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【動画】「イルカ監獄」約100頭は解放されるか

  • 2019年2月12日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 ロシア極東のスレドニャヤ湾に作られたいけすに、シャチ11頭とシロイルカ87頭が閉じ込められ、衰弱している。海の生きものを水族館に供給するロシアの4つの企業が、2018年の夏に数カ月かけて捕獲したものだ。同年11月、この施設の様子がドローンで空撮され、動物たちの窮状が報じられると、メディアは「イルカの監獄」と呼んだ。

 ロシアの地方当局は、違法に捕獲されたと疑われる海洋哺乳類について、同じく2018年11月に捜査を開始。ロシアの検事総長は、これらの動物を中国など他国の水族館に販売するのは違法だと警告した。

 サハリンと極東沿岸を拠点とするNGO「サハリン環境ウオッチ」代表のドミトリー・リシツィン氏は、閉じ込められた動物たちの健康状態はかなり悪いようだと危惧する。当局はリシツィン氏や海洋哺乳類の研究者、それに獣医師を招き、2019年1月18日と19日に施設に立ち入り、動物の健康状態を調べた。

 リシツィン氏によれば、シロイルカ87頭のうち15頭は子どもで、捕獲の時点ではまだ離乳していなかった可能性が高い。また、どのシロイルカも弱っていたようだという。施設の職員は囲いの中に張った氷を定期的に砕き、動物たちが水面に出られるようにしているとリシツィン氏は説明する。そうしないと、呼吸ができずに死んでしまうからだ。シロイルカは「氷の張った海で生活するのには慣れています」とリシツィン氏。「しかし、わずか12×10メートルのスペースに収容され、しかも人間が頭上からシャベルを打ち付けてくるような環境には慣れていません」

 また、シャチの状況はさらにひどいという。シャチは冷たい水中で暮らすのには慣れているが、通常、冬の間は南に移動する。リシツィン氏が撮った映像からは、数頭のシャチの背びれやその周囲の皮膚に病変があるのがわかる。映像を確認したリシツィン氏と研究者は、病変は長期間低温にさらされたことによる凍傷か、よどんだ水から発生したカビか細菌感染のいずれか、または両方ではないかと話している。

 モスクワに本部がある獣医学・生物工学アカデミーの教授で、獣医のタチヤーナ・デニセンコ氏もリシツィン氏と共に施設に立ち入り、シャチの病変と水のサンプルを採取した。「11頭のシャチのほとんどで、皮膚に種々の微生物がびっしり付いていました」とデニセンコ氏。いけすの中に残った餌が腐り、そこからシャチの皮膚に感染している可能性があるという。

 デニセンコ氏やリシツィン氏ら専門家が特に懸念しているのが、「キリル」と名付けられた若いシャチだ。動きが非常に鈍く、皮膚の病変も広い範囲に及んでいた。リシツィン氏はキリルが死んでしまうのではないかと心配している。

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野生に戻すことはできるか

 シロイルカとシャチの運命はいったいどうなるのか。当局が没収してリハビリさせた後、野生に返すかもしれない。あるいは、捕獲した企業は法に違反しておらず、動物たちを水族館に売ってもよいと判断するかもしれない。しかし、モスクワに拠点を置くNGO「海洋哺乳類会議」の副議長、ドミトリー・グラゾフ氏は、「ロシアの水族館でシャチを受け入れられるところはなく、国外に輸出するのも違法です」と話す。同団体は海洋哺乳類保護について研究するため、同じ分野の科学者たちをつないでいる。

 さらに、イルカたちが死ぬという第3の可能性もある。

 リシツィン氏らは、シロイルカとシャチが違法に入手されたものであり、中央政府が保護に動くべきだと主張する。「サハリン環境ウオッチ」を含む3つのNGOは2月1日、ロシアの政府機関3つを相手取って訴訟を起こした。ロシアの法律では、違法に入手された野生動物は政府機関が押収し、自然の生息地に返す義務があるというのが彼らの訴えだ。「国がこの動物たちの正当な所有者なのですから、押収して野生に返さねばなりません」とリシツィン氏。

 動物の所有権を主張する4社の1つ「ベルイ・キット(Bely Kit)」は、シロイルカとシャチは合法的に捕獲したとコメントしている。同社の弁護士、アントン・ペカルスキー氏によると、同社は年内に「動物をロシア内外の水族館に引き渡す」方針であり、「裁判所の命令がない限り野生に返すことはしない」とEメールで述べている。残り3社のうち、「アファリナ(Afalina)」と「オーシャナリウムDV(Oceanarium DV)」の2社も法を順守していると地元メディアに話した。4社目の「ソチ・ドルフィナリウム(Sochi Dolphinarium)」にもコメントを求めたが、回答は得られていない。

 なお、2月7日、ロシアの捜査機関はこの施設が動物を虐待している可能性があるとして新たに捜査を始めたと発表した。発表によると、捜査機関は動物を野生に返すため「速やかに包括的な措置を取る」予定だとしている。

 カナダ、ブリティッシュコロンビア大学の動物学教授でシャチの専門家でもあるジョン・フォード氏も、リシツィン氏が撮った映像をチェックした。その上で、きちんとした医学的検査と丁寧な治療を行って健康を回復させれば、ここのシャチは野生に返せるかもしれないと話している。スレドニャヤ湾付近で一緒に放せば、「少なくとも短期間はそのメンバーで社会集団を作るでしょう。年長の個体の狩りの能力が、若い個体にとって助けになるかもしれません」とのことだ(リシツィン氏は、同じことがシロイルカにも言えると話している)。

「ですが」とフォード氏は指摘した。「環境のひどいこの施設に長くいればいるほど、シャチが野生の暮らしに戻るのは難しくなるでしょう」

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