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水上浮遊都市が人口問題を緩和?国連計画が議論

  • 2019年4月10日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 世界の居住地問題に取り組む国連のプログラム「国連人間居住計画(UN-Habitat)」はこのほど、「持続可能な水上浮遊都市」構想についての会合を実施した。投資家や科学者、そしてビデオ会議システムで繋がったケニアの学生たちが、住居から商業、教育、娯楽まで、施設が整った水上都市の可能性について話し合った。

 水上浮遊都市と聞いても、現実味のない話に感じられるかもしれない。

 しかし、世界中の沿岸地域の都市は、極端な空間不足に直面しており、その度合は急速に悪化しつつある。

 地球温暖化が進行する中、氷床の融解や海水温の上昇などによって、海水面がこの先数百年にわたって容赦なく上昇を続けていくことはほぼ間違いない。また、世界の都市化と人口の急増が、沿岸部が抱えるリスクの拡大に拍車をかけている。

 こうした事情を考慮すると、水上浮遊都市というソリューションを検討しないことこそ現実味がないと、提案者である「オーシャニクス社」と、デンマークの建築家ビャルケ・インゲルス氏らは主張する。

 彼らが最終的に目指しているのは、海岸の都市化が限界に達した地域に、いくつもの“衛星都市”をまとめて浮かべることだ。これらの都市は、嵐にも耐えられる設計の、六角形をした量産型浮遊モジュールから形成される。

 モジュールは船で所定の位置まで曳航され、水上都市を形成する大きなモジュール群に固定される。モジュール群の上には、持続可能性を考慮して建てられた住宅、職場、娯楽施設、宗教施設などが載っている。海岸との連絡にはフェリーやドローンが活用される。コミュニティはできる限り、水上都市内の太陽光などの再生可能エネルギー、循環水や雨水、地元産の食品によって維持される。

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アジア沿岸の人口密集地を想定

 このプロジェクトを発案したのは、米ハワイ生まれでタヒチと中国にルーツを持つ起業家、マーク・コリンズ氏だ。氏は10年以上前からさまざまな類似計画の実現に向けた活動を続けており、中には、政府による規制や税金を逃れる手段として「シーステディング(どの国にも属さない海上建築に移住すること)」を望む人たちから支持を得たものもあったという。

 インタビューの中でコリンズ氏は、海上浮遊コミュニティが成功するには、政府の支援が不可欠であり、どこかの国の沿岸海域内に作るのがベストだと述べている。

 今回提案したのは、実現への妥協点を探り、アジアを中心に投資家を募るためだった。アジアの都市はとくに人口が密集して不動産価格が高騰している一方、政府の力が大きいことから、開発を組織的に推進するのに適しているからだ。

 しかしコリンズ氏は、こうしたプロジェクトでは富裕層だけでなく、都市の住人全員が恩恵を受けることが極めて重要だと述べている。「このプロジェクトは、貧困層が海岸で溺れているのを一部のお金持ちが眺めるといったものにはなりません」

 この会合を主催した「国連人間居住計画」は、1978年に、社会的・環境的に健全なコミュニティを追求するために設立されたプログラムだ。

 こうした型破りなアイデアを取り上げたことについて、同機関の管理担当事務次長、ビクター・キソブ氏はこう述べている。「巨大ハリケーンや、アフリカ南東部を襲ったサイクロンへの対策を探しているとき、このアイデアに出会ったのです。マークの話を聞き、彼の設計を見てみたところ、斬新だが非常に実際的と思えました」

 会合では、こうしたプロジェクトに、理論上どのようなメリットがあるかが明らかにされた。海水面の上昇や高潮による脅威は、数キロ沖合の海には存在しない。沿岸地域ではあれほど恐ろしい津波でさえ、海上都市にとってはそこまでの脅威にはならない。なぜなら、地震によって引き起こされる波が破壊的な高さになるのは、海が浅くなる海岸近くだけだからだ。

