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偽フェロモンに集団演技 ツチハンミョウの寄生技

  • 2018年9月19日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 セクシーな香りを漂わせている相手と初デートに行くとしよう。だが、最初のキスを交わそうと顔を近づけたときに気が付く。恋の相手は、実は寄生虫ツチハンミョウの幼虫で、それが身をよじりながら集団で塊になっているだけだった。

 この作戦に引っかかるのが、土に巣をつくることから北米で「ディガービー」と呼ばれる、ハナバチの仲間だ。砂丘に暮らすこれらのハチの雄がブンブン飛んでいたら、そのハチは雌のフェロモンを嗅ぎつけている。

巧みな寄生技

 雄には気の毒だが、ツチハンミョウの幼虫は、雌のディガービーの匂いにそっくりの化学物質を作り出せる。さらに、幼虫たちは集まって草によじ登り、ハチと同じくらいの大きさの塊を作って、見た目までハチに似せる。

 雄のハチが、交尾しようと雌になりすました幼虫集団に近づくと、幼虫たちはカギ状の爪で雄にしがみつき、下の砂地に押しつける。雄が本物の雌を求めてようやく飛び立つころには、細かな毛の生えた体にたくさんの「ヒッチハイカー」がくっついている。そして本物の雌と雄が交尾すると、幼虫は今度は雌に移動して、巣穴まで連れて行かせるのである。

 巣穴で雌は卵を1つ産み、花粉と花蜜を山ほど置いておく。だが、こうした栄養分はハチの幼虫の口には入らず、ツチハンミョウの幼虫たちが平らげて成虫になる。

 変わった寄生の方法でこれだけでも面白いが、もっと興味深い事実がわかってきている。

 このほど、ツチハンミョウに関する研究が学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。それによると、同種のツチハンミョウでも生息している場所によって、偽フェロモン=化学物質の配合を調整しているというのだ。こうすることで、環境ごとに異なるハチを寄生のターゲットにするのだという。

 つまり、カリフォルニア州とオレゴン州では、同じツチハンミョウでも発する匂いが異なるということだ。このことから研究者は、これらのツチハンミョウが別の種に分かれる途上にあるのではと考えている。米カリフォルニア大学デービス校の化学生態学者で、今回の論文の筆頭著者であるレスリー・ソール・ガーシェンツ氏は、おそらく種分化が起こりつつあるとしつつも「分化には、長い時間がかかります」と慎重に話す。

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雄を誘う「高さ」も違っていた

 ツチハンミョウのフェロモンもハチのフェロモンも、人間の鼻は感知できない。しかし、今回の研究成果では、目に見える行動にも違いがあることがわかった。

 ツチハンミョウの幼虫が集まってハチの成虫になりすますとき、カリフォルニア州モハベ砂漠の砂の上では、幼虫たちは最低でも草の茎を30センチはよじ登る。しかしオレゴン州の海沿いの砂丘では、まったく同じ種の幼虫が茎の約10センチも登らない。

 これには2つの理由が考えられる。「モハベでは、砂が非常に熱くなっています」と、ソール・ガーシェンツ氏は言い、摂氏50度を超えることもあると指摘する。

 だが、単にツチハンミョウが熱い砂を嫌うということではない。むしろ、幼虫がおとりを作る高さは、寄生の対象であるディガービーが巡回のときによく飛ぶ高さに合わせた結果でもあるのだ。

 しかも、ソール・ガーシェンツ氏ら研究者がオレゴン州で採集したツチハンミョウの卵をモハベ砂漠でふ化させたところ、幼虫たちは草の低い位置にとどまった。同様に、モハベのツチハンミョウの幼虫をオレゴンに連れて行くと、高くまで草を登った。

 つまり、ツチハンミョウの2つの集団は違う偽フェロモンを出すだけでなく、行動の面でも違いがあったことになる。

 現在、ソール・ガーシェンツ氏は、次はツチハンミョウ同士が互いの気を引くために出す「本物」フェロモンが、オレゴンとモハベで違っているかを調べたら面白いかもしれないと話している。もしオレゴンの雌がモハベの雄と交尾しようとせず、逆も然りであれば、やはり、種が分化しつつあることの証拠の一つとなるだろう。

 米パデュー大学の昆虫学者で、今回の研究には関わっていないグウェン・ピアソン氏は、「ツチハンミョウの自然選択と適応の歴史は、彼らの化学物質に刻まれています」と話す。

媚薬にもなる?

 この研究は、「昆虫がまさに小さな化学工場である」ことを示す一層の証拠だとピアソン氏は言う。

 ツチハンミョウの化学物質についてネットニュースで話題になることもある。といっても多くは媚薬の話題だ。

 ツチハンミョウ科の昆虫は、身を守るためにカンタリジンという分泌物を出す。これがかつて媚薬として使われていたという。カンタリジンは毒物に近く、人が摂取すると嘔吐や下痢を起こし、皮膚に少し塗っただけでも水ぶくれ(ブリスター)ができる。ツチハンミョウが英語で「ブリスタービートル」と呼ばれるのはこのためだ。

「この虫をなめたり、こすったりしてはいけませんよ」とピアソン氏。「本当に後悔しますから」と釘を刺した。

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