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クズリの貴重な食事風景、衝撃の謎行動も

  • 2018年7月31日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 身を切るように寒い朝、硬く締まった雪の上を毛深いクズリ(Gulo gulo)が跳ねるように走ってくる。においを頼りに、1本の木にたどり着いた。米国ワイオミング州、ウインドリバーインディアン居留地の、風が吹き付ける高い尾根でのことだ。

 この肉食動物は人目につきにくく、普通は近くにいても気付かない。しかし2017年春、アブサロカ山脈とアウルクリーク山脈が出合う、ロッキー山脈北部の自然豊かな場所で、1頭が食事をする様子をカメラがとらえた。

 広大なこの居留地には、ビッグホーン、アメリカヘラジカ、冬を越すエルクのほか、大小さまざまな多くの生き物が生息している。その中にクズリもいるのか確かめようと、米国魚類野生生物局の生物学者たちがシカの死骸を木に吊るしてみたところ、驚きの成果があった。

 クズリはこのような死骸をよくあさるほか、植物やベリー類も食べ、ウサギやげっ歯類のような小型の獲物から、カリブーのような大型の動物を襲うことでも知られる。特に弱い個体や、けがをした個体は狙われやすい。

 木に吊るされたシカに飛びついたあと、クズリは木から降り、鼻をくんくん言わせながらカメラを調べ始めた。そして自信ありげな様子で、カメラをほんの少しだけ右に向けた。

「擬人化せずにはいられません」

「擬人化せずにはいられません」と話すのは、同局の生物学者でプロジェクトの臨時リーダーを務めるパット・ヒニリカ氏だ。このクズリはおとなのオスだと見る。「生物学者としては、そうしないよう気を付けるものです。でも、クズリがカメラを調節する映像を見ると、『ええっ、こいつは一体何をしてるんだ?』と言いたくなります。衝撃を受けました」

 カメラがとらえた瞬間は「他に例がなく珍しい」とヒニリカ氏は言う。この居留地でクズリが撮影されたのは初めてであり、米国本土のどこであれ、このような瞬間は簡単に見られるわけではない。最新の推定によれば、米国本土のクズリは300匹ほどしか残っていないからだ(ただ、この推定には幅があり、生息数は249〜626匹の間とされている)。

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 北半球の比較的寒い地域に広く生息するクズリは絶滅危惧種ではないが、人里離れた、荒涼とした地域にすみ、生息密度は非常に低い。

「クズリはこの辺りの幽霊のようなものです」とヒニリカ氏。「1匹でも撮影できたら、たとえ静止画像1枚でも本当にすごいことです。行動を映像に収められたことは大変注目に値します」

 今回クズリを撮影できたおかげで、カメラが増やされることになった。この調査は、北アラパホ族と東ショショーニ族が地域の魚と野生動物を管理するのをサポートするための大きな共同事業の一環だ。

 カメラをつつき回したクズリの好奇心と意欲は、厳しい環境を生き延びるのにも役立っているのだろうと話すのは自然保護団体「アドベンチャー・サイエンティスツ」の創設者で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでもあるグレッグ・トレイニッシュ氏だ。氏は、フィールド生物学者として研究に従事しながら、ロッキー山脈北部やモンゴルの各地でクズリを追跡したことがある。

ひと目を引く才能も

 クズリは別名を「スカンクベア」とも言い、イタチやアナグマが属するイタチ科の中で最も大きい。力の強さ、粘り強さ、乱暴さで知られ、厳しい環境にすみ、食物にたどり着くためには手段を選ばないとトレイニッシュ氏は話す。

「クズリは完璧な探検家です。食料を得るためなら、切り立った氷の壁を登り、嵐をついて山の頂を越え、どんなに荒れた険しい地形の場所も横断するのです」

 トレイニッシュ氏はこう続けた。「カメラを調べたのは、餌になる物がないか探していたのでしょう。好奇心という、進化で獲得した生来の特徴を使って」

 このクズリは、ひと目を引く才能にも恵まれていた。映像の最後に、もう1度食事をしようと戻ってくるのが映っていた。同じ日のしばらく後のことだ。

 クズリはシカの凍った皮を難なく裂き、地面に下りて食べ始める。半ば引っ込められる見事な爪を使って、木の上と地上を何度か行き来した。凍ったごちそうを最後に1度見上げると、雪玉のように転がり、画面の外に出て行った。

「ひょっとすると」とヒニリカ氏は話した。「腹いっぱい肉を食べて、上機嫌だったのかもしれません」

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