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太陽系外から来たボリゾフ彗星、意外な事実が判明

  • 2019年10月9日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 8月30日未明、アマチュア天文学者ゲナディー・ボリゾフ氏が奇妙な天体を発見した。太陽系の外からやってくる彗星だ。「2I/ボリゾフ」と名付けられたこの彗星は、太陽系の内側で観測された恒星間天体としては、史上2番目となる。

 現在、世界中の大型望遠鏡がボリゾフ彗星に注目し、天文学者らがその組成や軌道について興味深いデータを収集し始めている。

 初めて観測された恒星間天体は、2017年に発見された「オウムアムア」だったが、見つかった時点ですでに太陽系を去りつつあった。オウムアムアを観測した天文学者らは全力を尽くして、奇妙に細長い形状など、多くの謎に包まれたこの天体の性質を解き明かそうとした。しかし最終的にオウムアムアは、答えよりもたくさんの疑問を残したまま去っていった。

 これとは対照的に、ボリゾフ彗星は太陽系に入ってきたところであり、これから年末にかけてますますはっきりと見えるようになる。「組成の研究に関しては、前回よりもずっと多くのことができるでしょう」と、英クイーンズ大学ベルファスト校の天文学者ミシェル・バニスター氏は言う。

 それでも、観測に適したタイミングは限られている。天文学者らは現在、世界最大級の望遠鏡を有する観測所に大急ぎで企画書を提出し、詳しいデータをできるだけ多く集められるよう調整を進めている。

「悔しくて仕方がありませんでした。わたしたちは準備不足で、やるべき宿題を終えていなかったんですから」と振り返るのは、米ハワイ大学天文学研究所のカレン・ミーチ氏だ。「きっと自然はわたしたちに、『予習はしっかりとしておけ』とでも言っているのでしょう」

 だからこそ天文学者らは、ボリゾフ彗星の初期のデータにも熱心に目を通し、太陽系外からやってきた天体をじっくりと観測する初めての機会を逃すまいと必死になっているのだ。

「この仕事についてからずっと、わたしはこの時を待っていました。ついにそれが現実となるのを目のあたりにできるのは、実に喜ばしいことです」と、米サウスウエスト研究所の宇宙物理学者で、彗星を研究しているルーク・ドーンズ氏は言う。

次ページ:初期のデータから判明した最も意外な事実とは

「オウムアムア」とは対照的

 ボリゾフ彗星について、おそらく最も意外な事実といえば、見た目がたいそう平凡なことだろう。スペイン、ポーランド、オランダの天文学者が集めた初期のデータは、炭素を多く含む赤みがかった表面など、この天体の外観が太陽系の彗星とよく似ていることを示している。

 その組成もまた太陽系の彗星に近い。9月27日付けで学術誌「Astrophysical Journal Letters」に発表された研究では、ミーチ氏や、クイーン大学ベルファスト校の天文学者アラン・フィッツシモンズ氏が属するチームが、ボリゾフの凍った表面が太陽に溶かされることで、毎秒170グラムのシアン化物を放出していると報告している。

 これは特段驚くようなことではない。太陽系の彗星であっても、シアン化物は最初に検出される物質のひとつだ。さらにボリゾフは、放出するガスの量においても目立ったところはない。その量は、2014年に内太陽系を通過したサイディングスプリング彗星の半分にも満たない。

 研究者らはまた、ガスとちりに包まれた彗星の核の大きさについても、さほど大きくないという予測を立てている。現在のところ、この彗星の核は幅8キロより小さく、おそらくは800メートルから3.2キロ程度と推測されている。

「オウムアムアが非常に風変わりで、今回の天体が典型的な太陽系の彗星によく似ているというのは皮肉なものです」と、ドーンズ氏は言う。

謎に包まれた経路

 ポーランドのある天文学者チームは、ほかの研究者に先駆けて、ボリゾフ彗星が通ってきた恒星間宇宙の経路を推測した。論文の投稿サイト「arXiv」にアップロードされた論文において、同チームは、ボリゾフ彗星が約100万年前にクリューゲル60という連星系の5.4光年以内を通過したと示唆している。

 当時ボリゾフ彗星は、時速約1万2000キロという非常にゆっくりとしたスピードで動いていたという。より多くのデータが集まれば計算は変わってくると断りながらも、これを踏まえれば、この彗星がクリューゲル60の近くを通った可能性は高いと、研究者らは述べている。

