摂食障害をご存知ですか?
体重や体型への強いこだわりや「痩せなきゃいけない」という強い思い込みから、極端な食事制限をしたり、食べても嘔吐を繰り返したりしてしまう病気です。
友だちが何気なく放った「変な脚」という言葉をきっかけに、摂食障害に陥ってしまった主人公の姿を描く『精神科病棟の青春 あるいは高校時代の特別な1年間について』。どこにでもいる女子高生が摂食障害になるまで、そして精神科病棟へ入院し退院するまでをリアルに描いたセミフィクションです。
作品を描いたのは、話題のコミックエッセイ『高校生のわたしが精神科病院に入り自分のなかの神様とさよならするまで』の著者であるもつおさん。ストーリーのベースとなったご自身の体験についてお聞きしました。
一風変わった入院患者との交流と主人公の成長
摂食障害に陥り、体重が33kgにまで減った高校2年生のミモリは、精神科病棟への入院措置がとられました。
そこで出会ったのは、廊下の手すりに倒れ込んでいる人、いつも手洗い場を掃除している人、つま先で歩いている人、毎夜泣き叫ぶ人…。「怖くて変な人しかいない」と、ミモリは新しい環境に絶望します。また制限が多い入院生活に、逃げ出したい衝動に駆られることも。
そんな日々を送る中、他の入院患者と少しずつ交流するようになるミモリ。
「ここは変だと思う。だけど、学校より家よりも、ちょっとだけ息がしやすい気がする」
一風変わった人たちの温もりに触れることで、彼女の気持ちに少しずつ変化が訪れるのです。
最初は不安や恐怖を感じていた精神科病棟
――16歳の時に摂食障害に陥ってしまったもつおさん。さまざまな要因があったと思いますが、当時ダイエットに歯止めが利かなくなってしまったのはなぜだと思いますか?
もつおさん:当時は、部活や受験勉強、友人との人間関係、習い事など、すべてにおいて努力しているつもりでした。だけど、どんどん心の病気によってできなくなっていって…最後に残ったのが「体重を減らす」ということだけでした。他に頑張れるものがなくなったことで余計に体重を減らすことに執着して、歯止めが効かなくなったのかなと思います。
――摂食障害の症状が悪化し、ついに入院することが決まってしまいますね。当時の心境を教えてください。
もつおさん:目の前が真っ暗になるぐらい絶望しました。母と離れることの寂しさと、精神科病棟の入院が想像できなくて、不安で堪らなかったです。
――実際に精神科病棟を訪れた時、第一印象はどのように感じましたか?
もつおさん:事前に先生に「病棟が古くて怖いかも」と言われていましたが、想像以上に古い建物で、中は薄暗くて…。第一印象は、「怖い!」でした。
――入院してから最も不安に感じたのは、どんなことでしたか?
もつおさん:自分の意思では外に出られない、退院できないことが一番不安でした。面会もできないしスマホも持ち込めなかったので、時間が過ぎるのがとにかく遅い。そして、それが明日以降も続く…怖かったです。
――そんな状況では、楽しみ・希望がなければ過ごせなかったのではないでしょうか。
もつおさん:本を持ち込むことはできたので、好きなコミックエッセイを何度も読んでいて、その時間は不安を忘れられました。あとは、毎日ラジオ体操が2回あって、その時間は何も考えなくて済むので、自分の中では結構楽しかったです。
心の温かい病棟の人たちに感謝を
――入院直後は病棟の人や他の入院患者さんが怖い、変な人ばかりだと感じて心を閉ざしていましたが、だんだん精神病棟にいる自分や周りの人を受け入れていきますね。そのきっかけは何だったのでしょうか?
もつおさん:最初は本当に入院を受け入れられなくて「すぐに退院する!」と勝手に思い込んでいたので、病棟の人達と仲良くすることはまったく考えていませんでした。すぐに退院できないと理解した時は絶望したけど、病棟の人達がすごく私を気遣ってくださって…。入院患者さん達も、みんなそれぞれ闘病で大変な思いをされている中で私に話しかけてくれたり、冗談を言って笑わせてくれたり…その温かさに気づいたところから変わっていったと思います。
――もつおさんが入院していた病棟には、年代も国籍も異なるさまざまな患者さんがいらっしゃいましたね。そうした方々と接する中で、心境の変化や気づきはありましたか?
もつおさん:入院中は特に自分のことばっかりで、退院できない不安やつらさを母にぶつけたことが何度かありました。面会できない時も病棟に手紙を渡しに来てくれていた母を見た年上の患者さんに、ある日「母のことを考えてあげて」と言われたことがあったんです。当時は余裕がなくて少しムッとしたのを覚えています。だけど、その言葉がずっと残っていました。作中にも登場する、母にツラく当たった謝罪と日々の感謝を書いた手紙を渡すきっかけになったので、あの時の患者さんには感謝しています。
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ご自身の辛い経験を振り返りながら描くことで、主人公のミモリと同様、一歩前に進めた様子のもつおさん。この作品は体験記ですが、いつも“何か”に頑張っている私たちの背中をそっと押してくれるような温かい作品だと感じます。
取材・文=松田支信