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椎の化石を南半球で初めて発見、なぜすごい?

  • 2019年6月11日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 太古の昔、現在のアルゼンチン南部のパタゴニアにあたる地域で火山が噴火し、巨大な凹地であるカルデラが残された。そこに水が溜まり、やがて湖になり、数え切れないほどの植物や昆虫などの生物であふれかえった。これらの生物は、やがて湖底の堆積物に深く埋もれ化石になった。今日の古生物学者にとっては、またとない宝箱である。

 今回、この古代の湖から、とりわけ刺激的なお宝が見つかった。5200万年前の樹木、シイの化石だ。シイ属としては最古かつ南半球で見つかった初めての化石であり、その多様性から、この地で進化を遂げていたことも示唆された。発見は6月7日付けの学術誌「サイエンス」で発表された。

 シイの実や葉の化石が見つかったのは、ラグーナ・デル・フンコと呼ばれる発掘場所だ。シイの木は、今日でも主に東南アジアの山地の多雨林で見られる。シイはクリと近縁で、実は食べられ、「信じられないほど華やかな花穂」をつける、と論文の著者である米ペンシルベニア州立大学の古植物学者ピーター・ウィルフ氏は言う。

 今回の発見により、経済的にも生態学的にも重要なシイの生活史の解明が進むと考えられる。シイ属は、ブナやオークなども含むブナ科に属し、花を咲かせる種子植物の仲間だ。

「北半球全体からアジアの熱帯にかけての森林では、ブナ科が絶対的に優位です。森の構造はブナ科の木によって決まります」と、米コーネル大学とアルゼンチンのエジディオ・フェルグリオ古生物博物館と共同研究を行ったウィルフ氏は話す。これらの木は、材木の原料であり、「食物網の中心」でもあると同氏は言う。げっ歯類だけでなく、人間やその他の哺乳類、鳥や昆虫にも栄養を提供する。

「ブナ科の木は生態学的にも経済的にも非常に重要であり、それが古代の記録からもわかるのは素晴らしいことです」と樹木生物学者メグ・ローマン氏はメールで述べた。同氏は、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーで、非営利団体「Tree Foundation」のディレクターでもある。なお同氏は、今回の研究には関わっていない。

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1万3000キロ離れたパタゴニアとニューギニア島

 ところで、東南アジアの山地多雨林の木が、寒冷で乾燥しているパタゴニアで何をしていたのだろうか? その答えのヒントは、気候変動と大陸移動にある。

 気候については、湖で化石ができた当時、世界は今よりずっと温暖で、当時のパタゴニアは涼しくて湿潤だった。この気候は、現在のボルネオ島やニューギニア島の山と似ている。今回見つかった化石は、ニューギニア島の山地多雨林でみつかる種に最も近かった。

 両島は、今日のシイの分布域の中で、ラグーナ・デル・フンコから最も近い。とはいえ、それでも1万3000キロも離れている。

 この距離は、数千万年をかけて生き残ってきた、種の長い歴史を物語っている。パタゴニアでシイが進化を遂げていた時期は、南半球に存在したゴンドワナ大陸が最後に分裂する直前で、南米大陸、南極大陸、オーストラリア大陸はまだ互いに近くにあったのだ。

「今回の研究は、ゴンドワナ大陸に結びつく重要な植物の記録なのです」とローマン氏は話す。

長い年月をねばり強く生き抜いてきた

「地球規模の気候変動、ゴンドワナ大陸の分裂、大陸移動を乗り越え、何千万年にもわたり生き延びてきたのです。好ましい生息地を追いかけるように」とウィルフ氏は話す。願いは、もちろん、この物語が絶滅で終わらないことだ。森林伐採などの人間活動が急速に進み、シイ属は現在危機にさらされている、と同氏は述べる。

「適応できないのです。古代には適応する時間も場所もありました。しかし、今はそれがありません」と同氏は話す。だが、今回のような発見には、一般の人々の意識を高め、保護活動を促進する力がある、とウィルフ氏は付け加える。同氏は20年間ラグーナ・デル・フンコで発掘調査をしてきたが、これからも続ける計画だという。

「古生物学は、保護の知見を提供します」と同氏は語る。「生息地の古代の歴史を調べ、その環境を保護することがいかに重要かがわかり始めました。一度失えば取り戻すことはできないのです」

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