サイト内
ウェブ

国立公園近隣の子どもは健康で豊か、途上国で確認

  • 2019年4月8日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 3月末、アフリカ南東部のモザンビークはサイクロン「イダイ」の直撃を受け、甚大な被害を被った。国連の最新の報告によると、隣国のマラウイやジンバブエにも被害が出ており、合わせて700人以上が犠牲になり、180万人以上が被災した。

 サイクロンは町や村を破壊し、数万ヘクタールの農地で収穫を間近に控えた作物を台無しにした。今なお25万ヘクタール以上の土地が水浸しになっている。

 そんな中、モザンビークにあるゴロンゴーザ国立公園のグレゴリー・カー園長は、「私たちは公園のまわりのコミュニティーに34トンの食料を配布しました」と語った。

 数百人のパークレンジャーをはじめとするゴロンゴーザ国立公園のスタッフは、サイクロンの直撃から48時間も経たないうちに、地元の村人の救助や食料の配布、医療の提供に動き出した。「助けを求める声に最初に応答したのは私たちでした。ほとんどの人が存在すら知らないような僻地のコミュニティーを助けに行きました」

 国立公園は地元の数千人の農民と協力関係にあり、食料倉庫を持ち、部外者の手を借りることなくこの食料を配ることができた。しかし水位は高いままだ。「私たちがヒッポ・ハウス(カバの家)と呼んでいる園内の展望台は地面からの高さが3.5メートルほどあるのですが、今もまだ浸水しています」と彼は言う。ほとんどの道路が水没してしまったので、食料はカヌーとヘリコプターで届けられた。

 国立公園などの「保護地域」は、地元のコミュニティーにとって最良の友人でなければならない、とカーは言う。「ゴロンゴーザの近くの農場は、花粉を媒介する動物が多く、湿度が高く、気温は低く、より生産的です」

次ページ:周囲10km以内に実際に恩恵が

周囲10km以内に実際に恩恵が

 気候変動の影響を強く受けているアフリカでは、国立公園が救い手になれる可能性がある。例えば、モザンビーク政府は、国立公園の南に湿地保全区域を作ることを考えているが、これは次にサイクロンの直撃を受けたときに、より多くの水を蓄えさせて、被害を軽減できるようにするためだ。政府と協力してプロジェクトを進めるカー氏は、「現在この地域に住む人々には、今後も漁業やその他の持続可能な活動を続ける独占権が与えられますが、安全のため、高台の土地を利用する権利も与えられます」と言う。

 このようにゴロンゴーザ国立公園は、周辺住民の生活を良くすることを目標に掲げ、目標達成のために資源の多くを投入しているが、4月3日付け学術誌「Science Advances」に掲載された論文によると、ほかにも多くの公園が周囲10km以内のコミュニティーに実際に恩恵を与えていることがわかったという。研究チームが34の発展途上国の603の保護地域から得たデータを分析したところ、保護地域や、持続可能な利用を許可されている地域の近くに住んでいる家庭は、こうした地域から離れた場所に住む家庭よりも、裕福で健康であることが明らかになった。

 人々を締め出す、いわゆる「要塞公園」は、このような恩恵は与えていなかった。ただし、地元の子どもたちにマイナスの影響を与えている証拠も見られなかった。

 論文の共著者である米オレゴン州立大学の人類学者ドルー・ガーキー氏は、保護地域が先住民や地元の人々に恩恵を与えているかどうかについては、以前から議論があったと言う。「今回の研究で肯定的な結果が得られたことは、嬉しい驚きでした」

 観光関連の保護地域の近くに住む子どもは、より離れた場所に住む子どもに比べて豊かさのレベルが17%高く、貧困の可能性が16%低かった。観光業も行われている多目的保護地域の近くで暮らす5歳未満の子どもは、指標のひとつである身長年齢比のスコアが10%高く、発育不全は13%少ないようだった。

 研究チームは、これらの知見は、野生動物や文化を守る保護地域が、世界の貧困や健康問題に取り組むためにも利用できることを示していると結論づけている。

 次のステップは、これらの保護区の具体的な状況を精査して、地元の人々や生物多様性にとって何が良かったのかを明らかにすることだ、とガーキー氏は言う。

次ページ:コミュニティー主導の新たな取り組みも

コミュニティー主導の新たな取り組みも

 ケニアの「ノーザン・レンジランズ・トラスト(Northern Rangelands Trust)」は、コミュニティーを保全地域にする新しいモデルによって、すでに貧困や健康問題に取り組んでいる。これらは地域に根差した組織で、コミュニティーが所有する土地の管理を支援し、地元の人々の生活を助けるために立ち上げられた。

 同トラストは現在、18部族の約32万人が暮らすケニアの北部と海岸地域に、39カ所、合わせて4万2000平方キロの保全区域を持っている。

 この地域は、以前は紛争と密猟で評判が悪かったが、今では、コミュニティーの主導で、野生動物や風景の保護と関連づけた開発に力を注いでいる。

 植物、哺乳類、鳥類、昆虫、およびその他の生物種が姿を消し、生物多様性の衰退が加速している今、より多くの土地と海洋を保護する必要がある。「生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」のロバート・ワトソン会長は昨年、ナショナル ジオグラフィックに、「生物多様性が失われ続けていることにより、人々の幸福が徐々に蝕まれていることに、疑問の余地はありません。誰もが苦しみますが、特に影響が大きいのは貧しい人々です」と語っている。

 各国政府は、2010年に国連の生物多様性条約の下で設定された目標値を達成するために、保護地域の規模と数を増やす計画を立てている。同時に、持続可能な開発目標として、2030年までに貧困を半減させることをめざしている。

 保護地域を増やし、適切な方法で管理することで、貧困を減らし、人々の健康の増進をはかり、気候変動の影響からコミュニティーを守れる可能性があるとガーキー氏は言う。

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
(C) 2019 日経ナショナル ジオグラフィック社