「第19回森のようちえん全国交流フォーラムin埼玉」が11月2日~4日、秩父市の椋神社周辺(秩父市下吉田)で開催され、3日間で延べ約800人が参加した。(秩父経済新聞)
晴天の秋空のもと、分科会は屋外で行われた
「森のようちえん」とは、自然体験活動を軸にした子育てや保育、乳児・幼少期教育の総称。同フォーラムは2005(平成17)年に始まった。年に1度、「森のようちえん」実践者や関心を持つ人たちが集まり、勉強会や情報交換、交流などを行う。参加者は保育・教育の実践者、子育て中の親、研究者、自治体関係者、森林関係、環境教育、移住促進、地域活性、オルタナティブスクール関係者などさまざま。
秩父地域には森のようちえんが2園あり、秩父市下吉田の「森のECHICA花の森こども園」葭田昭子園長が実行委員長、横瀬町の「タテノイト」舘野繁彦園長が副実行委員長を務めた。そのほか県内にある3団体、群馬県の2団体の関係者や保護者、約100人が運営に携わった。
開会式では、地元吉田の秩父屋台ばやし太鼓団体による屋台ばやしが披露され、参加者を歓迎した。北堀秩父市長、井上横瀬町副町長、黒澤皆野町長、大澤長瀞町長、森小鹿野町長からは各市町の紹介や森のようちえんの取り組みへの期待や祝辞が述べられた。
葭田実行委員長は「森のようちえんを支えようと秩父の1市4町が理解を示し、協力のおかげでこの子育てが実現している」と地域の協力への感謝を表した。会場の中心となった椋神社は、1884(明治17)年に起きた秩父事件の舞台としても知られる。秩父事件は、農民たちが負債の延納や税の減免を求めて蜂起した日本近代史上最大の農民反乱。歴史的背景を持つ場所でフォーラムが開催されることの意義にも言及した。
2日に行われた基調講演では、哲学者の内山節さんが登壇。内山さんがフランスで地元の子どもと釣りをした際、小学校高学年ほどの子どもが家庭でニワトリの世話や弟の子守などの仕事を責任を持って全うしており、子どもが家庭内で仕事(役割)を持つことで自信を持って過ごしていたという。内山さんは「現在の日本では『将来のため』と、子どもも、大人も、老後も、今を犠牲にしているのでは」と問いかけた。
3日にはテーマ別に30の分科会が行われた。テーマは、自然保育を中心とした幼児教育の実践に加え、子どもを取り巻く社会課題など多岐にわたり、参加者同士の活発な議論が行われた。4日の特別講演では社会学者の宮台真司さんをゲストに迎えた。森のようちえんに関する近著にも触れ、現代社会の問題が幼児期の教育に根ざしていること、その解決に「森のようちえん」が大きく貢献できる可能性について話した。
葭田実行委員長は「知識が先行しがちな現代だからこそ感性を育てることが重要で、自然に勝る教材はない。冒険する、没頭する、ぼーっとするという『3つのB』を大切にし、子どもも大人も体験を通じて自己を深める時間が必要。子どもの成長のためにはすぐに手を出さず、じっくりと見守ることが大事。家庭や自分の子どもだけでなく、地域全体や社会全体を俯瞰(ふかん)して見る視点を持つことができれば」と話す。
舘野副実行委員長は「自然環境を取り入れる「森のようちえん」的保育実践は、現代に失われつつある「地球とつながる感覚」を取り戻すために、子どものみならず大人にとっても重要。自然豊かな地方で実践されるため、教育移住につながるケースも多い。地方創生においても注目され、自治体による支援や認証制度も増えてきた。この流れが全国に、そしてより多くの子育て家庭に広まれば」と期待を込める。