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すべての使用済み核燃料を1カ所に、米で進む計画

  • 2019年8月5日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 原子力発電は、温暖化の解決策として喧伝されることがある。世界は化石燃料から環境に優しいエネルギー源への移行を模索しているが、電力需要は増加の一途をたどっている。原発なら、ひとたび稼働すれば、温室効果ガスである二酸化炭素を排出することなく、曇りの日も風のない日も電気を生み出す。

 現在、1年間の発電量のうち、原子力発電が占める割合は世界で約11%、米国では20%となっている。原発推進派は、化石燃料による火力発電とすぐに置き換えられ、同時にますます増えるエネルギー需要を満たせる発電方法は原子力発電だけだと信じている。

 しかし、原子力発電を行えば放射性廃棄物が出る。その根本的な解決策は原発の開始から数十年たった今も見つからず、相変わらず悩みの種だ。

 米国には2018年12月の時点で30州に60カ所の原子力発電所があるが、その大半が使用済み核燃料を敷地内で貯蔵していて、汚染と漏洩のリスクを国内各地に広げている。そのため1987年には連邦政府が、ネバダ州ラスベガスから北に約160kmのユッカマウンテンを放射性廃棄物の最終処分場にするよう提案した。

 しかし、ネバダ州内の抵抗が続いて処分場の開発は遅れに遅れ、オバマ政権は2009年にプロジェクトの中止を決めた。

 だが今、貯蔵施設の候補地として新たに1つの場所が浮上している。使用済み核燃料の管理を専門に行うホルテック・インターナショナル社が、12万トンの放射性廃棄物を(少なくとも当初の予定では)40年間貯蔵する「集中中間貯蔵施設」の用地として、ニューメキシコ州南東部の砂漠地帯の土地約400haを購入したのだ。

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輸送は安全? 本当に被曝を防げる?

 小さな市や町が点在するニューメキシコ州南東部の平野は、米国の「核の回廊」と呼ばれる地域で、もともと原子力産業とは縁が深い。米国唯一のウラン濃縮施設から約60km、ホルテック社が今回購入した土地から約20kmのところには、原発ではなく、原子力研究や核兵器開発によって生じた放射性廃棄物を全米から集めて貯蔵する施設がある。また、テキサス州との州境のすぐ向こうには低レベル放射性廃棄物の貯蔵施設があり、受け入れ対象を高レベル放射性廃棄物にも拡大することが検討されている。

 しかし、 ユッカマウンテンの場合と同様、ニューメキシコ州でも貯蔵施設の建設に反対する地元住民の声が高まっている。今年州知事に就任したミシェル・ルーハン・グリシャム氏は、6月初旬にこのプロジェクトへの反対意見を表明した。下院議員のデブ・ハーランド氏もそれに続き、「ニューメキシコ州の人々の健康と安全、私たちの経済、私たちの環境」に対するリスクを指摘した。

 ニューメキシコ州の公有地委員であるステファニー・ガルシア・リチャード氏は、ホルテック社が米原子力規制委員会に虚偽の説明をしていたと批判した。その説明は、建設予定地の近くで操業する石油会社やガス会社から、処分場に影響を及ぼさないように採掘する合意を得たというものだが、この件についてホルテック社にコメントを求めても回答はなかった。

 貯蔵施設の建設予定地から80kmほどのところにあるジャル市のスティーブン・オルドリッジ市長は、使用済み核燃料の輸送に不安を感じている。ジャル市議会は2018年、健康と安全への懸念を理由に、このプロジェクトへの反対を決議した。

 近年ジャル市には、好況に沸く近隣の油田やガス田で働くために、数千人の労働者が単身または家族連れで転入していた。オルドリッジ氏は、そうした労働者や家族が今後もジャル市にとどまることを期待しているが、貯蔵施設への不安から人々が出ていってしまうのではないかと心配している。

