているが、今回の報告は、この協議の重要性を物語っている。

 9月に公開されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書では、温室効果ガスの排出が今のまま続けば、今世紀末までに漁獲可能な魚の量は24.1%減少すると予測している。専門家らは、漁業への補助金は気候変動による海の生態系破壊に拍車をかけるものであり、これを禁じる国際合意は喫緊の課題だと主張している。

「WTOでは20年間、漁業補助金について協議してきましたが、技術的な面の話し合いは、ほぼし尽くしました。あとは、合意をゴールまでもっていく政治的意思が欠けているだけです」と話すのは、この協議を長年見守ってきたマドリードのコンサルタント会社ヴァルダ・グループのレミ・パルメンティア氏だ。

 今回の論文の著者であるラシド・スマイラ氏は、「補助金が増えている要因は政治的なものです。燃料費の補助などをいったん与えてしまうと、それを打ち切るのはとても難しくなります。しかし、科学者が訴え続けることが重要です」と話す。

 WTOの広報は、今回の調査結果や協議の状況についてはコメントできないとしているが、WTO局長のロベルト・アゼヴェード氏による以下の声明を発表した。

「多くの水産資源が枯渇し、政府による際限のない補助金が海の魚たちに害を与えているのは間違いありません。2019年末の期限に向け、話し合いは本格化しています。WTO加盟国は意見の違いを脇において、合意に至る妥協点を見つけなければなりません。今こそ、行動すべき時です」

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枯渇する海の資源

 国連食糧農業機関(FAO)によると、魚資源の3分の1は生物学的に持続不可能な水準で漁獲されている。例えばクロマグロは乱獲のため激減した。ここ数十年間、近海で水産資源が枯渇した国々は、公海や他国の領海へ大型のトロール船を送り出すようになった。

 アフリカや南極海、太平洋では、3000隻の中国漁船が操業している。昨年行われた調査では、2014年に公海で捕れた魚の半分近くが、中国と台湾籍の船によるものだったことが明らかになった。

 昨年末、中国は2020年までに遠洋漁船の数を3000隻までに留め、燃料費の補助を減らすと約束した。2017年8月には、同国の農業農村部が「沖合漁業の従来の開発モデルは見直す必要がある」と声明を出した。

 調査結果によると、補助金の増加は横ばいになっているようだが、EU(欧州連合)は6月に漁船を増やすための補助金を復活させる動きを見せた。EUによる補助金はすでに世界全体の11%になっており、2018年には有害な補助金を20億ドル(約2150億円)支給している。

「特に懸念されるのは、EUが他の国にとっての前例になってしまっている点です」と、スマイラ氏は言う。WTOが要請していた補助金データを70カ国が提出していないという事実も、この問題の難しさを浮き彫りにしている。

「まるで探偵の仕事をしているようでした」。スマイラ氏のチームは、補助金額を推定するためにいくつもの情報源からデータをかき集めなければならなかった。

 ジャレット氏は、世界の補助金のうち半分を、たった5カ国が占めていると指摘する。「もしこの5カ国が大きな決断をしてくれれば、有害な補助金を大幅に減らせるでしょう。そして、最終的には水産資源が回復し、健全な海の未来を取り戻せると期待しています」

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