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陸の脊椎動物、2割の種が国際取引に、従来の1.5倍

  • 2019年10月8日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 両生類から鳥類、哺乳類まで、陸生の脊椎動物のおよそ5種に1種が国際的に取引されているという論文が、10月4日付けの学術誌「サイエンス」に発表された。これまでの推定のおよそ1.5倍だという。世界的なマーケットの多様性を明らかにし、これから犠牲になる生物の予測を試みた研究で、考えさせられる内容だ。

 近年、珍しいペットや毛皮、宝飾品、伝統薬などに使うために、野生動物が深刻な脅威にさらされている。センザンコウやオナガサイチョウなどは典型的な例だ。とはいえ、今回の論文によると、生物の取引が種を急速に絶滅に追いやることもあるが、必ずしも持続不可能な水準にまで減らすとは限らないという。

 どの脊椎動物がさらなる注意と保護を必要としているかを、政策立案者が検討する際に、今回の研究成果を役立てて欲しいと研究チームは願っている。

「数十億ドル(数千億円)という規模の産業の影響の大きさを示したのです」と、論文の筆頭著者でナショナル ジオグラフィック協会の助成を受けている米フロリダ大学の保全生物学者ブレット・シェファーズ氏は話す。「3万1000種を超える陸生動物を調べ、そのほぼ20%が取引されていることが判明しました。以前に考えられたより40%から60%も多く、本当に驚きました」

 さらに、今回の研究ではコンピューターモデルを構築し、すでに人気の高い種との遺伝的な関連性や、珍しい色などの個性的な特徴といった、いくつかの要因に基づき、将来取引されるようになる種を予測した。考慮した要因には、体の大きさも含められた。これまで、大型動物は取引される可能性が高かったからだ。大きな歯や爪を持ち、肉や皮が大量に得られるため儲かるから、というのが典型的な理由だ。

次ページ:国内取引は含まず、扱う種も限られている

 論文の結論によると、世界の市場で取引されるようになる野生生物は、現在から3000種も増え、やがて8000種を超えるかもしれないという。これは、すべての哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類のほぼ30%に相当する。その分析によれば、鳥類の中でも、フィンチや複雑な巣をつくるハタオリドリの仲間は、取引される下地がすでにあるという。数十種のキクガシラコウモリやビークド・トード(ヒキガエルの仲間)も同様だ。

「重要なのは、多くの種が取引されている、あるいはこれから取引される可能性があり、注意を払う必要があるということです」と、米ニューヨークに本部を置く野生生物保護協会(WCS)の副会長(国際政策担当)スーザン・リーバーマン氏は話す。「この論文は、現在ワシントン条約に記載されていない両生類や鳥類に、もっと注意を払う必要があることを浮き彫りにしています」と、野生生物の国際取引を規制する国際条約に言及した。なお、氏は今回の研究には関わっていない。

 シェファーズ氏の研究チームが集計に使ったデータは、ワシントン条約の加盟国が提出する公式記録と、絶滅の恐れがある生物種のレッドリストを公表している国際自然保護連合(IUCN)の取引統計だ。

 しかしながら、ワシントン条約のデータもIUCNの情報も不十分だと、自然保護活動家は指摘する。ワシントン条約のデータは、各国の報告に頼っているが、必ずしも完全なものではないうえ、すでに国際取引により絶滅の危機にさらされていると公式に指定された種に関連するものだけに限られている。

 また、IUCNのレッドリストは、査読付きの論文やワシントン条約の貿易統計などを含め、既存の情報源を利用したものだ。IUCNの項目に国内取引の情報が含まれていることはめったになく、脅威となる取引が、国内のものか国際的なものなのかについても記載がないと、人間が動物に与える影響を専門とする、英オックスフォード・ブルックス大学の人類学教授ビンセント・ナイマン氏は指摘する。

国内取引は含まず、扱う種も限られている

 ワシントン条約とIUCNのデータベースには、野生生物の国内取引に関するデータが欠けていることから、今回の論文では、裾野が極めて広い野生生物の取引を実際より低く見積もっている、とナイマン氏は言う。

 論文の著者も、今回は確実で一貫性のあるデータが得られた特定の種のみに焦点を当てたため、魚やカメ、ワニを含め、取引の人気が高い動物でも集計していない種があると認めている。つまり、完全ではないデータに加えて、扱う種の範囲も限られているということだ。

「カメ、中でもリクガメは、野生生物の取引において、特に狙われている爬虫類だということは、確かに認識しています」とシェファーズ氏は話す。「しかし、カメやワニは、多種多様な爬虫類全体のほんの一部にすぎません。したがって、私たちの研究は、爬虫類の取引がどれほど広がっているかを十分に表していると思います」

次ページ:誤解を招く可能性もある

 今回の論文は、取引の「量」ではなく、取引される「種」の特定に重点を置いている。興味深いデータが示されている一方、誤解を招く可能性もある、とリーバーマン氏は言う。例えば、インドネシアは鳥類取引の中心だと考えられているが、論文には、鳥の取引量は「非常に多い」ものの、取引される種の多様性が他のいくつかの地域に比べて低いため、取引のホットスポットには分類しなかったと書かれている。

 ナイマン氏によると、今回の予測モデルは、「独創的な研究」としては有用だが、輸送の速度や容易さなどが抜けているように、世界の取引市場に関するすべての要因を扱っているわけではないという。「過去には物流上、あるいはおそらく経済的に無理だった取引も、より良い輸送手段があれば実行されるようになるでしょう」と同氏は述べる。

 例えば、野生生物をアフリカから東アジアに輸送するなら、現在ある方法は、空路か海路かの2択だ。だが将来、輸送網はさらに充実し、そして、中国の一帯一路構想が実現すれば、鉄道輸送がもう1つの選択肢になるかもしれない、と同氏は言う。「こうしたものが繋がれば、可能性が開けるかもしれないのです」とナイマン氏は話す。

 過去、珍しいペットを扱う動物の密売人は、標的となる種の手がかりを得るために学術文献を調べていた。このため、最近の科学者は、新たに発見された動植物の位置情報など、密猟者が利用できる情報の公開にはとても慎重だ。今回の論文にある、現在の取引に関する詳しい説明は、こうした物事を綿密に追いかけている人にはすでによく知られていることだ、とナイマン氏は言う。そして、何千種をも対象にした将来の予測は、十分に曖昧だと指摘した。

 5月に発表された絶滅速度に関する国連の報告によると、人間の活動が原因で約100万種の動植物が絶滅の危機にさらされており、数十年以内に絶滅する恐れのある種も多いという。切迫する脅威の中でも、野生生物の国際取引は特別だと、シェファーズ氏は語る。

「生息地の喪失や汚染、気候変動などの自然への影響は、長い時間をかけて徐々に現れます。しかし取引は、需要と供給に支配されています。10年前にはほとんど懸念されずノーマークだったかもしれない種が、今では深刻な危機にさらされ、絶滅の危機に瀕しているのです」

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