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誰もが弱い「子犬のような目」 人との交流で進化

  • 2019年6月20日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 イヌが眉頭を上げてみせる表情は「子犬のような目」と形容される。無垢で悲しげに見えるその顔を見れば、クールな人でも心を揺さぶられるだろう。

 そんな風に見えるのは偶然ではないことが、新たな研究でわかった。この研究によれば、長い時間をかけてイヌが家畜化する間に、人間に伝わる表情ができるよう、イヌの目の周りの構造が進化したというのだ。

 確かに、人間と目が合ったとき、眉頭の筋肉を上にあげて目を大きくみせ、何かを訴えかけるような表情をするイヌは多い。「イヌが眉の筋肉を意図的に動かしているという証拠はありませんが、いかにも“イヌらしい”と人は感じます」。論文の主執筆者である英ポーツマス大学の心理学者、ジュリアン・カミンスキー氏はそう語る。

 カミンスキー氏は、「眉の動きは人間同士のコミュニケーションでも大きな役割を果たしている」と話す。

眉を上げる動き

 カミンスキー氏は、これまでも研究を通じて、人間の身振りを理解する能力は、チンパンジーなどの霊長類よりもイヌのほうが優れていることを発見している。

 同氏は数年前から、今度は逆の立場、つまり人間の側がイヌの行動をどの程度読み解いているのかについて、研究し始めた。2013年に発表された研究では、保護施設にいるイヌたちの動画を撮影し、イヌの行動とイヌが里親に引き取られるまでにかかる時間の長さとの間に相関関係があるかを調べている。

 こうした数々の研究を通じて、カミンスキー氏が特に目立つと感じたイヌの動作が、眉を上げて内側に寄せる動きだったのだ。

次ページ:人間はイヌの表情を無意識に見ている

「この結果に非常に驚かされました。眉の動きのようなささいなことが、大きな影響力を持つとは考えてもいなかったからです」とカミンスキー氏。

 しかし、同時に、この発見からは、また別の疑問も湧き上がる。では、イヌの眉の動きは家畜となったイヌに特有のものなのか、それともイヌの祖先であるハイイロオオカミにも元々備わっていたものなのかということだ。

 2019年6月17日に学術誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に発表された研究で、カミンスキー氏のチームは、イヌの顔の筋肉の解剖と分析を行っている。対象となったのは、雑種犬、ラブラドール・レトリバー、ブラッドハウンド、シベリアンハスキー、チワワ、ジャーマン・シェパードというイヌ6頭に加え、野生のハイイロオオカミ4頭だ。これらの動物はすべて、自然死した後、学術研究のために寄付されたものだ。

 分析の結果、眉頭を引き上げる内側眼角挙筋という大きく盛り上がった筋肉は、6頭のイヌすべてにあったがオオカミにはほとんど見られないことが判明した。

 もう1つわかったことがある。オオカミの外側眼角後引筋はイヌに比べて小さく、大きさもバラバラだった。オオカミと似ていたイヌは、比較的古い種でオオカミと近しい関係にあると考えられるシベリアンハスキーだけだった。

 この外側眼角後引筋は目の外側の縁に沿って走っており、この筋肉を使うと白目をより多く露出させられる。つまり、これが人間から見ると、イヌの表情が時に人間らしく見える理由だ。

「体の構造の変化は、どんなに小さい変化であっても、見た目の印象に大きく関与することがあります」。こう話すのは、米フロリダ大学で進化とイヌの家畜化について学ぶ博士課程の学生モリー・セルバ氏だ。「顔の表情を作る筋肉は比較的小さなものですが、人間の顔の認知に対する影響はとても大きいものです」

交流による進化

 米デューク大学の進化人類学者、ブライアン・ヘア氏は、イヌとオオカミは解剖学的には非常によく似るものの、目の筋肉だけは違うと話す。

「今回の研究は、こうした形態の変化が、イヌと人間が2万年にわたって交流を持つ中で進んだことを示しています」

「もちろん、人間のほうがイヌを意識的に変えていったということではありません。イヌたちが結果として、人と関わるときの強みを手に入れたと考えるべきでしょう」

 カミンスキー氏は今後、古代種や野犬など、もっと多くのイヌを調査し、眉の筋肉が具体的にどんな風に変化したかを調べる予定だという。

 また、子犬のような目に対する人間の反応や、なぜ我々人間があの目に弱いのかについても、引き続き研究したいと話している。

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