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幻のジャングル犬の親子を撮影、おそらく初

  • 2017年4月18日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 暗い色の中型犬が、カメラに向かって真っすぐ歩いてくる姿が写っていた。ここ、ペルー南東部のジャングルに作られた小さな空き地で、私たちはカメラトラップ(自動撮影カメラ)がとらえた写真を次々と見ていた。

「コミミイヌだ!」。ダニエル・コウセイロ氏が興奮気味に言った。エコツーリズム会社「レインフォレスト・エクスペディションズ」に所属する生態学者のコウセイロ氏は、普通は人間の目に付くことのない動物たちの生活を解明する仕事に取り組んでいる。

 熱帯雨林で屈指の隠者たちの中でも、コミミイヌ(Atelocynus microtis)はよほど根気強い科学者でなければ出会えない。実際、アマゾンの小道を歩いていてコミミイヌを1匹でも見られる可能性は、ジャガーなど他のどんな動物よりも低い。

 コウセイロ氏のようにカメラトラップを使うのは、そういうわけなのだ。

 2016年の数週間、彼は密林を何キロにもわたってかき分け、タンボパタ川の両岸に100台以上のカメラを格子状に設置した。設置場所は小川沿い、ヤシが茂る濁った沼地、長く鋭くとがった竹のやぶ、日陰になった空き地などで、何かが動くいたり、温度が異なるものを検知したりすると、カメラのシャッターが切られるようになっていた。

「ビッグ・グリッド(大きな格子)」と呼ばれるコウセイロ氏のカメラトラップ網は、ほぼ手つかずのジャングルを77平方キロ以上監視する。うまく行けば、今後5年間運用を続ける予定だ。

 このシステムは2016年7月から稼働しており、すでに大量のデータを蓄積していた。そこでコウセイロ氏は同僚と共に、一般市民が科学研究に協力できるプラットフォーム「ズーニバース(Zooniverse)」に画像を投稿することにした。彼らのプロジェクト名は「アマゾンカム・タンボパタ(AmazonCam Tambopata)」だ。

 プロジェクトの最終的な目標は、ジャガー、ペッカリー、クモザルなどの重要な数種が、森のどこで、どのように暮らしているのか知り、保護の効果を上げることだ。カメラトラップ網は膨大な量の写真を撮影しているため、写った動物の特定について、研究チームはオンラインの市民科学者たちを頼りにしている。

「動物たちがどれほど健全に保たれているかを知るには、良質かつ正確な長期間のデータが必要です」とコウセイロ氏。「どこに住んでいようと、私たちはみんなアマゾンの熱帯雨林に依存しているのです」

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「ううううっわああ」と言うのがやっと

 2日間、私たちはカメラ網のうち1本のラインに沿って歩き、険しい道に悪態をつきつつ、カメラのメモリーカードと電池を交換していった。そして最後の1台が置かれた地点に近い日陰で休んでいた。このとき目にしたのが、冒頭のコミミイヌの写真だ。

 次の1枚を表示させると、イヌが森に消えていくところだった。残念しきり。だが次の写真ではイヌが戻り、カメラから遠ざかる方向に歩いていた。撮影時刻を見ると、一連の写真は1時間以内に撮られている。このイヌはなんのために戻ってきたのだろう?

 次の画像に、全ての答えがあった。

「これ、子イヌ?」 私は半信半疑で尋ねた。写真を拡大して目をこらすと、柔らかそうな毛が生えた子イヌをメスイヌがそっと口にくわえていたからだ。このとき、イヌが歩いていたのは私たちが座っている場所の方向だった。

「ううううっわああ」と言うのが、コウセイロ氏にはやっとだった。

 この日確認されたパラパラ漫画さながらの写真は、母イヌが行ったり来たりして、合計5匹いるらしい子イヌをある場所から別の場所へ慎重に運ぶ様子を収めていた。コウセイロ氏は首を振った。こんな画像はそれまで見たことがなかったのだ。

