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衛星タイタンの湖は地下の爆発でできた 最新研究

  • 2019年9月18日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 土星最大の衛星タイタンは奇妙な天体だ。太陽系の衛星で唯一、厚く濃い大気に包まれている。そして、私たちが知るかぎり、地球以外で唯一、永続的な湖や海がある。ただし、タイタンの湖や海を満たしているのは水ではなく、液体のメタンやエタンだ。

 だが、その湖は想像以上に奇妙なものであるかもしれない。このほど科学者のチームが、今は亡き土星探査機カッシーニのデータを分析した結果、タイタンの湖は、地下で起きた爆発によって形成された可能性があるという論文が、9月9日付けで地学専門誌『Nature Geoscience』に発表された。

 タイタンの小さな湖には、沿岸部分が異常に高く盛り上がっているものがある。これは、地球の火山性クレーターによく似ている。火山性クレーターは、地下で起こった爆発によって形成される。論文によると、タイタンにあるこれらのクレーターは、凍った地面の下に閉じ込められた窒素ガスが爆発的に放出されることによって形成された可能性があるという。

 この仮説は決定的なものではない。検討されたのは一部の湖のみであるうえ、それほどの激しい爆発が起きたしくみも明らかになっていないからだ。

 しかし、この謎が解ければ、タイタンの地質学的な歴史だけでなく、生物学的な歴史さえ明らかになるかもしれない。タイタンの海や空からは、生命の構成要素となりうる有機化合物が見つかっている。湖の謎が解ければ、これらの興味深い成分ができたしくみの解明に役立つ可能性がある。

地球の火山性クレーターとの類似

 円形のくぼみがあったら隕石や彗星の衝突によるものと考えたくなるが、タイタンの湖の多くは不規則な形をしていて、典型的な衝突クレーターには似ていない。そこで一部の科学者たちは、長い歳月をかけた化学反応による浸食でできたのではないかと考えてきた。地球上では、酸に弱い岩石が酸性の水に溶かされ、湖を形成することがある。同じようにタイタンでも、液体メタンが周囲の「岩盤」を溶かして湖を形成したのかもしれないとする説だ。

 けれども近年、タイタンの湖は地球の「マール」と同じではないかと考える科学者が出てきた。マールは円形または不規則な形のクレーターで、地下核実験のあとにできるくぼみに似ている。マールが形成されるのは、地下のマグマが地下水と混合して爆発的に火山性物質を噴出させたときや、高温の岩石が水を加熱し、水蒸気が岩石を空に噴き上げたりしたときだ。噴出が終わると、しばしばクレーター内に水が溜まる。

 科学者たちは今回、タイタンの湖を地球のマールと丹念に比較した。その結果、縁(沿岸部)が盛り上がり、ギザギザに切り立っているタイタンの液体メタンの湖は、やはり地球上のマールに似ていると結論づけた。

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 問題もある。「実は、タイタンでは火山活動の決定的な証拠が見つかっていないのです」。論文の共著者である米コーネル大学の惑星科学者ジョナサン・ルニーン氏はそう話す。

 謎の答えは、はるか昔のタイタンの低温時代にあるのかもしれない。現在のタイタンの表面温度はマイナス180℃だが、いくつかの気候モデルによると、昔はもっと低温だったようだ。当時の大気はほぼ窒素のみでメタンが非常に少なく、温室効果がほとんど生じなかったからだ。

 この極端に低温だった時代、タイタンには液体窒素の雨が降り、これが地下に染み込んで、地中の液体窒素だまりを作っていただろう。当時は両極地方がいちばん低温だったので、液体窒素だまりもここに集中していたと考えられる。

 しかし、液体窒素はどちらかというと不安定で、地下の温度がわずかに上昇すると気化しはじめた。やがて高圧の窒素ガスだまりができ、圧力に耐えきれなくなった表面が吹き飛んで穴があいたのだ。

 タイタンの気温が上昇し、蒸発と降雨のサイクルの主役が液体のメタンとエタンになると、これらの液体炭化水素がクレーターに流れ込んだり雨として降り注いだりして、今日のような湖を形成したと考えられる。

熱はどこから?

 液体窒素だまりが爆発を起こせるかどうかは、その中に含まれるメタンの量によって決まり、少ないほうが爆発しやすい、と研究チームを率いたイタリア、ダヌンツィオ大学の地球科学者ジュゼッペ・ミトリ氏は言う。つまり、仮説を検証するために、メタンが増えた今日のタイタンの地下で爆発が起こるのを待っていても無駄だということだ。

 研究チームのモデルは、古代の窒素だまりを温めた熱がどこから来たかも特定できていない。ルニーン氏によると、選択肢はいくつかあり、その1つが、放射性元素の崩壊によるコア対流からの熱であるという。

 さらなる謎解きのためには、タイタンに探査機を送り込んで近くから湖を調べるのがいちばんだ、とNASAのジェット推進研究所の科学者マイケル・マラスカ氏は言う。なお氏は今回の研究には関わっていない。2034年にタイタンに送り込まれる原子力ドローン「ドラゴンフライ」は、両極地方には行かないものの、窒素を気化させた熱を生んだ地下活動の証拠を発見する可能性は大いにある、とルニーン氏は期待する。

 これらの湖が本当にタイタンのマールであるなら、湖の周囲のギザギザに切り立った地形などは説明できるが、爆発のきっかけを特定できないことは問題だ、とマラスカ氏は言う。一方、浸食モデルは、現段階ではクレーター周縁部の盛り上がりを説明することができないものの、くぼみの形成はうまく説明できる。今のところ、どちらのモデルが勝利するかは誰にもわからない。もちろん、どちらも間違っている可能性もある。

「どのモデルにも長所といくつかの『穴』があります」とマラスカ氏は言う。「ちなみにここは笑ってほしいところですよ」

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