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絶滅した動物をどうやってイラストに描くのか?

  • 2018年12月2日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 ティラノサウルスやトリケラトプスといった名前を聞いて、わたしたちがすぐにその姿を思い浮かべられるというのは、ちょっとした奇跡だ。何しろこうした恐竜たちが地上を歩いていたのは、6600万年以上も昔のことなのである。

 そんな奇跡を可能にしているのが、恐竜をはじめ太古の動物の姿をできる限り忠実に再現する、古生物アートあるいは古生物イラストレーションと呼ばれる分野だ。

「古生物アートは、強力かつ直接的に、太古の生命とわたしたち人間とのつながりを実感させてくれます」と、米ニューメキシコ州自然史科学博物館の研究員マット・セレスキー氏は語る。同氏は、同館で開催中の古生物アート展を担当している。

 古生物イラストレーターのブライアン・アング氏はこう語る。「難しく、チャレンジしがいのある芸術です。解剖学や生物学の知識が必要ですし、質感や周囲の環境を細かくリアルに表現する力や、動物の行動や生態系を信頼できるかたちで描写する能力が必要です」

 古生物アートはまた、科学者が自身の研究対象についてより深く考えるのにも役立つ。

 セレスキー氏は言う。「復元イラストには、化石記録に残っていないディテールを“肉付け”するために、どうしてもある程度の推測が入ります。そうした欠落を埋めていく過程で、画家と研究者が議論することが、手元にある証拠の解釈に役立つのです」

過去を復元する

 絶滅した動物の姿を復元するにあたり、イラストレーターはまず化石を精査する。化石の実物を手に取ることもあれば、学術論文を読み込む場合もある。アング氏は、化石を直接観察し、その生物の重要な特徴について専門家と話し合うというやり方を好んでいる。

「話し合う内容は、その生物がいつ、どこで暮らしていたか、食事、交尾相手、隠れ家をどうやって確保したのか、といったことです。この議論を元に、現代に生きている動物たちからヒントを得ながら、その生物に特有の姿や生態を描いていくのです」

次ページ:「『血に飢えたモンスター』として描かれることが多すぎます」

 博物館向けの展覧会を企画する米ミネソタ州の企業「ブルー・ライノ・スタジオ」に所属する画家、ベス・ザイケン氏の場合、まずは対象となる種に関する最新の論文に目を通し、地質学的な年代、気候、その種の生態学的地位についての考察を行うという。

「『形状は機能に従う』というのは美術に関する古い格言ですが、生物学においては、この言葉は非常に的を射ています。動物は、自分にとって必要なことをするためにデザインされているのです」

 しかし化石というものは、骨格全体が見つかることはほとんどない。種によっては、ほんの小さな欠片しか見つかっていないものもあるほどだ。「どこかが欠落していたり、歪んでいたりすることがほとんどです。ほぼ何もわかっていない状態であっても、画家はどのようにその欠落を埋め、体のプロポーションを修正するかを決めなければなりません」と、セレスキー氏は言う。

 体全体のプロポーションと重要な特徴が把握できたところで、次は骨格の周りに付く筋肉や軟組織を具体的に決めていく。徐々にその生物の形が見えてきたら、今度は外観に関する情報について考察する。例えば、化石には軟組織が残っているか、体の色はどうなっていたのか、角やとさかといった特徴的な構造物はあったかといったことだ。

古生物イラストレーションにかける情熱

 続いて、古生物を描き込む風景を決めていく。ザイケン氏は、「見る人を、生物と一緒にその世界にいる瞬間に引き込むような」環境を描くことを目指しているという。「激しい動きのある、ハリウッド映画でよく見るような過剰にドラマチックな絵ばかり描くわけではありません」

 ザイケン氏は、研究に基づいた現実的な場所を描くのを好んでいる。「いかにも“日常のひととき”といった瞬間をとらえたいのです。動物たちがその生活の大半を費やしている瞬間です」。それは例えば、草を食んだり、狩りをしたり、身を隠したり、交尾をしたり、移動をしたり、子育てをしたりといった場面だと彼女は言う。

 米フロリダ州のフリーランス・イラストレーター、ガブリエル・ウゲット氏もまた、絶滅した動物たちが日常的な行動をしている姿を描くのが好きだという。恐竜たちは「口を大きく開け、凶暴な目をした『血に飢えたモンスター』として描かれることが多すぎます」とウゲット氏は言う。「確かに血みどろになる瞬間もあるでしょうが、そうした場面は、ほかの行動ほど頻繁に見られるわけではありません」

 化石は現在も続々と発見されており、過去数十年間で古生物アート作品も爆発的に増加している。常に新しい題材には事欠かず、古生物学者の中にも、魅力的な絵は自分たちの研究を幅広く知ってもらうのに役立つことを理解している人が増えたと、セレスキー氏は言う。

 質の高い古生物アートの魅力はしかし、情報の豊かさや技術だけではなく、それを支える情熱にもあるのだろう。

「わたしの中身は、相当はオタクなんです。まだほんの小さな頃から、ベッドの下にしまった靴箱の中で、自分だけの昆虫コレクションを作っていました」とザイケン氏は言う。「過去10年間、博物館専属のアーティストとしてこなしてきた仕事のおかげで、かつてわたしが想像もしなかったほど魅力的な題材に取り組み、多くを学ぶ機会に恵まれました」

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