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ついに月の資源争奪戦が始まった、日本の動きは?

  • 2018年11月9日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 国際宇宙会議(IAC)は、第二次世界大戦直後に発足した「世界最大の宇宙会議」だ。第69回目となる今年(2018年)は、ドイツ・ブレーメンで10月1日から5日まで開催され、80カ国以上から6500人が参加した。その中で、中心的な話題となったのは「月資源探査」と「月開発」だった。

 刻一刻と変化する宇宙シーンにおいて「年に一度」のイベントを定点観測すると、思いの外大きな変化が見て取れる。前回のアデレード大会においては、「小型人工衛星」によるビジネスと「火星探査」が非常に大きく取り扱われていたのだが、今回は「小型人工衛星」の話題が減って、「火星探査」よりも「月」が注目された。

月の周回軌道に宇宙ステーションを建設

 地球を周回する低軌道に小型衛星を大量に打ち上げ、通信、リモートセンシングなどのサービスに活用するのは、もう将来計画ではなくすでにリアルなビジネスだ。それゆえ、宇宙利用や宇宙探査の将来を占う国際会議への出展も一段落した感がある。それが今回、話題が減った理由だろう。

 一方で、火星から月へのシフトには、別の理由がある。国際宇宙ステーション(ISS)の後継として新たな宇宙ステーション「深宇宙ゲートウェイ」を月周回軌道に建設する計画が現実味を帯びてきたことだ。これは、2017年のアデレード会議の会期中にアメリカのNASAとロシアの宇宙機関ロスコスモスとの合意として発表された後、2019年度から米議会が予算化することになり、2022年には最初のユニットを打ち上げるというハイスピードで計画が展開されている。

 ISSと同様、大規模な国際協力の場になることは間違いないが、それに加えて民間の参加も促す方針だということで、産業界が鋭い反応を見せている。

 アデレードでは、ボーイング、エアバス、ロッキードマーティンといった大手企業は火星探査や、火星有人飛行にかかわる提案を前に押し出していた。それが深宇宙ゲートウェイ計画を受けて、一斉に月シフトを果たしたというわけだ。もちろん「火星」を目標から外したわけではないが、それよりも近くにある現実的な目標として「月」を見直した格好だ。

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月探査はすでに資源探査の段階に

 そこで、各国宇宙機関レベルでの月の探査も注目される。

 日本の月探査は、「はやぶさ」「はやぶさ2」などによる小天体探査と同様、21世紀になってからの評価が高い。アポロ以来久々の大型月探査として、月面の詳細な地図を作った「かぐや」は、21世紀の月探査の幕開けを飾るものとして評価されている。今回のIACでは、連日行われた月関連セッションの第一回目でJAXAの星野健主幹研究開発員が「日本による月の極域探査」の進捗について報告した。この計画は、各国が今、次々と計画を進めている月の極域の水探査のうちの一つに位置づけられている。

 月をめぐって過熱する現況について解説をしてもらった。

「今の状況は、日本の月探査機『かぐや』の成果が関わっているともいえるんです。『かぐや』を皮切りに、中国、インド、アメリカの探査が続きました。中国は月に探査車(ローバー)をおろして走らせるのにも成功しました。現在、各国が月の極域を目指しているのは、多くの探査機の観測データから月の極域に水の存在を示唆するデータが得られていることが大きいです。つまり資源がある可能性があるのです。水があれば水素をつくることができて、燃料を生成することができますので、月に基地を作るメリットが生まれます」

「水」と聞くと、多くの人は、まず飲水になるのではないかと考える。もちろんそれは間違いないのだが、現在の有人飛行では水はリサイクルして使うため、一度、宇宙に持っていったものをかなりの期間利用できる。一方、燃料は燃やせばおしまいなので、特に往路はただの荷物になる「帰路の燃料」を現地調達できる意義は大きい。

 いずれにしても各国が計画している月探査は、純然たるサイエンスをはるかに超えて、すでに資源探査の段階に入っている。

「日本の月極域探査は、今は概念検討の段階で、インドと協力して行うことを検討しています。最大の目的は、将来の宇宙探査のために、月にどれだけ水があるかを調べることで、そのために月の極域に着陸して、月面ローバーで移動しながら調べるわけです。日本がロケットと月面ローバーを作って、インドが着陸船を作る想定で、今は概念検討の取りまとめの段階ですね」

 協力相手のインドは、すでに探査機を月の周回軌道にも火星の周回軌道にも、それぞれ投入することに成功しており、将来計画として有人飛行もアナウンスしている新しいプレイヤーだ。

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月面基地ができる日は近い?

