サイト内
ウェブ

星がブラックホールになる瞬間が見えた!?

  • 2019年1月11日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 今から2億年以上前、地球上では恐竜たちが闊歩していた頃、1つの大質量星が断末魔の苦しみにもがいていた。最後の大爆発は非常に珍しいタイプのもので、昨年6月にその光がついに地球に到達すると、天文学者たちは頭を抱えた。

 今回、謎の閃光の起源が解き明かされたかもしれない。45人の天文学者からなる研究チームは、「Cow(カウ、牛の意)」というあだ名をもらった奇妙な超新星の観測データを検討し、この爆発は、死にゆく星がブラックホールを生み出す瞬間を初めてとらえたものかもしれないと主張している。

 チームリーダーである米ノースウェスタン大学の天体物理学者ラファエラ・マルグッティ氏は、「これをずっと待っていました」と言う。マルグッティ氏らは1月にシアトルで開催された米国天文学会の年次総会で研究成果を報告し、近く学術誌『Astrophysical Journal』に論文を発表する。

 複数の波長の光でとらえられたデータは、大質量星がつぶれて中性子星という高密度の死んだ星になった可能性も示唆している。Cowを調べているほかの研究チームは、その異常な挙動を別の方法で説明しようとしている。以下では、Cowについてどんなことが分かっていて、天文学者たちがなぜその説明に手こずっているのかを見ていこう。

Cowはどこにある? なぜ「カウ(牛)」の名に?

 CowはCGCG 137-068という銀河の外縁部で爆発した。CGCG 137-068は、地球から約2億光年の彼方にある小型の渦巻銀河だ。Cowというニックネームは、自動的に命名された正式名称「AT2018cow」に由来する。2018年6月16日に、ハワイのATLAS望遠鏡で観測を行っていた天文学者チームがこれを発見し、17日にほかの天文学者たちに注意を促して、多くの望遠鏡が一斉にこの爆発に向けられることになった。

Cowのどこがそんなに珍しいの?

 Cowは初めて観測された超新星ではないが、これまでに検出されたものの中では最も地球から近いため、詳細に観測できた点で先例のないものだった。短時間で非常に明るくなった点でも珍しかった。X線で観測すると、ピーク時のCowは通常の超新星の数十倍も明るかった。一般的な超新星が数週間かかってピークの明るさになるのに対し、Cowはわずか数日でピークの明るさに達した。

 Cowのエネルギー源もよくわからなかった。通常、超新星は内部にあるニッケル56という放射性同位元素を爆発の燃料にしている。Cowが放出した物質の量を天文学者が計算したところ、その量は驚くほど少なく、おそらく太陽の質量の10分の1程度という結果になった。普通、超新星は太陽の数十倍の物質を放出するので、この結果は非常に不思議だ。

 その上、放出された物質の中には水素とヘリウムという予想外の物質も含まれていた。超新星爆発を起こす星は、とっくの昔に核燃料となる水素とヘリウムを使い果たしているはずなのに。

 放射の出かたも変わっていた。マルグッティ氏のチームはNASAのNuSTARエックス線望遠鏡でCowを観測したが、得られたデータは、Cowの出現から1週間強で非常に明るい高エネルギーX線が出ていることを示していた。「データを手にしたときに最初に思ったのは、なにか間違えたかしらということでした」とマルグッティ氏。

次ページ:Cowの超新星爆発はどのようにして起きたのか?

Cowの超新星爆発はどのようにして起きたのか?

 現時点では、Cowの中心に小さくて高密度の「セントラル・エンジン」があり、高エネルギーX線を放出しているということで研究者の意見は一致している。正体がなんであれ、この天体は、ある種の爆発によって非対称に飛び散った物質の雲に包まれている。

 論文共著者の1人である米コロンビア大学の物理学者ブライアン・メッツガー氏は、「私たち物理学者は常々、物事を単純化しがちと揶揄されますが、今回のCowは明らかに球形ではありません」と言う。「Cowを球形として説明するのは困難です。X線が私たちのもとに届くしくみを説明できなくなってしまうからです」

Cowの「セントラル・エンジン」の正体は何か?

 マルグッティ氏のチームは、主に2つの可能性があると考えている。1つは、Cowが高度に磁化された、1秒あたり約1000回という猛スピードで自転している中性子星である可能性だ。もう1つは、青色超巨星と呼ばれる高温の巨星が爆発しそこなってブラックホールになった可能性だ。

 後者のシナリオでは、星の内部の物質のほとんどがつぶれてブラックホールを形成する。内側のブラックホールの活動がさかんになってくると、その質量の一部がニュートリノと呼ばれる幽霊のような粒子となって星の中心部から逃げ出す。それにともない、外層の物質の一部がはじき出されるが、ブラックホールはそれをのみ込み、残りの物質は生まれたばかりのブラックホールのまわりの円盤に降着する。

Cowの正体につき、ほかの仮説はあるの?

 Cowがセントラル・エンジンを持っていると主張するのはマルグッティ氏らだけではない。『Astrophysical Journal』に受理された別の論文では、米カリフォルニア工科大学の天文学者アナ・Y・Q・ホー氏が率いる独立のチームが同様の結論に達している。

 しかし、英リバプール・ジョン・ムアーズ大学の天体物理学者ダニエル・パーレイ氏は、独自の研究で、Cowは既存の比較的質量の大きいブラックホールが太陽程度の質量の星を飲み込んだときの潮汐破壊によって生じたのではないかと提案している。ブラックホールの巨大な重力が星を引き裂くときに、そのガスがブラックホールのまわりに円盤状に降着し、Cowの異常な輝きを引き起こしたのではないかというわけだ。

 問題は、銀河の外縁部に、そのサイズのブラックホールが存在しうるかということだ。Cowの電波シグナルから考えれば、周囲には濃いガスが立ち込めているはずだ。しかし現在のブラックホール理論によれば、パーレイ氏が言うような大きさのブラックホールは、ガスがあまり残っていない星団の中で形成されると考えられている。

 マルグッティ氏は、Cowを取り巻く雲は巨大な星から飛び散った物質であり、やがて中性子星やブラックホールの中に落ち込んでゆくと考えた方が理にかなっていると主張する。これに対しパーレイ氏は、「マルグッティ氏の研究チームは一流の超新星研究者の集まりです。けれども私は、潮汐破壊の専門家にも論争に参加してもらい、どのように説明してくれるか見てみたいのです」と語る。

これからどうなる?

 Cowの長期的な観測から、セントラル・エンジンの正体のヒントが得られるかもしれない。Cowの中心部に磁化された中性子星があるなら、今後何年もX線フレアを放出するはずだとメッツガー氏は言う。ブラックホールなら、そのような明滅は見られないだろう。

 しかし、Cowについてもっと知りたいなら、同様の天体をほかにも見つけるのがいちばんだ。最近の望遠鏡の進歩により、天文学者はそうした閃光を発見してリアルタイムで追跡できるようになっている。

「夜空の観測は映画の撮影に似ています……ワクワクするような時間です」とメッツガー氏は言う。「私たちは宇宙を静的なものとして見るだけでなく、数日のタイムスケールで変動する、動的なものとしても見ています」

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
(C) 2019 日経ナショナル ジオグラフィック社