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地球中心部、地球の自転より微妙に速く回転、研究

  • 2019年9月5日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 1971年9月27日、北極海にある現ロシア領ノヴァヤゼムリャ島で核実験が行われた。激しい振動は地球の奥深くへ伝播し、内核(内部コア)で跳ね返ると、島から6500キロ離れた米モンタナ州の地震計に達した。さらに3年後、ほぼ同じ場所で2回目の核実験が実施され、やはりモンタナ州の地震計が信号をキャッチした。

 冷戦時代、東西の緊張が高まるなか何度となく繰り返された核実験。それによって生じた地震波の記録は現在、地質学者に極めて有益な情報をもたらしている。地球内核の回転速度が、核実験の記録からわかるというのだ。

金属の海に浮かぶ「鉄の塊」

 地球は、地軸を中心にして24時間で一周する(自転する)のはよく知られている。地球の中心には、月とほぼ同じ大きさの内核がある。内核は鉄の塊で、それを取り巻く外核はドロドロに溶けた液体金属でできている。つまり、金属の海のなかに浮いている状態の内核は、外核の外側にあるマントルや地殻とは異なる速度で回転していたとしても不思議ではない。これを、「スーパーローテーション」と呼ぶ。では、どれほどの速さで回転しているのか。この点は、長い間専門家の間で議論されてきた。

 米国、南カリフォルニア大学の地震学者ジョン・ヴィデール氏は、数十年前の核実験で発生した地震波の記録から、内核は地球の表面よりもわずかに速く回転していると結論付けた。この研究は、8月15日付けの学術誌「Geophysical Research Letters」に発表された。ヴィデール氏の数字が正しければ、赤道に立った時にその足の真下にあった内核の部分は、1年後には7.7キロ先の真下に移動していることになる。

 最新論文を「丁寧で優れた研究」と評価するのは、米コロンビア大学の地震学者で、1996年に初めて内核のスーパーローテーションに関する論文を共同執筆したポール・リチャーズ氏だ。「地球の内部で何らかの変化が起こっています」と語る。

 鉄の塊である内核の動きが解明されれば、地球の磁場についてもより理解が深まる可能性がある。磁場は、有害な宇宙の放射線からこの世界を守っているが、その発生には地下深くにある内核の動きが大きく関わっていると、専門家はみている。

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「地球は究極の天然実験場です」と、英国にあるインペリアル・カレッジ・ロンドンの地球深部地震学者エリザベス・デイ氏は言う。地下数千キロの超高圧で超高熱の環境を「実際の研究室で再現するのは困難です。でも、地球内部をのぞき込むことができれば、いかに激しい環境なのか少しは理解できるかもしれません」。なお、デイ氏は今回の研究には参加していない。

 内核のスーパーローテーションに関しては過去に数多くの研究がなされたが、最新論文がはじき出した回転速度は、それらと比べてかなり遅い。研究が出るたびに速度が変わるのは、必ずしも悪いことではないと、デイ氏は言う。

「誰かが間違っているわけではありません。誰もが、少しだけ違うものを見ているということです」

内核の謎

 リチャーズ氏が共同執筆したものも含め、過去の研究は、地震によって地球内部に伝わった地震波の様々な特性を利用したものだ。それによると、内核は外側のマントルや地殻よりも、角度にして年に0.3〜0.5度ほど速く回転していると算定している。だが、激しい振動を伴う地震波は正確な測定が難しく、分析の精度も低い。それに比べて核爆発は、余計な雑音がないきれいな波を発生させる。

「地球をハンマーで殴ったような感じです」と、デイ氏はたとえる。

 だが問題は、モンタナ州にある超遠距離地震検出装置(LASA)の磁気テープからいかにデータを抽出するかだった。1990年代、大学院生だったポール・アール氏は、劣化したテープから旧ソ連による核実験の音を拾い出すという作業を任された。現在、アール氏は地震学者として米国地質調査所に所属している。

 テープのほとんどは摩耗し、磁気情報は経年の劣化で失われ、10本に1本は再生不可能だった。山積みになったテープと格闘すること2週間、その努力は実った。

 アール氏、ヴィデール氏、そしてローレンス・リバーモア国立研究所のダグ・ドッジ氏は、1971年と1974年にほぼ同じ場所で実施された核爆発の地震波を比較して、内核の回転は外側よりも年に0.15度速いと結論付け、2000年にネイチャー誌に発表した。ヴィデール氏はその後、15年近くこの話題からは遠ざかっていた。

新たな計算結果

 それが変化したのは、2018年12月のことだった。米国地球物理学連合の定例大会に参加したヴィデール氏は、多くの人でごった返すポスター会場を歩いていた時に、姚家園(ヤオ・ジャユアン)氏の研究に目を止めた。

 現在はシンガポールにある南洋理工大学の地球物理学主任研究員となった姚氏は、過去に発生した数万件の地震のなかから、同じ場所で異なる時期に2度発生した地震40組を拾い集め、内核をかすめたこれらの地震波を比較して、地球の奥底に抱かれている内核の謎に迫っていた。

「大変すばらしいデータでした」と、ヴィダール氏は振り返って言う。だが姚氏はデータについて、内核のスーパーローテーションではなく、何か別のことが起こっているらしいと解釈していた。

次ページ:いくつかの不確定要素

 これに興味をそそられたヴィデール氏は、自分の核実験データを見直してみることにした。最初からやり直しつつ、最新の手法も用いてさらに深く掘り下げた。

 その結果、やはりスーパーローテーションは起こっているようだった。これまでの研究よりも精度は上がり、速度は遅く、1971年と1974年の間に、外側の部分と比べて内核は年に0.07度速く回転していたと結論付けた。

いくつかの不確定要素

 ヴィデール氏の最新の研究は、他の科学者から高い評価を受けているが、議論の決着にはまだ時間がかかりそうだ。

 姚氏の研究チームは最近になって、同じ場所で2度発生した地震のデータに関して新たな解釈を発表し、内核の回転速度は外側の部分と同じであるとの仮説を提唱した。そして、計算の違いは、内核の表面が山あり谷ありの起伏に富み、時とともに変化しているためだろうと主張した。

 ヴィデール氏は、スーパーローテーション以外にも内核には何かがあるという点には同意しているが、姚氏の説明には懐疑的だ。

 リチャーズ氏は、内核自体も時とともにゆがんでいる可能性があると指摘する。

「ピザの生地を回して伸ばす様子を想像してみてください。空中に投げられた生地は、回転しながら形がゆがみます。それと同じように、内核も回転しながらゆがんでいるとしたらどうでしょう」

 また、回転速度が時によって変化しているということも考えられると、米イリノイ大学の地球深部地震学者で1996年の論文の共著者でもあるシャオドン・ソン氏は指摘する。ヴィデール氏の最新の論文はしっかりした根拠を示しているが、1971年から74年という1期間を測定しただけなので、さらなる材料が必要だと、ソン氏は述べている。

「とても難しい研究です」と、米プリンストン大学の地球深部地震学者ジェシカ・アーウィング氏は言う。「データは断片的であっても全て価値がありますが、残念ながらその断片すら十分にないのです」。だが、正確な答えが得られる日もそう遠くはないかもしれない。解析技術は日々進化し続け、世界中の地震計が休みなしに地球上で起こるすべての地震のデータを集めている。

 内核の謎解明には「あと10年もかからないでしょう」と、姚氏は期待する。

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