 今後、アメリカ、ロシア、中国も含め「資源探査」の側面を持った探査計画が目白押しであり、さらに韓国も計画が後ろ倒しになりつつも月計画を堅持している。これらの結果によっては、ここから先、資源探査の段階すら超えて、一気に月面開発へとつながっていくかもしれない。

「月面で水がたくさんある場所が見つかったとして、よい場所の順に各国から取られていって……というような競争になることも考えられます。そして、企業も進出していくでしょう。月の表面で使う技術は、地球の技術と親和性が高いんですよ。自動車であったり、土木、建築の技術も月で活用できるわけです。ですので月に十分な資源があるとわかれば、そこに企業が参集していくことになるかもしれません。日本では『深宇宙ゲートウェイができて、みんなまた月に行くんだよ』というのもあまり一般には伝わっておらず、ぴんと来ていないと思いますね」

 ここまで来ると月の開発をめぐる国際的な合意が必要になってくる。「南極条約」に相当する「月協定」はすでにあるものの、宇宙開発の主要国は批准しておらず実効を持たない。IAC2018では、宇宙法の分野でも多くの分科会が開催され、来るべき未来への国際法整備が話し合われた。日本でも宇宙関係者の間での議論は始まっているものの、一般の認識がまだ追いついていないというのが現状ではないだろか。 世界最大の宇宙会議の現場であきらかな「月シフト」を実感したがゆえ、日本の読者に注意喚起しておきたい。

「はやぶさ2」フィーバー

 余談ではあるが、月フィーバーの背後でしきりと取りざたされたもうひとつの話題は、実は「はやぶさ2」だった。展示場の入り口の一等地に「はやぶさ2」の等倍モデルが置かれているだけでなく、連日、ドイツ航空宇宙センターDLRや欧州宇宙機関ESAなどが記者会見を行い、日本のJAXAとの協同計画の面を強調していた。また研究発表のレベルでも、ちょうど会期中に「はやぶさ2」から分離、小惑星RYUGUに着陸して17時間にわたる観測を無事に終えたMASCOT探査機(ドイツとフランスの担当)の運用チームから誇らしげな報告があるなど、JAXAと「はやぶさ2」が大きくフィーチャーされていた。

次ページ:“火星の月”探査計画も

 日本の宇宙探査がひとつのブランドとして認知され、探査のパートナーとしても信頼を勝ち得ているのは間違いなく、次期の日欧協力として“火星の月”探査MMX(Martian Moons eXploration)についても繰り返し言及されていた。これについては、技術者会合で進捗を発表したJAXAの川勝康弘教授から解説してもらえた。

「現在はフェーズA、全体計画の策定の段階です。火星にはフォボスとダイモスという月がありますが、そのうちの一つに着陸した上で、試料を持って帰るサンプルリターンを目指しています。中心的なサイエンスのテーマとしては太陽系内の水の輸送の解明です。生命をはぐくむ惑星ができるために必要な水が、いったいどこから来たのか。火星よりも少し外側の軌道の小惑星からだったのではないかという説が有力です。火星の月はまさにその謎の鍵を握っています。というのも、火星の月は、まさに水を運んできた小惑星を捕獲したものかもしれませんし、あるいは大きな小惑星が火星とぶつかった際の破片が集まってできたものかもしれませんので」

 MMXの目標は、太陽系の水輸送、生命をはぐくむ惑星が生まれた謎に迫るものだ。

 ここでも「水」がテーマになっていることは興味深い。

 火星探査については、次々と周回機や着陸機、さらにはローバーを送り込んできたアメリカに加え、欧州、インドも周回軌道での観測を成功させ、UAEも2020年の打ち上げで火星周回軌道への探査機投入を目指している。まだ火星周回軌道での探査実績がない日本は、「火星の月」に焦点を定めた計画をドイツ、フランスと協力して実現しようとしている段階である。「はやぶさ」以来の伝統であるサンプルリターンを実現させ、火星に水がもたらされたルート(ひいては地球に水がもたらされたルート)が解明されたら、ある種の小惑星が資源探査、資源開発の対象としてより強く認識されていく可能性もある。

 火星、月、小惑星など、地球の周回軌道を離れた、いわゆる「深宇宙」の天体が、にわかに「開発」の対象としても見えてきつつあること、そして、日本の「探査」も大きな変化の一翼を担っていることを、我々は理解しておいたほうがよい。

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