 いや、誰も見たことがないに違いない。ジャングルにいる野生のコミミイヌとその子どもたちの様子が記録されたのは、これが初めての可能性が極めて高い。

「本当に素晴らしい」。米デューク大学のレナータ・レイテ=ピットマン氏も目を見張った。同氏は近くにある現地調査拠点でコミミイヌを研究しているが、アマゾンカムには関わっていない。コミミイヌは目撃例が非常に少ないため、個体数も分かっていないにもかかわらず、生息地の縮小と獲物の減少により、国際自然保護連合(IUCN)は近危急種(near-threatened)に指定している。

 レイテ=ピットマン氏は、コウセイロ氏らのチームがこのイヌの巣穴を突き止め、カメラを設置することを期待している。子イヌが母イヌから離れ、自力でジャングルの中を生きていく前の様子を知るためだ。おそらく5月中には子イヌたちが自立するだろう。

「この種を研究できるまたとない機会です。母イヌが子イヌの世話をしたり、子イヌが拡散したりする様子を調べられる機会は他にありません」と、レイテ=ピットマン氏は言う。同氏はナショナル ジオグラフィック協会とウェイト財団から資金援助を受けている。

「生存の可能性はどのくらいか、子イヌのうち何匹が生き残るのか。コミミイヌに関しては、いずれも答えが出ていないのです」

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「この狭い範囲で、4頭もジャガーが見られるとは」

 アマゾンカムにはもう1つ大きな目標がある。一帯にいるジャガーの個体数を調べることだ。

 威厳があり、人目を巧みに避けるジャガーは、生態系と神話の両方に我が物顔で君臨している。だが、熱帯雨林をひっそりと歩き回っている頭数も、1頭当たりの縄張りの広さも分かっていない。

「ジャガーは研究が最も難しい動物の一つです。この地域の顔といえる種に数えられながら、研究が進んでいないのは残念です」と話すのは、マーク・ボウラー氏だ。米サンディエゴ動物園などを運営するサンディエゴ・ズー・グローバルの保全生物学者で、アマゾンカムを統括している。

「発信器付きの首輪を使ったペルーにおける調査からは」と彼は説明した。「これまでの推測と違い、ジャガーの縄張りにはっきりした境界がないことが既に示唆されています」

「ジャガーの縄張りはとても変則的で、過去に使われた調査エリアの何倍も広いのが普通です。ジャガーの密度や個体数に関して、これまで使われてきたほとんど全てのモデルが通用しないことになってしまいます」

 縄張りの範囲が誤って判断されていれば、ジャガーの密度は実際より高く推定され、保護の取り組みを阻むことにつながる。ジャガーもまた、IUCNのレッドリストでは近危急種なのだ。

「実際にはそんなことはないのに、とても健全で数も多いと思ってしまうこともあるのです」とコウセイロ氏。

 既に「アマゾンカム」は、ジャガーに関して価値の高いデータを提供している。

 2016年の3月から8月にかけて、3頭のジャガー(模様が1頭ごとに違うので区別できる)が、エコツーリズムのロッジ「レフジオ・アマゾナス」に近い約1平方キロの区域を訪れた。レインフォレスト・エクスペディションズが所有する宿泊施設の1つだ。コウセイロ氏は、3頭にルスベル(Luzbel)、トゥンチェ(Tunche)、チュヤチャキ(Chuyachaki)と呼ぶ。後の2つは森の悪魔から取った名前だ。

「この狭い範囲で、これほどジャガーが見られるとは普通思いもしません」とコウセイロ氏。「縄張りはどのくらい重なっているのでしょうか?」

5年後には哺乳類の完全な目録

 アマゾンカムはインターネット環境さえあれば誰でも閲覧でき、写真を分類して種の特定を手伝うことができる。

 これまでに蓄積された写真には、山のような種類の野生動物が写っている。ピューマ、ジャガランディ、オオアリクイ、バク、ハナグマ、ペッカリー。実際、「ビッグ・グリッド」のカメラは一帯の哺乳類をほとんど全て写真に収めている。例外は、群れで移動し、小道を避けているらしいヤブイヌくらいだ。

 5年が経つころまでには「哺乳類の完全な目録ができているでしょう」とコウセイロ氏は話している。

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「ビッグ・グリッド」による動物たちの貴重な写真13点

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