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森を追われたインコ、ブラジルの都会を飛び交う

  • 2019年9月17日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 インコを研究する生物学者のラリッサ・ティノコ氏が調査の日々を過ごすのは、熱帯雨林の奥深くではない。ラッシュアワーで混雑する、ブラジル中西部マットグロッソ・ド・スル州の州都カンポ・グランデだ。

 6月の冬のある日、ティノコ氏はお決まりのルートを車でめぐった。緑の多い郊外、空いた駐車場、大きな野菜畑を過ぎ、にぎやかな通りに出るそのルート上には、ルリコンゴウインコの巣が158カ所ある。ここカンポ・グランデには、少なくとも700羽のルリコンゴウインコが暮らしている。

 だが、巣はすべて留守だったようだ。午後の大渋滞をのろのろと進むなか、「アーバン・バーズ(都会の鳥)プロジェクト」の一員でもあるティノコ氏が、突然「あっ」と声をあげた。

 前方に、陽の光を受けたルリコンゴウインコの鮮やかな胸と、大きく広げた翼が見えたのだ。本当にあっという間に視界から消えたものの、数秒後には大きな鳴き声がした。コンゴウインコが近くの木に止まったのだとわかる。

自然を追われて都会へ

 この街に初めて数十羽のルリコンゴウインコが姿を現したのは、1999年のこと。パンタナールなどで発生した深刻な干ばつや森林火災から逃れてきたのだ。パンタナールはカンポ・グランデから約150キロ離れたところにある、日本の本州の8割ほどの広さがある大湿原だ。

「ここの環境は過ごしやすいという噂が、インコたちの間で広まったみたいです」とスミレコンゴウインコ研究所の設立者で代表者のネイバ・ゲーデス氏は話す。カンポ・グランデのコンゴウインコを調査するアーバン・バーズ・プロジェクトは、この研究所の活動の一環だ。

 実際、カンポ・グランデでは2018年に巣の数や繁殖数が急増した。ティノコ氏の調査によれば、前年の133羽を上回る、184羽のルリコンゴウインコのひなが都市部で生まれたという。

次ページ:コンゴウインコが戻ってきた地域も

 国際自然保護連合(IUCN)によれば、ルリコンゴウインコの個体数は、主に森林破壊によって南米各地で減少している。連邦政府のデータによれば、マットグロッソ・ド・スル州の森林が減る速さは過去20年間で落ちてきているとはいえ、農地や牛の放牧地はいまだに少しずつ増え続けている。

 このまま森林破壊が続けば、インコたちがさらに生息地を追われかねない。彼らにとって都市での生活は理想とは言えないが、最後の手段なのだ。近年の調査によると、ブラジルではルリコンゴウインコの増加が示唆されており、カンポ・グランデから各地へ広まっている可能性がある。

「サンパウロ州やパラナ州のような、かつて彼らが姿を消した地域でも再び見られるようになっています。これは個体数が増加している兆候かもしれません」とゲーデス氏は話す。

 今のところ、ルリコンゴウインコはカンポ・グランデ市民に愛されている。街の公式シンボルとして、土産物になったり、公的の建物に描かれたり、巨大なオブジェが「コンゴウインコ広場」に造られたりしている。2018年には、インコが巣を作っている木の切り倒しを禁じる法律が、市議会で可決された。

 ゲーデス氏は、この鳥をきっかけに、ブラジルにおける保全問題への関心が広がってほしいと願っている。「コンゴウインコが、環境への真の取り組みの旗印となるよう、努力していかなくてはなりません」

住民に愛される鳥たち

 多くのインコと同じく、ルリコンゴウインコも、枯れたヤシの木のうろによく巣を作る。人口約88万5000人のカンポ・グランデには、外来のヤシの木が多く生えている。これらは高さ40メートルにもなり、在来種のヤシの木よりも広々とした巣穴を提供してくれる。

 地元住民はよく、初飛行に失敗した若いインコを巣に戻してやる。なかには巣の上に木材で雨よけの屋根を作ってやる人もいる。

「いつも話しかけていますよ」と言うアナ・パウラ・マルケス・ダ・シウバ氏が経営するレストランの庭には、コンゴウインコの巣が2つある。「まるで英国人のように、時間に正確なんです。だから午後になって彼らが現れると、冗談を言うんです。また5時のお茶に来てくださってうれしいわ、って」

