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絶滅危惧種・サシバはどんな鳥?(後編)

  • 2019年2月28日
  • NACS-J
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▲サシバは、日本では東北地方から九州地方で、低地の農村地帯(里やま環境)から山地で繁殖する。(写真:小玉和夫)

「サシバ」という鳥をご存じですか? 里やまで人間の近くに暮らす猛禽類です。身近な場所に暮らすサシバですが、日本にいるのは繁殖期で、冬は東南アジアなどに渡っていきます。日本、そして海を渡った越冬地でどんな暮らしをしているのか? なぜ遠くまで渡るのか? 近年少しずつサシバの生態が明らかになってきています。

越冬地での暮らしぶり

サシバの多くは、秋には東南アジアへと渡っていきますが、日本で越冬する個体もいます。

日本では、奄美大島以南の南西諸島で越冬します。これらの越冬地では、里やま的な環境でもサシバを見ることはありますが、採草地やサトウキビ畑などの開けた環境で、スプリンクラーや電柱にとまって狩りをする姿をよく目撃します。

越冬環境としては、草丈の低い採草地やサトウキビ畑などの農耕地とそれに接する林の存在が重要です。また、奄美大島や西表島などでは、カニなどの甲殻類を狩るために海岸でも見られます。繁殖地と違って餌運びの必要がないためか、越冬地ではのんびり暮らしているように見えます。「ピックィー」という特徴的な声が越冬地でもよく聞かれ、渡りが始まる3月ごろにはその頻度がますます高まります。

なぜ1種だけが渡るのか?

前編に書いたとおり、サシバ以外の同属3種は熱帯から亜熱帯に生息し、大規模な渡りをしません。ではなぜサシバだけが温帯から冷温帯である日本に渡ってくるのでしょうか?

サシバの越冬地であるフィリピン(マニラ)の平均気温は約26℃で、年間を通じて25~30℃とほとんど変化がありません。それに対して気温の季節変化が大きい繁殖地である日本では、6~8月にかけて一気に気温が上昇し、30℃を超える日も珍しくありません。その時期の日本では気温上昇によって活動的になるカエルやヘビなどの両生爬虫類や昆虫類が大発生します。

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▲左:フィリピン(マニラ)と日本の一年間の生物量(バイオマス量)の変化のイメージ図。日本の夏季はサシバの餌となる生物量がフィリピンよりも上回っているのではなかろうか。
右:里やまの生態ピラミッド。生態系上位種であるサシバを支えるためには、豊かな生態系が必要となる。(イラスト:水野麗羽)

おそらく日本のその時期はサシバの食物量(バイオマス)がフィリピンよりも上回るのかもしれません(上図)。その時期に日本の里やまで子育てをするように渡ってきたほうが繁殖に有利なのでしょう。これが仮説のひとつ目です。
それならば、東アジアのチャバネサシバやメジロサシバが渡らない理由の説明も必要でしょう。アフリカ起源のサシバ属はアフリカサシバからサシバを経て、メジロサシバとチャバネサシバに分岐したことが分かっています。地球の温暖化に伴い現在の温帯から冷温帯まで生息域を拡大した個体群がサシバに分岐し、その過程で熱帯から亜熱帯に定着していた個体群がそれぞれメジロサシバとチャバネサシバに分岐したのではないでしょうか。

現在の温帯から冷温帯で年間を通じて生息していた個体群がその後の寒冷化に伴い、そこでは越冬できずに南へ渡らざるをえなかった習性が現在に至るのではないかというのがふたつ目の仮説です。

繁殖を脅かす里やま環境の劣化

かつて沖縄県宮古島には、南下途中のサシバを食用にしたり、子どものおもちゃにするために狩猟する文化がありました。しかし、1972年の沖縄本土復帰により鳥獣保護法が適用され、それは密猟として取り締まりの対象となりました。

長年の保護活動の結果、今ではサシバは島の宝として大切にされています。その一方で繁殖地では、水田の圃場整備や耕作放棄、宅地や道路建設、メガソーラーや風力発電などのさまざまな開発により、生息地である里やま環境がどんどん失われてきています。
生態系上位種であるサシバを支えるためには、食物となる小動物の種の多様性はもとより、数の多さという総体的なバイオマスの高さが必要です。

サシバの繁殖地である里やまはサシバの生息を支える豊かな生態系が維持されている生態系サービスが高い場所です。サシバが繁殖する地域での水田耕作については、トキ(佐渡市)やコウノトリ(豊岡市)で実施されている、生態系サービスへの支払い(PES)のような営農者へのインセンティブの制度化・政策化が求められます。

また、繁殖、越冬、そして渡りといった生態についての知見を集積しながら、生物多様性を向上させるための戦略と政策、そしてその土台となる社会の構築を合わせて進めていく必要があります。

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▲岩手大学保全生物学研究室では、農地の周辺の草刈り(左)や杭の設置による狩場の創出、人工巣設置(右)などのサシバの生息環境創出のための取り組みを行っている。

東 淳樹(岩手大学農学部保全生物学研究室 講師)

出典:日本自然保護協会会報『自然保護』No.551(2016年5・6月号)

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