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2050年の人口は100億人へ、食料どうまかなう?

  • 2019年8月2日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 2050年、世界の人口はほぼ100億人になるという最新予測を国連が発表した。現在の77億人から約30%増える計算だ。それだけの人口が健康に暮らせる食料を供給することは可能なのか。

 世界資源研究所(WRI)はこのほど、最新の報告書『Creating A Sustainable Food Future(持続可能な食の未来をつくる)』をまとめた。「達成するための道筋はあります。ですが、それは私たちの想像を超える大きな課題です」と、今回の報告書の共著者であるWRIのリチャード・ウェイト氏は話す。

 現在、世界の植生がある土地のほぼ半分が、すでに農業に使われている。農業は、人間が使う水全体のうち90%を消費しており、地球温暖化をもたらす全排出物のおよそ4分の1を発生させている。それでも世界の8億2000万人が、今も栄養不足に陥っている。十分な食事が手に入らない、あるいは十分な食事を買う余裕がない人々だ。

「面積当たりの食料生産量を30%増やし、森林破壊を止め、食料生産による炭素排出量を3分の1にしなければならないのです」とウェイト氏は言う。

 これらすべてを、貧困を減らしつつ、生態系や淡水を損なわず、農業による環境汚染を防ぎながら行わなければならない。

「特効薬はないのです。土地をこれ以上農地に転換するのを防ぐには、飼料や放牧管理を改善したり、多毛作や育種技術を向上させる必要があります。例えば、ゲノム編集技術を使えば、収量が最大になるような作物を開発できる可能性があります。私たちは、あらゆることをやる必要があるのです」

 ウェイト氏が言う「あらゆること」は、22個の解決策として565ページにもわたる報告書で詳述されている。今回提案された解決策の一部は以下の通り。

次ページ:提案された4つの解決策

食品ロスを劇的に減らす

 現在、食料全体の3分の1が失われたり、廃棄されたりしていると推定されているが、こうした食品ロスを劇的に減らす。太陽光発電を使った冷蔵設備を農場に普及させたり、果物の日持ちを良くする天然化合物を小売店で使うなど、食品のサプライチェーン全体で改善の余地がある。

「肉食」から「植物食」に

 肉を大量に消費する食事から植物由来の食事に移行する。特にウシ、ヒツジ、ヤギの肉を作るには、大量の資源が必要だ。報告書によれば、現在、キノコが20〜35%入ったハンバーガーや植物だけでできたハンバーガーがあり、牛肉100%のハンバーガーと同じくらいおいしいという。また、各国政府は年間6000億ドル(約65兆円)近くもの助成金を農業に拠出しているが、肉や乳製品の生産を助長するものは段階的に廃止するべきだとも述べられている。

収量の効率化

 これ以上の土地が農業に使われるのを防ぐためには、飼料の品質や放牧の管理を大幅に改善する必要がある。また、多期作や多毛作の方法を確立する必要もある。これにより、作物育種技術の向上も求められる。例えば、ゲノム編集技術CRISPRを使って遺伝子を調整することで、収量が最大になるよう品種改良できる。

漁獲量の管理と水産養殖を改善する

 漁業への助成金として世界中で年間350億ドル(約3兆8000万円)も出しているが、この大部分をなくせば、乱獲を抑制できる。違法な漁業や未報告の漁業の取り締まりを強化し、認証を行えば、推計1100万〜2600万トンの魚を保護できる。水産養殖では、サケなどの大きな魚を育てるのに飼料として小魚を使うのではなく、藻や海草、種子から採った油を使った魚の餌を使用するという選択肢もある。

次ページ:果たしてそれで十分なのか?

果たしてそれで十分なのか?

「この報告書が、世界の食料システムに必要な変革を正しく提示しているとは、私には思えません」と米ワシントンD.C.に拠点を置くミレニアム・インスティテュートの会長ハンス・ヘレン氏は話す。氏は、昆虫学者としての研究で世界食糧賞を受賞している。

 特に、国連食糧農業機関(FAO)と国連の世界食糧安全保障委員会(CFS)は、「アグロエコロジー(農業生態学)」の手法を支持しているが、WRIの報告書ではこれが言及されていない、と同氏は言う。アグロエコロジーは、化学肥料などを使わず、自然の生態系を生かすことで土地の生産性を高める方法だ。

 CFSは、世界の人口を養う持続可能な方法についての問題を取り上げた独自の報告書を6月24日に発表したばかりだ。その報告書によると、アグロエコロジーは、生産から消費まで、持続可能な食料システムを構築する方法として段々広まってきたという。しかし、農業は極めて多様であり、ある場所でうまくいったものが別の場所では機能しない可能性があることは、報告書でも認めている。

 WRIの報告書ではアグロエコロジーという言葉は使われていないが、解決策の一部はそう呼ぶこともできるとウェイト氏は言う。「アグロエコロジーが声高に叫ばれ、これを唯一の解決策とするせいで、現実的なニーズが置き去りにされてしまっていると思います」と同氏は話す。

 花粉媒介者(食用作物の受粉を助けるミツバチなどの昆虫)に関しても、WRIの報告書ではほとんどふれられていない。だが、気温が高いと、花粉媒介者が現れる前に花が咲いてしまう可能性があり、そのため収穫量が落ちることは述べられている。

 だがさらに問題なのは、トウモロコシや大豆などばかりを育てるようになり、農業における作物の多様性が失われつつあることだ。7月10日付けで学術誌「Global Change Biology」に発表された新たな論文は、このことで花粉媒介者は危機にさらされていると警告している。栄養を得る機会が厳しく制限されるからだ。この論文では、異なる時期に咲くさまざまな作物を栽培し、花粉媒介者に安定した食料源と生息地を提供することを推奨している。

食料生産に有益なアイデア

 WRIの報告書には新しいことはそれほど書かれてない、と米国のNPO「フードタンク」の代表兼創設者のダニエル・ニーレンバーグ氏は言う。フードタンクは、飢餓、肥満、貧困を軽減する、環境的に持続可能な解決策を模索している。

「前へ進む方法について、多くの有益なアイデアを伴う具体的なメッセージがある点は評価しています」

 その多くは、持続可能な食料生産に移行するために私たちが今できることであり、より多くの雇用を創出し経済成長を促すものであると同氏は言う。

 細かいことはともかく、世界は断固として行動しなければならない、とWRIの会長アンドリュー・ステアー氏は今回の報告書の前書きに書いている。

「食料生産と生態系の保護は、政策や財政、農場の慣習など、あらゆるレベルで結び付くべきであり、貴重な土地と水への破壊的な競合を避けなければならないのです」

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