 基本的に、カンポ・グランデでの暮らしはいいものだ。野生の天敵はほとんどおらず、公園や緑地も多く、果実や木の実が豊富にある。大学教授でもあるゲーデス氏によれば、事実、カンポ・グランデでのひなの生存率は自然の中よりも高いという。

都会で待ち構える危険

 とはいえ、危ういバランスであるのは確かだ。

 コンゴウインコは、都市ならではの危険にさらされている。電線や電気柵に引っかかったり、車にはねられたりしてしまうのだ。グエデス氏によれば、カンポ・グランデでは2011年から2019年にかけて38羽のルリコンゴウインコが感電死した。1年に4羽ほどのペースだ。

 また、マットグロッソ・ド・スル州では減ってはいるものの、生きた鳥や卵の密輸はいまだに深刻な問題だという。州政府は、カンポ・グランデで密猟されたひなを過去4年で6羽押収した。

 密猟された個体は、ペットとしての需要が高い米国、欧州、アジアに売られていく。ゲーデス氏の研究所は、地元警察やブラジル連邦当局のみならず隣国ボリビア、パラグアイ、アルゼンチンの機関とも協力して密猟に対抗している。

次ページ:都市でも開発が進む

 また、街が発展するにつれ、かつてヤシの木があった空き地や庭園が工事現場に変わっている。州知事のレイナウド・アザンブージャ氏は、街の中心部にあるポデレス公園の大部分を駐車場および州の建物の用地にする提案をして、議論を呼んだ。知事からは、この件についてのコメントを得られなかった。

 この提案は、一部の地元住民にとっては受け入れがたいものだ。エコツーリズムを企画する会社インスティトゥート・マメデのオーナーでもある生物学者シモーニ・マメデ氏もその一人だ。

 保全エリアとして指定されているこの公園は、「生物多様性を保つ緑の回廊として不可欠のもの」だとマメデ氏は言う。「熱帯草原セラードの植生が残る、カンポ・グランデで数少ない場所の一つなのです」

 氏はさらに「コンゴウインコだけでなく、ここに暮らす400種以上の鳥にとっても重要な場所です」と付け加える。

新たに発見した驚きの生態

 その中には、同じく1999年頃に街に現れ始めたベニコンゴウインコも含まれている。彼らは、年が明けて数カ月のうちにカンポ・グランデにやってきて、繁殖期が始まる7月頃になると元の生息地に戻っていく。

 これら2種のコンゴウインコの存在に触発されて、ゲーデス氏は2011年にアーバン・バーズ・プロジェクトを立ち上げた。以来、都市に暮らすインコたちの行動や食性について興味深いことがわかってきている。

 たとえば、ティノコ氏はルリコンゴウインコとベニコンゴウインコの交尾を目にしたことがある。これまで飼育下以外では報告がないことだった。さらに驚くのは、その子供には繁殖能力があったということだ。

 また、ルリコンゴウインコは、マンゴー、グアバ、カジュー(モンビンノキの実)、オオミテングヤシやマカウバヤシの実を含む、31種類の果実や木の実を食べることがわかった。かつて考えられていたよりも、ずっと多様なのである。

「この変わった生き物は一体何なんだ?」

 ある朝私は、もっとコンゴウインコを見たいと思い、自転車でポデレス公園の中を走った。木が生い茂る250ヘクタール近いこの公園は、大きな通りや公的機関の建物に囲まれている。職場へ急ぐ人や週末の日光浴を楽しむ住人の間を、ハナグマやカピバラといったブラジルならではの野生動物が歩き回っている。

 やがて私は、巣のあるヤシの木のそばまでやってきた。すぐ近くをジョギングやサイクリングをする人々が通り抜ける。2羽のルリコンゴウインコが、人々が立ち止まって写真や動画を撮る中、静かに木のてっぺんに止まっていた。

「きっと、写真を撮る人たちを見て、こう思ってるに違いないね。『この変わった生き物は一体何なんだ?』って」。巣のちょうど反対側にあるスタンドで、ココナッツウォーターとブラジリアンナッツを売るドニセテ・アウベス氏がつぶやく。彼が言うには、ほんの2週間前、この巣から卵を盗もうとした人が捕まったらしい。

 おしゃべりをしていると、大きなトラックが通りかかり、黒い煙を残して走り去った。コンゴウインコたちは気にする様子もなく、樹上に立ち続けていた。煙に浮かぶ彼らの姿は、堂々としているようでいて、はかなくもあった。

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