 彼らのチームは同種の仕事においてすでに実績があり、太陽系の外縁で形成された彗星についても研究結果を発表している。しかしながら、今の時点でボリゾフ彗星の経路を推測すれば、懐疑的な意見が多く出るのは避けられない。

「時期尚早だと思います」とミーチ氏は言う。その理由のひとつは、ボリゾフ彗星をまだごくわずかな時間しか観測できていないことだ。また、ちりとガスに包まれていて、彗星の核が正確に見極められないせいもある。

 加えて、今のところボリゾフは、地平線近くの低い位置に見えているだけだ。つまり、彗星からの光が望遠鏡に届くまでに大量の空気の中を通るため、大気の層によってさらなるエラーが引き起こされる可能性が高い。

「わたしたちが見ているのは、とうてい精密とは言えない大量のデータです。これは観測者がずさんなせいではなく、ぼんやりとした天体の中心を正確に見定めるのが非常に難しいからなのです」と、ミーチ氏は言う。

次ページ:新たな彗星探査計画も

 また、ボリゾフ彗星が太陽光で温められるにつれ、その表面から飛び散るちりとガスがロケットの噴射のように働き、彗星の軌道がずれる可能性もある。天文学者らはこうした重力以外の力を明確に把握していないため、これを計算に入れ込むことができない。

 そのうえ、ボリゾフが通ってきた道をたどるには、時計を巻き戻して、その当時に銀河系の星がどこにあったかを確かめる必要がある。しかし現時点でそれを確認できるのは、銀河系にあるほんの一握りの星についてだけだ。

「まずは銀河系の3D動画を作成し、それを巻き戻す必要があります。しかもそれが実現したとしても、おおもとの星にたどり着けるわけではありません。わかるのは、彗星が最後に近づいた恒星だけです」と、バニスター氏は言う。

 サウスウエスト研究所の天文学者マーク・ブイエ氏は、ボリゾフが複数の恒星の前を通過するところを観測できたなら、その大きさと形状がより正確に確認できるだろうと述べている。しかしそうした観測を行うには、ボリゾフの軌道を今よりもずっと正確に把握する必要がある。

「今どこにあるのかわからず、1年後に太陽系のどこにあるのかもわからないなら、この彗星が100万年前、正確にどの星からやってきたかなど、知りようがありません。今の時点で彗星の故郷を割り出す能力がわれわれにあるという意見には、大いに疑問を感じます」と、ブイエ氏は言う。

新たな彗星探査計画も

 とはいえ、研究はまだ始まったばかりだ。ボリゾフ彗星は来年までは見えており、いちばんよく見える時期もこれからやってくる。太陽に最接近するのは12月8日頃で、ハッブル宇宙望遠鏡、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡、アルマ望遠鏡など、世界最大級の望遠鏡での観測計画が山ほど予定されている。

 いつの日か、次のボリゾフ彗星やオウムアムアのような天体が太陽系を通るときには、人類はしっかりと準備を整えていることだろう。天文学者らは、チリに建設中の大型シノプティック・サーベイ望遠鏡(LSST)なら、より多くの恒星間天体を発見できると期待を寄せている。

「ボリゾフ彗星が現れる前までは、LSSTが稼働したら、1年に1つは恒星間天体が見つかるだろう予測されていました」と、ブイエ氏。「しかしボリゾフ彗星の出現が、恒星間天体はそこら中に存在し、外観や特徴も多様だということを示唆しているのだとしたら、もしかするとわれわれは、とんでもない時代を迎えようとしているのかもしれません」

 ブイエ氏はまた、LSSTによって、太陽系に接近する恒星間天体をこれまでよりも早く発見できるかもしれないと述べている。そうなれば観測の時間をより長く確保し、さらには彗星探査もできるようになるかもしれない。

 彗星の探査をよりすばやく行う計画は、実はすでに発表されている。2019年6月に欧州宇宙機関が、2028年に探査機を打ち上げ、地球と太陽の重力がつり合う位置で待機させる彗星探査計画「コメット・インターセプタ―」を発表した。探査機はそこで、太陽系内の新たな彗星や、次の恒星間彗星が来たら接近して観測できるよう備えることになる。

 ドーンズ氏は言う。「いつでも彗星に近づける探査機を用意できるのはすばらしいことです。彗星の探査は、まったくの手つかずなのですから」

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