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解説:気候変動、IPCC最新報告書の要点は?

  • 2019年10月6日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 気候変動の影響はいたるところで表れ始めている。上昇する海水温。崩落する氷床。それが国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の最新レポート「海洋と雪氷圏の気候変動に関する特別報告書(SROCC)」が明らかにした現実だ。

 9月25日に公開された900ページに及ぶレポートは、数千もの研究結果をまとめ、地球の海と氷にすでに現れている影響を描き出し、将来何が起こるかを予測している。

 気候変動はもはや仮定の話ではなく、現実の問題となっていることを科学は証明している。人間の活動による地球温暖化のために、海、極地の氷冠、高山の氷河はすでに限界近くまで熱を吸収しており、人間が依存しているシステムそのものが崩壊の危機にさらされている。

 例えば、ヨーロッパアルプスの最高峰モンブランのイタリア側にあるプランパンシュー氷河は、いつ崩壊が始まってもおかしくない状態にある。このため道路は閉鎖され、近隣の施設には退去命令が出された。

 海では漁場が移動して漁獲が落ち込んだところが増え、数万ドル規模の漁業ビジネスから個人操業の漁師までを圧迫している。海洋熱波の発生回数は、わずか30年前と比べて2倍に増加した。地球の人口の27%が住む沿岸地域は、海面上昇と巨大化した嵐の脅威にさらされている。

 そして「世界の給水塔」である高山の氷河や氷原に依存する多くの人々は、ひどくなる一方の洪水や干ばつに苦しめられている。

 各国が温室効果ガスの排出を抑えるために直ちに対策を講じなければ、状況は悪化するばかりだ。しかし、強い決断力と行動力によって最悪のシナリオを回避することはまだ可能であると、レポートは主張する。(参考記事:「地球温暖化、目標達成に残された道はギャンブル」)

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パリ協定以降に判明した2つのこと

 2015年、フランスのパリで世界の首脳は、地球の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2℃未満に抑えるという目標を立て、さらに1.5℃未満に抑える努力をすると合意した。

 当時、2℃は「安全な」目標とされていた。経済や社会制度、自然環境には重い負担がかかるが、最悪の事態は避けられると考えられた。

 それから現在までの間に、2つのことが明らかになった。第1に、地球の平均気温が、産業革命前より1℃以上高くなった年がもう現れた。北極圏など一部地域の上昇は、その4倍以上にもなる。第2には、1.5℃の上昇であっても、一部の気候には絶大な負担がかかり、環境や社会、経済に壊滅的な影響がもたらされるという証拠が次々に出てきたことだ。

 1990年以降、IPCCは気候変動に関する証拠を世界中の科学者から集め、5本の包括的評価レポートを作成してきた。そして現在、6本目を作成中だ。また、トピックごとに焦点を絞った特別レポートも作成し、過去1年間だけで3本が公開された。

 最初の1本は2018年に公開され、1.5℃の上昇でも地球には甚大な被害がもたらされると警告している。数カ月前に発表された第2のレポートは、陸上と森林ですでに観測されていることと、将来起こるであろう影響を予測している。そして今回発表された第3のレポートは、海洋と雪氷圏への影響を報告したものだ。またこれと関連する、多くの繊細な生態系が崩壊の危機にあると警告するレポートも今年発表されている。

 これらのレポートをすべて合わせてみると、1.5℃であろうと2℃であろうと、いかに達成が困難であるかが日増しに現実味を帯び、暗澹とした未来像ばかりが見えてくる。気温の上昇を1.5℃未満に抑えるには、2050年までに温室効果ガスの排出を「正味ゼロ」にしなければならない。だが、現在人類はまるで違った方向へ邁進している。今のままでは、今世紀末までに地球の平均気温は3.5℃以上上昇するという。

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台風は強力になり、サンゴは死に、魚は減る

 今回のレポートは「海」と「氷」というふたつの重要な要素に焦点を当てている。気候変動はすでに、そのどちらも大きく変えてしまった。

 その負担の大半を引き受けている海は、1970年以降、大気中の過剰な温室効果ガスに蓄えられた熱の90%以上、そして、二酸化炭素の20〜30%を吸収している。つまり、今のところは海水が緩衝材となって、陸上生物は最悪の影響を免れていると言える。もしそうでなければ、大気の平均気温は現在の1℃よりもはるかに高くなっていた。

「実際に、気候変動は1993年から速まっています。そして、海洋が暖められる速さもその時から倍になりました」と、オーストラリア、タスマニア大学の海洋学者でレポートの主要な筆者の1人であるネイサン・ビンドフ氏は言う。

 並行して、短期間に海表面の水温が跳ね上がる海洋熱波の発生回数は2倍に増加し、そこにすむ海洋生物に強いストレスを与えている。

 緩衝材としての海は多大な犠牲を払い、その兆候は、科学者だけでなく自然界に注意を払っている者なら誰の目にもはっきりと見て取れる。

 暖かい海はハリケーンや台風を強大にし、嵐の雨量を増大させる。だが、人間には見えない影響もある。海表面が温まると、海水は軽くなり、その下にある冷たくて栄養に富んだ海水と混じりにくくなる。すると海面近くの水の動きが鈍くなり、酸素の量が減り、海洋生物に必要な栄養が不足する。

