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世界最古の絵画? 7万3000年前の石に描かれた模様

  • 2018年9月15日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 7万3000年前、今日の南アフリカにあたる地域に住んでいた初期人類が、石の表面にハッシュタグ(#)のような印を描いた――模様が描かれた石を発見した国際考古学チームは、石に描かれた赤い模様は最古の絵画だと主張する。

 科学誌「ネイチャー」に発表された論文によると、今回の石の絵画は、これまで最古の洞窟アートとされてきたインドネシアやスペインの洞窟の絵画より3万年も古いという。本当なら、古代のヒトが「現代的な行動」をした時期は、もっと古い時代まで遡ることになる。

 今回の発見はどのくらい確かなものなのだろうか? アートと呼んでよいのか? このニュースを理解するポイントを整理しながら答えていこう。

科学者たちは何を発見したのか?

 考古学者が発見したのは、砂や砂利が固まってできた鉱物シルクリートの薄片だ。幅約4センチの薄片の表面は、オーカー(鉄分を豊富に含む硬い物質で、強くこすり付けると赤い顔料が残る)で描いた引っ掻き傷のような印で埋め尽くされていた。

石はどこで発見されたのか?

 石は、南アフリカのケープタウンから約300キロ東に位置するブロンボス洞窟で見つかった。この洞窟には、初期のホモ・サピエンスの遺物がたくさん見つかっている。洞窟はインド洋を見渡す断崖に隠れるようにある。数人が休息をとり、狩猟・採集に出かけて行くような場所だったのだろう。

 この洞窟は約7万年前に一度ふさがると、手付かずのまま良好に保存されていた。その後の海水面と砂丘の上昇と下降で、洞窟は顔を出したりふさがったりしていたが、洞窟の内容物は海に流出することなく洞窟内に封印されていたのだ。

 ノルウェー、ベルゲン大学の初期サピエンス行動センターを率いる考古学者のクリストファー・ヘンシルウッド氏は、「保存状態は完璧」と話す。過去にナショナル ジオグラフィック協会の支援を受けたこともある同氏は、1990年代からこの遺跡の発掘調査を続けている。

 洞窟の中からは、穴をあけられた貝殻(ビーズとして使われたと考えられている)、道具や槍の穂先、表面に引っ掻き傷のある骨やオーカーの破片、液状のオーカー顔料を作っていたことを示す人工物などが見つかっている。いずれも、ホモ・サピエンスが10万年前も器用だったことを示す証拠だ。

なぜこの石が重要なのか?

 研究者たちは論文で、この発見は、「絵を描くという行動が、初期人類にあった」ことを示すものだと主張する。洞窟に住んでいた人々が絵の具を作り、ビーズをつなぎ、骨に模様を刻み、絵を描いていたなら、人類は7万年前から(もしかするともっと前から)現代と同じような行動をしていたことになる、とヘンシルウッド氏は言う。

「この発見は、テーブルの4本目の足にあたるものです」と彼は言い、同様の証拠は、ヨーロッパの初期の現生人類の発達を示すのに使われていると指摘する。

次ページ:アートだと誘導しているように思える

専門家に異論はないのか?

 米カリフォルニア大学バークレー校の名誉教授で、洞窟画や岩絵を広く研究してきた考古学者のマーガレット・コンキー氏は、「年代は正確に特定されています」と言う。「彼らは長年、この洞窟の調査に取り組んでいます。綿密な研究です」

 しかし、コンキー氏は、現代的な行動が南アフリカで始まったという解釈には反対している。「彼らの考え方はアフリカ中心主義です」と彼女は言う。「アフリカ中心主義」とは、現代的な行動の起源はヨーロッパにあるとする考え方と対立する考え方だ。

「どちらか一方を中心とするのも良くないことです。人類の進化も行動も複雑であるからです」と彼女は言う。「起源は1つとは限りません」

模様は「絵画」と呼べる?

「模様がアートなのかどうかもわかりません」とヘンシルウッド氏は言う。「シンボルであることは明らかです」。石の薄片に描かれた直線が交差する「#」のような模様は、ブロンボス洞窟で出土した骨やオーカーの破片にも見られるため、このデザインは意図的に描かれたものと考えている。「アートの定義は難しいですよね。人によっては、ピカソの抽象画でさえ、アートと見ない人もいます。アートかどうかは、誰が決めるのでしょう?」

 コンキー氏は、ヘンシルウッド氏のチームは人々に特定の解釈を誘導するような言葉を選んで使っていると指摘する。例えば、模様を描くのに用いられたオーカーの説明だ。「彼らはオーカーをわざわざクレヨンと呼んでいます」とコンキー氏。「そう説明されたら、古代人たちは絵を描いていたと思ってしまいますよね。中立的に、オーカーの破片と呼ぶべきです」

 つまりコンキー氏は、ヘンシルウッド氏のチームは、「絵画」と「クレヨン」という言葉を修辞的に使い、初期の人類が現代的な行動をしていたと人々に思わせようとしているというのだ。彼女はハッシュマーク(#)も単なる落書きで、初期の人類は、そんなふうにして周囲の世界と触れ合っていたのだろうと見ている。

 ブロンボス洞窟の人類は、意図的にオーカーを拾い上げたのだろうか? ものや抽象的な概念を描こうとしたのだろうか? タイムマシンでもない限り正解はわからない。コンキー氏は「今回の発見は非常に興味深いものです。南アフリカの初期のホモ・サピエンスは、複雑なものを残していることがまた1つはっきりしました」と話す。

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