「一人暮らしをしている子どもが、どのような防災対策をしているか知っていますか?」
「知っている」と即答できる方は少ないかもしれません。しかしもし被災したら一番に気になるのは一人暮らしの子どもの安否ではないでしょうか。
子どもと防災対策を一緒に行えば、万一被災しても「防災対策を一緒にやってあげればよかった」という後悔はしなくて済みます。離れて暮らしているからこそ、不安材料は一つでもなくせると良いですよね。
JA共済連(全国共済農業協同組合連合会)は一人暮らしをする全国の15歳〜34歳の男女400人(以下一人暮らし若年層)と一人暮らしの子どもを持つ40歳以上の男女400人を対象に、一人暮らしでの防災に関する意識と実態について調査しました。その結果をご紹介しましょう。
災害時、離れて暮らす子どもは大丈夫ですか?
まず一人暮らしの子どもを持つ親400人に「一人暮らしの子どもの地震への不安を感じますか?」と聞いてみると、69.5%の方が「不安を感じる」と答えています。
次に、「一人暮らしをする子どもの防災対策はできていると思いますか?」と聞いてみると、77.8%の方が「防災対策をしていないと思う」と答えています。「防災対策ができていないと思う」「ライフラインを確保できずに困りそう」などの心配の声も相次ぎました。離れて暮らす子どもが、いざという時に適切な行動が取れるのかが心配なようです。
約8割の方が「最も不安な自然災害は地震」と回答
次に一人暮らし若年層に「一人暮らしをする上で不安に感じる自然災害は何ですか?」と聞いてみると、78.3%の方が「地震」と答えています。
「一人暮らしになって地震への不安が高まりましたか?」と聞いてみると62.3%の方が「不安が高まった」と答えています。男性は52.5%の方が「不安が高まった」と答えて、女性は72.0%の方が「不安が高まった」と答えたことから、女性の方が不安を感じやすい傾向にあるようです。
次に、具体的にどのような防災対策をしているのかを聞いてみましょう。
もしも被災したら…イメージしたことはありますか?
一人暮らし若年層に「防災対策を十分に行っていますか?」と聞いてみると、「行っている」と答えた方は16.8%に留まりました。地震に対して不安を感じながら、防災対策を十分に行っている方は少ないようです。
防災対策を十分に行わない理由を聞いてみると「具体的な対応策がわからないから」と答えた方が最も多く、次いで「お金がないから」「面倒だから」と続きました。
次に一人暮らし若年層に「自分が被災することを具体的にイメージしたことがありますか?」と聞いてみると、66.8%の方が「イメージしたことがない」と答えています。さらに「被災した後の生活の立て直しにいくらお金がかかるか考えたことがありますか?」と聞いてみると74.5%の方が「考えたことがない」と答えています。
災害リスクアドバイザーの松島康生さんは、一人暮らし若年層の66.8%の方が「自分が被災することを具体的にイメージしたことがない」と回答したのを受け「イメージしたことがないのではなく、イメージできないのではないか」と話しました。
「今、25歳未満の人は東日本大震災当時は小学生以下で、ニュースを通じて見聞きしている人が多く、親世代も地震や津波の怖さや悲惨さを話したがらないため、自分が被災するイメージができないのではないかと考えます。その一方で、学校での防災教育は正しく受けているので、防災知識もあり、身を守るという意識も身に付いています。だからこそ、自分の防災対策が、習ったことに比べて十分ではないと感じる人が多いのではないでしょうか。」
約7割の方が「防災について学びたい」と回答
次に一人暮らしの子どもを持つ親400人に、一人暮らしの子どもとの災害対策に関するコミュニケーションについて聞いてみました。
「一人暮らしの子どもと防災について話し合っている」と答えたのはわずか28.0%の方でした。さらに「一人暮らしの子どもの防災対策や防災用品の備蓄を確認したことがある」と回答した方はわずか20.8%に留まったのです。
親子共に地震に対して不安を抱えているにも関わらず、十分に防災対策を行っていたり被災した際の対応を親子で一緒に確認したりできている方は少ないようです。
一人暮らし若年層に「防災についてもっと学びたいですか?」と聞いてみると71.3%の方が「学びたい」と答えています。さらに「実際に大地震の揺れを体験して学べる場に参加してみたいですか?」という質問には、51.3%の方が「参加してみたい」と答えています。
防災について学び、防災対策を十分にしたいと考えている若年層が多いようです。
「防災対策というと、つい水や食料などの備蓄を考えがちです。いわゆるハード対策が優先してしまうのですが、もっと重要なのは、「人」に対してのソフト対策です。学校で教わる防災教育をベースにして、大地震が起きたらどうなるのか?というストーリー、津波は高波や高潮とどう違うかなどのような話を親子でしていただきたいと思います。」(松島康生さん)
親子でもしもの時に備えませんか?
親子での防災対策へ関心があっても、仕事に家庭に忙しくしているとつい後回しにしてしまう方も多いのではないでしょうか。子どもと予定を合わせるのが難しい方もいるかもしれません。
親子で防災対策について考えるきっかけとなるイベントが開催されるので、ご紹介します。
2024年10月19日(土)・20日(日)に「ぼうさいこくたい」が熊本県にて開催されます。これまでの自然災害について振り返ったり、防災対策を学んだり、国民の防災意識を高めることを目的としたイベントです。
令和6年の「ぼうさいこくたい」は「復興への希望を、熊本から全国へ〜伝えるばい熊本!がんばるばい日本!」をテーマに開催。
会場は熊本城ホール、熊本市国際交流会館、花畑広場の3箇所で、入場料は無料です。さらに一部企画はオンラインでの参加も可能なので、会場から離れた場所に住んでいる方も自宅からご参加いただけます。
JA共済連が出展する『ザブトン教授の防災教室』では、イス型の地震動体験装置 「地震ザブトン」により、東日本大震災や熊本地震など、過去に発生した大地震の揺れや、今後想定される南海トラフ地震などの揺れを疑似体験することができます。
一人暮らしの子どもと防災について話し合う機会はなかなかないでしょう。親子での「ぼうさいこくたい」への参加は正しい防災対策を親子で共有し、安心して一人暮らしの子どもを見守れるきっかけになるかもしれません。また子どもと予定が合わない場合は、ご自身だけで参加するのも良いでしょう。
「ぼうさいこくたい」に参加して得た学びを子どもにしっかり伝えられれば、子どもの防災対策への意識に変化が起こるかもしれませんね。
文=河村夢美
松島康生さん
災害リスク評価研究所 代表(災害リスクアドバイザー)
国や自治体向け防災コンサルタントのプロデューサーとして地震被害想定調査、ハザードマップ、地域防災計画の業務に携わり、国土交通省や文化庁の防災委員も務めた。2011年、東日本大震災を契機に行政から民間にシフトし「災害リスク評価研究所」を設立。