 海上は、大半の国で安価に借りられる。これに対して、香港やラゴスのような都市の不動産価格は天文学的な数字だ。

さまざまな問題点

 一方、会合では数多くの問題点も指摘された。

 たとえば技術的な問題としては、互いにワイヤなどで繋がれ、係留されたプラットフォームは台風をしのげるかといったものがある。

 会合に出席していた米MIT海洋工学センターの責任者ニコラス・マクリス氏によると、世界にはハリケーンなどの強風に耐えられるよう設計された海上の建造物もたくさんあるが、そうしたものはすべて巨大かつ非常に高価な、石油やガスのインフラだという。

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 オーシャニクス社の提案には長所もあるが、今の設計では風雨などの危険から守られた海域内に留めておく必要があるだろうと、マクリス氏は述べている。

 最大の難関になると予想されるのは規模の問題だ。たとえば海抜の低いオランダは、この分野の長年の先駆者であり、ロッテルダムには試作の浮遊酪農場がある。しかし、この酪農場の設計は、わずかウシ40頭を想定したものだ。

 コリンズ氏はしかし、オーシャニクス社のコンセプトの中心は、最終的に基本の浮遊ユニットを大量生産することにあると指摘する。世界中どこへでも引っ張っていけるこのユニットであれば生産効率が高く、家具から太陽電池まで、あらゆるもののコストを大きく削減できる。

 沿岸地域に住宅を作ることに比べれば、オーシャニクス社の「都市」は破格だとコリンズ氏は言う。世界の都市が急速に拡大し、居住が貧困層にとって大きな負担となるなか、その社会的価値は計り知れない。

水上都市の具体像

 会合ではまた、政治的・社会的な問題も指摘された。水上都市のコミュニティに入る住人たちは、どうやって選ばれるのだろうか。

 また、若い人たちはそうした人工島では、たとえ陸との交通手段が確保されていたとしても、孤立を感じるのではないかとの指摘があった。世界中どこでも、都市の魅力は若者たちにとっては大きく感じられるものだ。

 一方で、MIT工学部のある学生は、自分はぜひこうしたプロジェクトに参加したいと述べた。

「わたしは太平洋岸北西部の島で育ちました。もしあの土地に見られるような、強い絆で結びついた文化と、持続可能性の考え方を育めるようなものを作ることができれば、これは非常に現実味がある話だと思います」

 さらに、このコミュニティデザインは高齢者にとって理想的であり、リタイア後の住居として重要な選択肢となるだろうとの指摘もあった。

 都市化と開発は常にトレードオフの関係にある。もし浮遊都市のような選択肢が選ばれないなら、それは過去100年間に行われてきた、浚渫(しゅんせつ)と埋立てというソリューションがさらに続けられる見通しを高めるだけだ。

 海上都市というアイデアはこの日、国連副事務総長のアミーナ・J・モハメッド氏からも強い支持を得た。モハメッド氏は、かつてナイジェリアの環境相として、沿岸地域が抱える数々の難題に取り組んできた経歴を持つ。同国の都市ラゴスには、マココという巨大な水上のスラム街があり、そこにはボートやイカダをつなぎ合わせた迷路の上に数万人が暮らしている。

 モハメド氏は、実現までは何年もかかるだろうが、この水上コミュニティモデルはマココのような場所には有効かもしれないと述べている。

「最先端の」アイデアやイノベーションは、環境的・技術的な変化が加速する中で、世界が持続可能な発展に取り組むためには不可欠だというのが、同氏の考えだ。

「都市の開発と持続性に対するわたしたちのアプローチは、現在そして将来の問題に対応できるよう、ツールの大々的な見直しを行う必要があります」と、モハメド氏は言う。「水上浮遊都市は、わたしたちの新たなツールのひとつとなってくれるでしょう」

【この記事の写真をもっと見る】ギャラリー:世界が注目、「水上都市」という選択肢、写真あと4点

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