サイト内
ウェブ

土星の環から「雨」が降っていた、予想外の事実も

  • 2018年10月9日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 土星には雨が降っている。1秒間に重さ数千キロにもおよぶ氷や有機分子が、環から土星の大気中へと降り注いでいる。

 土星とその環の間で起こる驚きの相互作用。科学者らがついにそれらを目撃できたのは、NASAの土星探査機カッシーニのおかげだ。2017年末に土星に突入してミッションを終えたカッシーニは、最後の数週間に土星とその環の間を22回くぐり抜け、環から降ってくる雨を採集した。

 土星の環から降る雨の観測は、技術的な偉業というだけではない。雨の組成や降雨ペースを知ることは、土星の歴史を解き明かす上でも非常に重要だ。土星の環の起源や年代という古来の謎に、また一歩近づいたことも意味する。

「私たちはたまたま土星が壮大な環をもっている時期に居合わせたのではないしょうか?」と、米コロラド大学ボールダー校のショーン・スー氏は言う。「環が最近形成されたものだとしたら、非常に面白いことになります。ほかの氷の衛星とも関係してきます」

やまない雨

 土星の環から物質が降ってくること自体はまったく意外ではない。理論的にも観測上でも、数十年前からこのことを示唆していた。しかし、土星とその周囲をまわる星々(土星系)の中で物質がどのように移動するのか、そのうちのどれくらいの部分が土星に降り注ぐのかはわかっていなかった。

 2018年10月5日付けの学術誌「サイエンス」に土星の環から降る雨について3本の論文が掲載された。論文のもとになったデータはいずれも、カッシーニが最後の日々に行った「グランドフィナーレ」という観測プログラムから得られたものだ。

 カッシーニが土星と環の間を通り抜けるときの速度は時速約11万キロにもなった。これは、カッシーニに搭載された各種の観測機器が想定する速度をはるかに上回っていたため、データの解釈は困難をきわめた。

 NASAのジャック・コナニー氏は、「科学者たちは奮闘の末、非常に巧妙なやり方で、観測データが語っていることを解き明かしました」と言う。「観測装置の想定や科学者たちの経験の範囲をはるかに超えた作業でした」

 カッシーニは、土星と環の間をくぐり抜けて土星の重力や磁場、環の質量などを測定しながら、環から降ってくる数多くの破片を採集した。それぞれ異なる成分を調べられる3種類の観測機器が、速やかに粒子の分析に取りかかった。こうして得られた結果の中には、科学者たちの予想と異なるものもあった。

 まず、土星上空で、それまで知られていなかった粒子の層を見つけた。ナノサイズのふわふわした粒子は、土星の大気中の分子と衝突し、だんだん下に落ちてゆき、土星の赤道沿いに降り注ぐ。「これらの粒子はグランドフィナーレ以前にはまったく知られていませんでした」とスー氏は言う。

 環から降る雨からは、メタン、ブタン、プロパンなどの有機物や、ケイ酸塩を豊富に含む粒子も見つかった。大きな電荷を持つ粒子は、土星の磁力線に沿って、主に南半球に落下した。それ以外の粒子は赤道沿いに落下する傾向があった。

 土星の環の95〜99%は氷でできているが、環から降る雨には科学者たちが予想していたほど多くの氷は含まれていなかった。氷が少ないことについて、NASAのエイムズ研究センターのジェフ・カジー氏は、あるシナリオによって説明できると言う。土星の最も内側の環であるD環の内部に従来検出されていなかった放射帯があり、これが氷の塊から水を剥ぎ取っているとするシナリオだ。この仮説にしたがえば、土星本体の近くで検出される粒子は、ケイ酸塩や有機物など、放射に耐えて残った物質の塊ということになる。

次ページ:研究チームごとに異なる「雨の量」

研究チームごとに異なる「雨の量」

 さらにややこしいことに、論文を発表した3つの研究チームは、土星の大気中に落下する物質の量について、大きく異なる見積もりをしている。これは、各チームが土星のさまざまな場所で採集された異なる種類の物質を分析したせいかもしれない。

 あるチームは、D環から毎秒重さ5キロほどのナノ粒子が降り注いでくるとしている。別のチームは、氷、有機物、ケイ酸塩の粒子が毎秒45トンも降り注いでいるとしている。

 毎秒数十トンもの量については、最近の彗星の衝突により一時的に雨が増えたことで説明できるかもしれないと、科学者たちは考えている。しかし、ずっとこの量であるなら、つじつまが合わないとカジー氏は言う。土星の環には、これだけの量の雨を長期にわたって降らせるほどの質量はないからだ。

 さらにカジー氏は、土星の環から雨が降っているのは明らかだが、雨の量に関する数字から環の年齢について何かを見積もろうとするのは早すぎると指摘する。土星の環は、ほかの理由からかなり新しく、数億年前にできたと考えられているからだ。

「環から降ってくる物質の量を測定して環の年代を測定できるというアイデアは、基本的には悪くありません」とカジー氏。「けれども多くの名案がそうであるように、実際にやってみると、いろいろ複雑なところがあるのです」

砕け散った衛星

 カッシーニがもたらした新たなデータは、そもそも土星の環は何からできたのかという謎解きにも役立つ。これまでに得られたデータが示唆しているのは、砕け散った衛星または彗星から土星の環ができたという可能性だ。

 カジー氏によると、土星のC環にはケイ酸塩を豊富に含む物質が集まった奇妙な場所があるという。衛星が砕け散ると、まさにこのようなものができるはずだ。

 衛星は成長するにともなって、ケイ酸塩に富む岩石がコア中に沈み込み、凍った軽い物質がマントルを形成しただろう。この衛星を土星が引き裂いたとすれば、衛星のコアの破片からはC環ができ、マントルの氷からはひときわ明るいA環とB環ができたと考えられる。

 何十億年も安定していたと思われる土星系で、なぜ数億年前になって環が形成されたのかはまだわからない。土星と砕け散った衛星との相互作用の詳細についても不明である。

「土星の物語はまだ完結していません」とコナニー氏は言う。「ただ、多くの章のアウトラインはできています」

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
(C) 2018 日経ナショナル ジオグラフィック社