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より遅く危険になる台風、上陸後の速度は30%減

  • 2018年6月8日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 6月6日付けの学術誌「Nature」に発表された最新の研究によれば、ハリケーンや台風などの熱帯低気圧の移動速度が数十年前より遅くなっており、より長く、大きな被害につながっていることが明らかになった。

 また、学術誌「Journal of Climate」5月号に発表された別の研究でも、今後、温暖化によって熱帯低気圧の移動速度が遅くなることが示唆されている。

 熱帯低気圧の移動速度が遅くなるのはよいことだと思うかもしれないが、実際は逆だ。熱帯低気圧内の風速は変わらず、移動速度のみ遅くなれば、同じ場所に激しい雨が降り続けることになる。

 2つの研究を合わせると、気候変動はこれまでの予想をはるかに超えるレベルで、ハリケーンや台風の危険をすでに増幅させているようだ。さらに、今後も危険な気象現象は増え続け、特に、大洪水が起きる可能性が高まる。

「熱帯低気圧の速度が低下しても、何ひとつよいことはありません」と話すのは、「Nature」の論文の著者で、米ウィスコンシン州マディソンにある米海洋大気局(NOAA)気象気候センターのジェームズ・コーシン氏だ。「高潮がひどくなり、建造物が強風にさらされる時間が長引き、そして、降雨量が増えます」

被害は拡大する一方

 2017年8月、ハリケーン・ハービーによる集中豪雨で、米テキサス州ヒューストンの一部で数百ミリの降水量を記録した。のちに、豪雨となったのは、海水温と気温が上昇したことで、熱帯低気圧により多くの水蒸気が供給されたためという研究結果が報告された。気候変動が雨の強さと熱帯低気圧の発生率の両方を増加させたということだった。

 コーシン氏は今回の論文で、熱帯低気圧の被害が拡大している別の理由を突き止めた。論文によれば、熱帯低気圧は1949〜2016年に、全体の移動速度が平均で10%低下しているという。上陸後に速度がより低下する地域もあった。特に、太平洋北西部では上陸後の台風の速度が30%も低下していた。熱帯低気圧が抱える水蒸気の量が増え、同じ場所に雨を降らせる時間が長くなっていたということだ。

 インド洋のみ傾向が異なるものの、「ほかのすべての地域で遅くなっています」とコーシン氏は述べている。「しかも、この傾向はずっと続いています」

次ページ:未来予測モデルでも同じ傾向に

 コーシン氏の研究は、70年近くの間に発生した熱帯低気圧のデータに基づいている。速度低下の原因は論文で特定されていないが、コーシン氏を含む熱帯低気圧の専門家は、気候変動によるものと考えている。極地の方がほかの地域より温暖化が速く進んでいるせいで、気圧の勾配に変化が生じ、熱帯低気圧を移動させる風が弱まっている。

「熱帯低気圧は風に運ばれるため、つじつまが合います」とコーシン氏は述べている。「風が弱まれば、熱帯低気圧が1カ所にとどまる時間が長くなります」

 米カリフォルニア州にあるローレンス・バークレー国立研究所の気候生態系研究部門に所属するクリスティーナ・パトリコラ氏は、コーシン氏の研究について、「重要かつ新しい」研究であり、「かなり説得力があります」と評価している。

「熱帯低気圧が遅くなっていたという発見自体は驚くものではありませんでした。ですが、速度低下の規模には驚かされました」

 パトリコラ氏はコーシン氏の論文の査読者で、その過程でいくつかの新たな疑問が生じたと指摘している。例えば、異常に速度が遅い熱帯低気圧の発生率が近年増えているとしたら、ハリケーン・ハービーのように、何日も立ち往生するような「停滞型」の熱帯低気圧も増えているのだろうか?

 コーシン氏は、多くの科学者が気象モデルの作成に取り組み、最もリスクが高い地域を調べてくれるよう願っている。一部の地域で、熱帯低気圧がより高緯度まで移動し、すでに強さを増している事実を考えると、異常な豪雨を降らせる熱帯低気圧がこれまでの進路と異なる地域に被害をもたらす可能性もある。「これはまずい組み合わせです」とコーシン氏は述べている。

未来予測モデルでも同じ傾向に

「Journal of Climate」に発表されたもうひとつの論文は、米コロラド州ボルダーにある米大気研究センターのイーサン・ガットマン氏率いるチームによるものだ。こちらの研究では、過去13年間に発生した22のハリケーンを選び出し、温暖化が進んだ未来に同じハリケーンが起きたら、どのような違いが生じるかを予測した。

 ガットマン氏らは気温が最大5℃上昇した予測モデルを用意し、熱帯低気圧のデータを読み込ませた。すると、熱帯低気圧の移動速度は9%遅くなり、湿度はひどく上昇し、降水量が平均24%増加した。

「遅くなるだけでなく、強さも増すという結果が出ています」とガットマン氏は説明している。「内陸の洪水と都市インフラに深刻な影響を及ぼし得る結果です」

 コーシン氏とガットマン氏のアプローチはまったく異なる。前者は過去のデータを調べ、後者はコンピュターモデルで温暖化のシナリオをつくり、熱帯低気圧がどのように変化するかを確かめた。どちらのアプローチにも限界がある。同じ熱帯低気圧が繰り返されることはないためだ。

 コーシン氏もガットマン氏も、重要なのは大局的な視点を持つことだと述べている。確かに、全く異なる2つの研究が同様の傾向を示唆したという事実が警鐘を鳴らしていることは間違いない。

「私たちは2人とも、研究を前に進め、新たな証拠を提示しています」とガットマン氏は話す。「全く同じ傾向の証拠がどんどん示されれば、自分が出した答えにもっと自信を持つことができます」

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