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下半身まひ患者が歩行可能に、脊髄に電気刺激で

  • 2018年11月6日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 電気刺激を用いる新しい手法によって、下半身まひの患者3人が再び歩けるようになったことが、科学誌『ネイチャー』11月1日号に発表された。3人は4年以上前に重い脊髄損傷を負い、脚がほとんど動かなくなっていた。

 研究者たちは、3人の体内に電気パルスを発生する無線装置を埋め込み、脊髄を刺激した。それから1週間もしないうちに、彼らは立ち上がり、支えを使った歩行にも成功した。5カ月間の理学療法と訓練の後、3人は自分の意思で脚の筋肉をコントロールし、1時間も歩けるようになった。

 同様の治療法による成果は、9月にも報告があったばかりだ。1つは米ルイビル大学の研究チームの報告で、脊髄を刺激する方法で、2人の患者が支えなしで立てるようになり、歩行器を使って歩けるようになったという。同じ日に発表された別の研究では、米メイヨー・クリニックの研究者が別の患者で同様の成果を出している。

 9月の2件の報告では、埋め込まれた装置には一定の刺激パターンがプリセットされていたが、今回の新たな研究では、タブレットを使ってリアルタイムに刺激をコントロールできるようなモバイルアプリを、論文の著者であるスイス連邦工科大学の神経科医グレゴワール・クルティーヌ氏が開発した。この装置により、患者自身が研究に参加していないときにも自宅で治療をコントロールできる。

 最新の知見について『ネイチャー』に論説を寄せたリハビリテーション医学の専門家で、米ワシントン大学のチェット・モリッツ准教授は、こうした数例の結果は「この治療法が現実的なものであり、完全にまひした人でも再び運動ができるようになるという確信を与えてくれるものです」と解説する。

接続を回復させる

 ほとんどの人は、どうやって歩くかをいちいち考えない。脳が脊髄を経由して脚の筋肉にメッセージを送ってくれるからだ。重い脊髄損傷を負った人では、この経路が途中で損傷されているため、脳からの通信がブロックされている。

 科学者たちは以前から、機能として使われていないある神経経路を利用して脊髄のシグナルを伝達する経路を修復できるのではないかと考えていた。この神経経路は筋肉にもつながっており、そのシグナルは損傷によりブロックされないため、損傷部位より下の神経を刺激する治療法が模索されている。

 米ファインスタイン医学研究所生体電子工学医療センターのチャド・ブートン所長は、「これらの神経経路は基本的に無傷で生きています」と説明する。「これを刺激することができれば、筋肉を動かすことができると考えられます」。なお、ブートン氏は今回の研究には参加していない。

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 クルティーヌ氏の研究に参加した3人は、脊髄の下の方に16個の小さな電極を埋め込まれた。個々の電極は、脚の特定の筋肉群を動かせるよう正確に配置された。電極は腹部に外科的に埋め込まれた小型の電気パルス発生装置と接続された。メドトロニック社が製造したこの装置は、パーキンソン病患者の脳刺激療法のために市販されているものだ。追加の刺激を送るため、参加者の両脚にはさらに1個ずつのセンサーが埋め込まれた。

 驚いたことに、刺激装置のスイッチを切ったときにも、3人の参加者のうち2人は脚の筋肉を自分でコントロールすることができた。これは、刺激により脳と脊髄の接続が書き換えられたことを示唆しているとモリッツ氏は言う。さらに接続が回復すれば、いつか、刺激を与える必要がなくなるかもしれない。

「刺激装置は、補聴器のように脊髄への信号を増幅しているのだと思います」とモリッツ氏は言う。「補聴器が音量を上げるように、刺激装置は損傷部位より下の脊髄回路の興奮性を高めているのです」

いちばん取り戻したい機能

 しかし、9月に発表された論文の1本の著者であるメイヨー・クリニックの研究者クリスティン・ジャオ氏は、まひ患者のための神経刺激はまだ初期段階にあり、科学者たちは、どのようなしくみで脚が動くようになったのかを厳密には理解していないと言う。

「何らかのしくみで脳から下肢に『動け』という命令が伝わっていて、何らかの方法で刺激がそれを可能にしているのです」と彼女は言う。研究者たちは現在、最善の結果を得るために、刺激のパターンや持続時間や強さを変えて実験を行っている。

 モリッツ氏は、今回の結果はすばらしいが、まひ患者が歩行以上に望んでいることがあることを忘れてはならないと言う。米ケース・ウエスタン・リザーブ大学のキム・アンダーソン氏が2004年に実施した調査の結果によると、重い脊髄損傷を負った人が最も重視しているのは歩行ではなかった。歩行は第4位で、性機能、排泄機能、姿勢制御機能の方が上位だった。

 幸い、新しいタイプの神経刺激装置は、そうした機能の回復にも役立つ兆候を見せている。けれども現時点では、刺激装置は研究に参加している一部の患者にしか使われていない。クルティーヌ氏は、将来的には、損傷後できるだけ早い時期に刺激装置を使用することで、筋肉の運動を効果的に回復させられるようになるかもしれないと考えている。

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