サイト内
ウェブ

一挙に24頭を再導入、ライオン復活に明るい兆し

  • 2019年5月23日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

◆前編はこちら
「内戦で消えたライオン、なるか史上最大の復活作戦」

 全部で24頭もの野生ライオンを遠隔地に移動するのは、同種のプロジェクトとしては史上最大の規模となる。

「多くの人に、それほどの数を移動させるのは不可能だと言われました」と語るのは、保護活動家で狩猟家、そしてTVパーソナリティのイバン・カーター氏だ。健康なライオンを24頭も見つけて輸送するのは、安くも簡単でもなく、また、解放したライオンを追跡するのも非常に困難だ。「それでも、否定論者の言うことを聞いていたら、何もできませんから」とカーター氏は言う。

 24頭のライオンの扱いが難しいことは、カーター氏も認めている。「しかし、24頭いれば成功の確率が上がります。18頭の雌と6頭の雄をあの広大なエリアに放てば、ごく自然に暮らしていく中で数頭失われても大丈夫なくらいの余裕ができます」

 遺伝子をできる限り多様に保つために、ライオンは南アフリカ各地の保護区から選ばれた。いったんクワズール・ナタール州のムクゼ動物保護区に集められ、3週間かけて医療検査が行われた。その後、ライオンたちに鎮静剤が与えられてから、2機の自家用機でモザンビークへと運ばれた。

 2018年8月5日、マロメウ動物保護区の埃っぽい滑走路には、大勢の人が集まり、貴重な荷物を乗せた飛行機の着陸を見守った。地元の村人の多くはライオンを見たことがなく、ライオンが飛行機から降ろされる間、人々からは恐怖と興奮のつぶやきがもれた。そしてライオンが仮の囲いの中に入れられた瞬間から、儀式が開始された。

次ページ:「ここはライオンの完璧なすみか」

「わたしたちは祖先(スピリット・ライオン)にライオンを紹介するための儀式を行いました」。ライオンが到着した日のことについて、長のトゾ氏はそう語る。供物として、長はプラスチックのコップに入れたコーラやビール、タバコをスピリット・ライオンに捧げた。精霊が不満に思えば、新しいライオンたちは殺されてしまうだろうと、トゾ氏は言った。もしライオンたちが受け入れられれば、「わたしたちはスピリット・ライオンに、村を守り、ライオンがだれかに噛み付いたりしないようにしてほしいと願います」

「ここはライオンの完璧なすみか」

 熱く、湿った霧が氾濫原を覆う中、8つの目が、近くのヤシの茂みから、こちらを油断なく見つめている。ライオンの耳がピクピクと動いて露を払った。一頭の雌が起き上がり、茂みから開けた場所に出てきて、朝のサウナから上がったかのように体から水気を振り落とす。

 ライオンが囲いの外に放たれてから、半年が過ぎた。獣医師や保護活動家たちは、数日前からライオンを眠らせ、検査をし、首輪を付ける作業を続けている。ライオン再導入計画の立案者のひとりであるマーク・ホールデーン氏とカーター氏は、ライオンの状態と進展に大いに満足した様子だ。

「あたりを見回すだけで、ここはライオンの完璧なすみかだということがわかります」。トラックに座って、ライオンが姿を現すのを眺めながら、カーター氏がそうささやく。「彼らには自由に動き回れる200万エーカーの土地があります。獲物はたっぷりといます。車で5分も走れば、必ずイボイノシシ、リードバック、シマウマ、ハーテビーストを見かけます。足りないものが思い浮かばないくらいですよ」

 大規模な再導入のストレスは過ぎ去ったが、まだ気は抜けないとカーター氏は言う。「次の重要な節目は、子供たちが生まれるときです。わたしにとって、肩の荷をおろしてこれは成功だと言えるようになるのは、ここが本当にアフリカの野生ライオンの生息地だと心から思えるようになったときです」

 今いるライオンたちは、決して狩られることはないとカーター氏は言う。「いつの日か、この土地を300頭のライオンが歩くようになったとき、その中から3頭を狩れば、密猟の偵察員を一年間、雇うだけのお金ができます」

 戦争に苦しめられたモザンビークでは、もしも毎年狩猟に訪れるごく少数の得意客がいなかったら、この自然と動物は決して存在しなかったとカーター氏は確信している。ホールデーン氏が狩猟キャンプを運営する間にも、これほど動物を増やせたのは、長期契約者を慎重に維持してきたからだ。

「多くの狩猟ガイドは、利益以外には何の興味も持っていませんし、彼らが運営を任された区域からは動物が消えつつあります」とカーター氏は言う。「一方、マークは密猟対策に数百万ドルにのぼる投資をしています。ヘリコプター、バイク、密猟対策チームなどの対策が、保護区の成功を支えているのです」

 サミュエル・ビラ氏は、獣医師として、狩猟が動物保護のための最善の手段だとは思わないと語る。しかしながら「モザンビークでは、保護区を広げる必要があります。それには資金が必要です。マロメウは狩猟エリアに指定されており、そこから得られる収益が保護活動を支えています。当然、厳しい法律がありますし、生息数に基づく狩猟の割当数が定められていますが、モザンビークでは、狩猟は野生動物を活用する手段のひとつなのです」

次ページ:そして吉報が舞い込んだ

「わたしが死んだずっと後まで、残っていてほしい」

 ライオンの再導入から半年が過ぎ、地元の村は明るい空気に包まれている。

「当初、村人はとても怖がっていました」と、トゾ氏は言う。「しかし、今はもう大丈夫です。ライオンが近くにいることはわかっていますが、襲ってくるようなことはありません」

 祖父が、自分や村人をライオンから守ってくれているから心配していないと、トゾ氏は言う。もし村が襲われれば、スピリット・ライオンがライオンを殺してくれるであろうことを、トゾ氏は知っている。

 村で出会ったジョンという名の若者は、彼の祖父のスピリット・ライオンについて話してくれた。彼の祖父は生前、自分はライオンになってお前たちを守ると、いつも言っていたという。そして今、森に入って道に迷ったり、恐怖を感じたりしたときには、祖父に話しかければ、必ず助けてもらえるのだと彼は言う。

 トゾの村にとって、スピリット・ライオンは犠牲、英雄的行為、保護、遺産、家族愛の象徴だ。かつての長ガラングイラは、自らの命を村人と土地のために犠牲にし、より強くなって帰ってきた。

 カーター氏は言う。「いつかこの場所が、アフリカの野生ライオンの安定した生息地になってくれたらと願っています。わたしが死んだずっと後まで、残っていてほしいですね」

 わたしたちがモザンビークを離れた数カ月後、1頭の雌が妊娠し、続いてさらに2頭が妊娠して、最終的に6頭の子供が生まれた。ホールデーン氏はわたしに、父親はおそらく、モザンビーク生まれの年老いた雄ではないかというメールを送ってきた。氏がその雄を見かけたのはたった一度きりで、たぶんもう死んでいるはずだという。

「その雄はきっと、スピリット・ライオンですよ」。わたしはそう返信を送った。

【この記事の写真をもっと見る】ギャラリー:史上最大のライオン復活作戦、一挙に24頭を移動、モザンビーク 写真20点

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
(C) 2019 日経ナショナル ジオグラフィック社