「一度でも事故が起きたらおしまいなんです」と彼は言う。「トラックがハイウェーをやってきて、放射性廃棄物が入った容器を落とし、それが割れたら、一巻の終わりです。コミュニティーはおしまいです」

 同州アルバカーキに拠点を置く「サウスウェスト研究情報センター」核廃棄物プログラムの責任者ドン・ハンコック氏も、放射性廃棄物の長距離輸送に不安を感じている。

「輸送は安全なのでしょうか? 本当に被曝を防げるのでしょうか?」

 ホルテック社に反対する多くの人々と同様、ハンコック氏は「強固な敷地内貯蔵」を提案している。すなわち、輸送を最小限にし、すでに放射性廃棄物が貯蔵されている場所の安全対策を強化したほうがいいという主張だ。

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広く分散していることがリスク

 一方、放射性廃棄物が広く分散していることこそリスクであり、この施設を建設しなければならない理由のひとつだと言うのは、貯蔵施設の建設予定地から約55km離れたホッブス市のサム・コッブ市長だ。彼はホルテック社に土地を売却した「エディ・リー・エネルギー同盟」(ELEA)という地方自治体による共同事業体の代表でもある。

「今後、原発の建設をやめるにしても、核燃料サイクルの末端はどうにかしなければなりません」と彼は言う。「全米の人口密集地の近くに放射性廃棄物を残しておくのは、良い国家戦略ではありません」

 ELEAの副代表であるジョン・ヒートン氏は、放射性廃棄物を収納する容器が徹底的な耐性試験を受けていることを説明して、ホルテック社への反対が技術論ではなく感情論から来ているのではないかと指摘する。

「彼らは原子力に関わるあらゆることに極端な意見を持っています。私見ですが、彼らは(プルトニウム原爆が投下された)長崎のような惨事を恐れ、それを起こしてはいけないと考えているのでしょう。原子力は私たちに多くの恩恵をもたらすのに、彼らはそれを望んでいないのです」

「問題は大きくなる一方です」

 ニューメキシコ州には、集中貯蔵施設が一時的なものではなく恒久的なものになることを懸念している人々がいる。レオナ・モーガン氏は、ホルテック社に対する反対運動を組織している「原子力問題研究グループ」の共同議長だ。モーガン氏と同グループは、州内に放射性物質を集めることに反対し、原発の段階的な閉鎖に賛成している。

「ホルテック社の案はあくまで一時的なものだとされています」と氏は言う。「現時点で、米国内には恒久的な貯蔵施設は1カ所もありません。ユッカマウンテンの施設は実現しませんでした。私たちは、恒久的なものになる可能性のある施設には反対です」

 彼女は、問題を先送りするようなやり方は放射性廃棄物には通用しないと言う。米国環境保護局の規定では、ホルテック社が貯蔵しようとしているような放射性廃棄物は1万年は隔離しなければならない。

 コッブ氏は、貯蔵施設が恒久的なものになるとの懸念は大げさだと考えている。この施設に40年以上貯蔵してはいけないと原子力規制委員会が判断するなら、その時期になってから次にどうするかを決めればよい。彼は、このプロジェクトに抵抗があるのは理解するとも言う。「しかし、放射性廃棄物は何十年も前からこの国にあり、増え続ける廃棄物をどうにかしなければならないという事実を無視するべきではありません」

 おそらく、その点だけは誰もが同意するだろう。「放射性廃棄物の置き場はありません。問題は大きくなる一方です」とモーガン氏は言う。「今は、恐ろしい時期です。原子炉は老朽化しています。廃炉になる原子炉が増えれば、より多くの人々が『よそへ持っていけ』と言い出すでしょう」

「けれどもそれは愚かなことです」と彼女は言う。「あなたにとって安全でないものが、私たちニューメキシコ州の人々にとって安全なはずがないでしょう?」

 ホルテック社によると、連邦政府は同社の施設は十分に安全であると判断していて、来年には建設許可が出るだろうという。それから起こることは、今後数万年にわたってこの地域に影響を及ぼすかもしれない。

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