 また、海水に取り込まれる二酸化炭素が増えて酸性化が進み、微小なプランクトンからカキ、巨大なサンゴ礁に至るまで、酸に弱い炭酸カルシウムで殻を形成する生き物に負荷がかかる。

 全体的には、海洋生物への影響は目に見えて明らかだ。レポートによれば、すでに世界のサンゴ礁の約30%が崩壊寸前、60%が大きな脅威に直面している。平均気温が1.5℃まで上昇すると(すでに1℃は超えてしまっているため、目標達成はかなり困難だが)、2100年までに70〜90%のサンゴ礁が崩壊すると予測されている。2℃上昇すれば、その数字は99%以上に跳ね上がる。

 それだけではない。サンゴ礁の近くに住み、その恵みを受けて生活する人間にとっても同じことだと、レポートは指摘する。サンゴ礁は、沿岸の町を襲う嵐の威力を弱め、波を静める効果がある。また、人間の食物となる魚の繁殖を助け、観光業や沿岸文化を支えているからだ。

 海水温の上昇で、多くの海洋生物は冷たい海水を求めて極地方向へ移動を始めており、漁業にも影響が現れている。

「証拠はもう山ほどあります。何十年にわたる観測の結果、気候変動は本当に多くの種に影響を与えていると自信をもっていまは言えます」と、カナダ、マギル大学の海洋生物学者であるジェニファー・サンデー氏は言う。

 もし、人間が今のまま炭素を大量に排出する生活を続けるなら、今世紀末までに海の魚の量は20%近く減少すると、科学は示している。すでに、マグロなど遠洋漁業の漁獲高は停滞しているという。乱獲も原因のひとつだが、気候変動によって問題はさらに悪化している。

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海面上昇のカギを握る西南極の氷床

 温暖化の影響は海だけでなく、高山から極地の氷冠まで、地球のすべての氷にも及んでいる。

 最新レポートによれば、アンデスやヒマラヤといった高山地域では、数十年前と比較して氷河が後退する速度が約30%速まっている。その影響をもろにこうむっているのが、氷河の近くに住む人々だ。

 氷河の融解水は、高地や下流へ貴重な飲み水を提供している。氷河が後退すれば、その融解水の量、タイミング、質が変化し、人々は対応を迫られる。

 高山や極地から遠く離れた場所であっても、影響は免れない。20世紀の間に、世界の海面は平均でおよそ16センチ上昇した。海面上昇の原因はこれまで海の膨張によるとされていたが、最新のレポートによると、今では世界の氷の貯蔵庫であるグリーンランドと南極の氷の融解も主な原因になっている。現在、海面は年間で約3.6ミリ上昇しているが、その半分以上は氷床の融解によるものだという。

 地球の全ての国が最も厳しい目標を達成させたシナリオでも、極地の氷床融解による海面上昇は2100年までに5〜23センチとされている(山岳氷河と温められた海水の膨張でさらに増加)。一方、現在のままでいけば、今世紀末までに氷床の融解水は11〜55センチの海面上昇を引き起こす。

 全体として、十分な対策が取られたとしても海面は2100年までに40センチ強、そうでなければ80センチ以上上昇する。

 IPCCのレポートは、最近の研究による証拠を基に、南極が重要な臨界点を超えてしまえば、数字はさらに跳ね上がるだろうと指摘している。暖かい海水は、繊細な西南極の氷床にじわじわと近づいている。もしそれが到達すれば、融解に歯止めが利かなくなり、広範囲での氷床の融解につながりかねない。

 NASAのゴダード宇宙飛行センターの氷河学者ブルック・メドレー氏は「滅亡へのシナリオとも言うべき事態です。いったん始まってしまえば、止めることはほぼ不可能です」と警告する。

 レポートはその可能性についてはっきりと言及しているが、2100年までに起きることの予測では扱われていない。

世界はつながり、循環する

 西南極の氷は海の変化に反応し、海は氷の変化に反応する。気候はそのようにして循環しているものだと、米アラスカ大学氷河学者でレポート著者のひとりでもあるレジーン・ホック氏は指摘する。全ての現象は互いに関連しており、世界のどこかで起こったことは、そこだけで終わるものでは決してない。

 そして、世界のある地域で人間が下す選択もまた、他の全てに影響を与える。つまり、炭素排出が今すぐ削減されれば、この世界の未来は全く違ったものになることを、レポートは示している。

 レポートの筆頭著者で米フォート・ルイス大学の山岳科学者ハイディ・ステルツァー氏は言う。「私たちの未来は、私たちが何であるか、ともに何ができるかにかかっています。今こそ、人類すべてが解決に向け手を取り合うべきです」

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