サイト内
ウェブ

【動画】謎の奇病にあえぐ子ライオン、初の症例

  • 2018年4月17日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 2016年、南アフリカ、クルーガー国立公園に隣接するサビサンド私営動物保護区で、ライオンの子ども4頭が謎の病気にかかった。動きが鈍くなり、やせ細って衰弱し、まるで抜け殻のようだったと専門家は言う。後ろ脚が徐々に動かせなくなり、前脚だけで体を引きずるようにして歩かなければならなくなった。

 その後も病気の進行は速く、あっという間に尻から下が完全に麻痺し、地面に横たわり自分で動くこともできなくなった。

 獣医が診察したときには、すでに2頭が死んでいた。後でわかったことだが、ほぼ同時期におとなのメスライオン2頭も同様に、もうろうとして眠り続ける症状に陥っていた。同地域の他のライオンも病気にかかっていた可能性がある。

 ライオンに何が起こったのか、獣医にもわからなかった。遊びまわっていたライオンの子どもが、明らかな原因もなく、次の日には麻痺して動けなくなるなんてことがなぜ起こったのか?

 調査を進めると、白筋症という病気だったかもしれないことが明らかになった。この病気は通常、ヒツジ、ウシ、ヤギなどの家畜だけに見られる。筋肉を維持するミネラルの欠乏が原因で、麻痺や心不全を引き起こす。確かに、子ライオンの最終的な死因は心不全だった。

「病気になった過程がとても気になります」と、奇病にかかった子ライオンを検査した獣医ジョエル・アルベス氏は言う。「こんなことは私の国ではこれまで見たことがありませんでした」

 2年経った現在でも、疑問は依然として残っている。そもそも、子ライオンが本当に白筋症だったのかを突き止めることが難しい。ライオンでの最初の症例かもしれないからだ。白筋症は通常、家畜にのみ見られる病気なのにも関わらず、どうやってライオンがかかったのか? また、もし白筋症がサビサンドで再発した場合、どうやって治療するのか? そもそも治療法があるのか? こうした疑問に答えるのに、最近ナショナル ジオグラフィックが入手した映像や詳細な情報が役に立つかもしれない。

次ページ:スイギュウを食べてまもなく発症

スイギュウを食べてまもなく発症

 病気にかかった2頭の子ライオンが死んだ後、獣医ゾーイ・グリフィス氏は死体を解剖して組織サンプルを採取し、病理学の研究室に送った。研究室の専門家がサンプルを顕微鏡で調べたところ、白筋症にかかった証拠と思われるものを発見した。

 白筋症は、動物の筋肉に白い跡が残ることから名付けられた。これは、細胞の死や石灰化によるものだ。通常はエサの栄養が不十分で、ビタミンEやセレンが不足した家畜が発症する。これらの栄養分は、天然の抗酸化物質として細胞の死を防ぎ、それに伴う麻痺や心不全をも防ぐ働きがある。

 若い方が新陳代謝がよく酸化が速いので、子どもは親よりも白筋症にかかりやすい。放送局ワイルド・アースのサファリ・ガイド、ジェイミー・パターソン氏によると、病気になったライオンのうち、2頭のおとなのメスは生き延びたが、生き残った子ライオンは4頭中2頭だった。なお、4頭の子ライオンは同じ親から生まれたわけではないとパターソン氏は付け加えた。

 それにしても、獰猛な大型ネコ科動物のライオンが、これまで狩られる側の動物にのみ確認されていた病気にどうやってかかったのだろうか? ライオンはアフリカスイギュウの肉を食べてまもなく発症した、とアルベス氏は言う。

「ただし、そのスイギュウは長引く干ばつで衰弱していました」とワイルド・アースのもう1人のサファリ・ガイド、ジェームズ・ヘンドリー氏はナショナル ジオグラフィックへのメールに書いた。「論理的に考えれば、スイギュウが栄養のあるエサを十分に食べられず、ビタミンEとセレンが不足しており、そのスイギュウの肉を食べたライオンもビタミンEとセレンが不足したという結論になります」

 人口増加と記録的な干ばつにより、ケープタウンでは著しい水不足に陥っており、水道を止める「ゼロの日」が7月中旬までに訪れるだろうと当局は警告している。南アフリカの低地では、土壌の栄養がすでに乏しい。栄養が不足した植物しか育たず、動物のエサとしても十分な栄養を蓄えられない。したがって、スイギュウのような草食動物からライオンのような頂点に君臨する肉食動物にまで、その栄養不足が広がりやすい。

次ページ:不自然な「自然」

 今回のライオンの症状は、これまで観察されたことがなく、規模も小さいため、白筋症だけが原因なのかどうか獣医にもわからないという。しかし、その可能性はある。狂犬病、イヌジステンパー・ウイルス、細菌感染症は、検査で陰性だった。ウイルス感染の結果、動物がもうろうとして眠り続ける状態に陥る可能性はあるが、採取したての組織サンプルなしでは、この説を確かめることはできないとアルベス氏は言う。

「どんな可能性があって、どんな可能性がないのか、誰にも本当にわかりません。白筋症のプロセスは、ほとんど何もわかっていないのです」とアルベス氏は言う。「白筋症だと100%確定する診断法がありません」

 アルベス氏によると1つ確かなことは、「南アフリカでは干ばつが続くと、栄養が不足したライオンは、主にスイギュウを食べるようになる」ことだという。

 南アフリカで環境ストレスが続いた場合、この謎の病気が将来再び発生する可能性がある。

不自然な「自然」

 サビサンドのように、動物が区域内を自由に移動する保護区では、自然保護活動家や公園スタッフはできるだけ関わらず、自然のままにしようとする。だが、サビサンド私営動物保護区は外部との境界がフェンスで囲われている。

「自然だとはいうものの、そうかどうかはとてもあいまいになっています」とアルベス氏は言う。「一般的な共通認識は、人間が干渉していない状態ですが、難しい場合もあります」

 白筋症のようなものへの対処は難しい。同保護区の他のライオンが、スイギュウの肉を食べて白筋症になったとしたら、ビタミンEとセレンを投与して、さらなる症状を観察できる。だが、人工的な治療薬を注射することは、病気を治す自然な方法ではないため、自然に干渉することになるとアルベス氏は言う。しかし、もしフェンスが初めからなかったなら、おそらく白筋症はそもそも発生しなかっただろうと氏は付け加えた。

「スイギュウがもっと豊かな草原に移動しなかった、とは言えないでしょう」とアルベス氏。移動していれば、スイギュウは健康になっていたに違いない。

「フェンスに囲まれていると言う事実は、管理しなければならないということです」

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
(C) 2018 日経ナショナル ジオグラフィック社