全然聞き入れてくれない / (C)西野みや子/KADOKAWA
自分の親を「老害」と感じたことはありますか?
「老害」はネガティブなイメージが強く、気軽に使うべきでない言葉です。とはいえ、頭を悩ませている人が多いのも事実。
「老害」とまでいかなくとも、古い価値観を押し付けてきたり、若い人の行動をすぐ否定したり、周囲のことはお構いなしで自分勝手な行動をしたりする高齢の親の様子に、その要素が垣間見えることもあると思います。
そんな人にぜひ読んでほしいのが、西野みや子さん著の『わたしの親が老害なんて』。高齢の両親の問題行動に悩まされる女性の葛藤は、共感する部分が多くあります。まずはこの作品のあらすじをご紹介しましょう。
他人に迷惑をかける両親に「どうしたらいいの⁉︎」
お前のところはどういう教育をしているんだ! / (C)西野みや子/KADOKAWA
物語は、スーパーで高齢のお客さんが店員に理不尽に怒鳴り散らすところから始まります。その様子を見て、お客さんから出たのは「老害」という言葉。
老害って本当にいるんですね / (C)西野みや子/KADOKAWA
また、怒られてしまった学生のアルバイトも、「老害って本当にいるんですね」「昔の価値観を押し付けてくる人いますよね」と話します。
蘇る両親からの言葉たち / (C)西野みや子/KADOKAWA
…本当に困っちゃうね / (C)西野みや子/KADOKAWA
それ対して他人事ではない様子なのが、パート勤務の栄子(54歳)。思い出すのは、過去に両親から浴びせられた、古い価値観を押し付ける言葉の数々です。現在は娘が巣立ち、定年退職間近の夫と2人で暮らしている栄子ですが、近くに住む80代の両親の「老害」的行動に頭を悩ませています。
あれ、警備員さん? / (C)西野みや子/KADOKAWA
こんな店二度と来るもんか / (C)西野みや子/KADOKAWA
両親は娘の栄子だけでなく、他の人にも迷惑をかけるようになってきていました。飲食店で怒鳴り散らして警備員のお世話になったり、妊娠中の孫・美咲にも精神的負担をかけたり…。
いっそ両親から離れられたら… / (C)西野みや子/KADOKAWA
私って薄情なのかな / (C)西野みや子/KADOKAWA
どれだけ自分の気持ちを伝えても聞き入れてくれない両親から離れたいと思いつつ、「こんなことを考える私って薄情なのかな」と罪悪感を抱く栄子。長女としての責任感が彼女を縛っていました。そんなある日、栄子が務めるスーパーの近くで父親が車で人身事故を起こしてーー。
両親の「老害」化に悩む女性が出した答えとは?
著者の西野みや子さんにお話を伺いました。
相手の意見を尊重できるどうかが重要
――作品の冒頭でスーパーの店員に理不尽に怒鳴り散らす高齢のお客さんが登場し、「老害」と呼ばれていますね。この背景について、西野さんはどのように考えますか。
西野みや子さん:現代は昔よりも、一人の人間としてお客さん側から店員さんに思いやりが見られるようになってきました。そのため、「お客様は神様」と言われていた時代の感覚で店員さんに傲慢な態度をとってしまうお客さんが目立ってしまうのではないかと思います。
昔の価値観を押し付けてくる人いますよね / (C)西野みや子/KADOKAWA
――怒鳴られた店員のセリフに「昔の価値観を押し付けてくる人いますよね」とありますが、世代によって価値観が違うのはよくあることかと思います。一般的に「老害」と言われる人と、そうでない人の違いはなんだと思いますか?
西野みや子さん:年齢や上下関係などの立場に囚われずに、相手の意見を尊重できるかどうかだと思います。
親としての自信がついた矢先… / (C)西野みや子/KADOKAWA
子育てに口出ししてくるようになった両親 / (C)西野みや子/KADOKAWA
全然聞き入れてくれない / (C)西野みや子/KADOKAWA
――栄子の両親は、「相手の意見を尊重」できず否定ばかりするため、栄子は半ば諦めかけていますね。とはいえ、問題を起こす両親を説得しようと試みては、うまくいかずにイライラ…という繰り返しです。西野さんが主人公の立場だったら、両親にどのように接しますか?
西野みや子さん:私も同じように、なんとか自分の言うことを聞いてもらおうと躍起になるかもしれません。独身の頃、退職して地元に帰った私は祖父母の夕飯を作りに行っていたのですが、祖母と言い合いをすることが何度かありました。今考えると、心も住まいもあまりにも近かったように思います。祖母のことを思い通りにできると、自分の一部だと、無意識に考えていたのかもしれません。
距離を置き、自分の心を守るという選択肢も
結局私が何を言っても響かないんだよな… / (C)西野みや子/KADOKAWA
――作中では、主人公の栄子自身も娘の美咲から煩わしく思われる瞬間があります。現在、西野さんは30代とのことで、主人公の娘・美咲に近い立場かと思いますが、ご両親や祖父母に対して「価値観の違い」や「煩わしさ」を感じたことはありますか?
西野みや子さん:私も美咲同様、つわりが酷くてファーストフードしか食べられなかったのですが、相手に悪気はないものの「二人分食べないと」と言われたのが精神的にきつかったです。他にも、無痛分娩を視野に入れていましたが、「痛みはみんなが通った道だから」と母や祖父母からかなり反対を受けました。結局、近くに設備が整っているところがなく断念しました。ただ、私は美咲と違ってかなり強気な人間なので、「社会は女性の痛みを無視している」とずっと怒っていましたね。
ちょっと距離をおいてみたらどうかな / (C)西野みや子/KADOKAWA
あの家から離れる…本当にいいの? / (C)西野みや子/KADOKAWA
――親たちが高齢化して価値観や考え方が自分とズレてきたと感じた場合、そんな両親と上手に付き合っていくためには、どんなことを心がけたらいいと思いますか?
西野みや子さん:作中にも距離を置くという解決策が出てきますが、私も同じように、自分と親との間にきちんと境界線を引くことが大切だと思っています。相手を突き放すという訳ではなくて、間合いをとることで自分の心を守り、相手の意見を否定せず尊重できます。自分のことのように熱くならなければ、「ひと昔前はそうだったんだな」と相手の話を納得できなくとも理解することができるかなと思います。それがなかなか難しいことなんですけどね。
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「老害」とまで感じたことはなくても、親や年配の人の価値観や意見で否定されてモヤモヤした…という経験がある人は多いと思います。そんな時、お互いを尊重できるかどうかが大切なのですね。
取材・文=松田支信